水産研究本部

試験研究は今 No.442「ニシンの産卵場所を造る」(2001年2月9日)

ニシンの産卵場所を造る

  近年、日本海沿岸では沿岸性ニシンが期待を集めています。1999年には留萌市礼受で数十年ぶりの、いわゆる“群来(くき)”が確認され、マスコミ報道等でたいへんな賑わいをみせたのも記憶に新しいところです。

  この留萌海域と厚田村嶺泊(ここにも産卵が確認されている)を調査したところ、ニシンは浅い水深に成育している海藻に卵を産み付けていることがわかりました。

  私たちは、現在進めている種苗放流によって資源が増大し、これに伴って産卵場が不足すると考えられることから、ニシン産卵藻場造成技術開発という事業に取り組んでいます。造成する対象をモク類として、これまでの研究から幾つかの造成条件がわかってきたので、ここで紹介します。

流れはゆるく

図1
  どのような場所にモク類を造成したらよいかを考えるとき、その場所の波浪、流れの強さが一つの目安になります。というのも、いくらモク類を造成できたとしても、その後の波浪の強さによって吹き飛ばされては、元も子もないからです。では、どのような条件ならモク類は生育可能なのでしょう。

  これについて、モク類の生活史の上で2つの段階に着目しました。一つ目は幼胚と呼ばれる、受精後間もない時期で、二つ目は成体、親の時期です。
 上の図は、ウガノモク幼胚の付着と流速の関係を示しています。これから、流速7.5センチメートル/秒以下の時付着可能であることがわかります。つまり、幼胚が着生する夏期に、流速7.5センチメートル/秒以下となる海域が必要となるのです。

次に成体の特性を、全長・流速・抗力についてまとめると、抗力=1.747×全長1.316×流速1.482という式が得られました。この式に全長の年変化と海域の流速変化を代入して抗力を求め、実験から得られた約10キログラム重という成体の付着力を越えない流速域が生育適地と考えられます。この式から、流速が遅いほど抗力が小さくなることがわかります。

方法

   流れがゆるい場所が造成適地であることがわかったので、次はどのような方法で造成できるかが問題となります。これには2通りの方法を考えました。
 
  (1)一つは現在天然で生育しているモク類群落内に、モク類を着生させるコンクリート盤(以下、基質)を設置し、着生したモク類ごと基質を目的の場所に移設する方法です。この方法は、天然の群落を利用するので基質へのモク類着生が確実ですが、2回の設置工事が必要となっています。

  (2)もう一つは、先に目的の場所に基質を設置し、その基質の上に他から持ってきたモク類をくくりつけ、その場で着生させる方法です。この方法では1度の設置工事で済みますが、持ってくる海藻量や雌雄の比率により着生状況が変化しやすいという要素を含んでいます。
    • (1)と(2)図解説明
 いずれの方法も現在(平成12年7月~)現地試験中で平成13年夏には二つの方法の良否が判明するはずです。(1)の方法については基質にモク類が着生し、移設するところまで確認しています。

適温・適所

  造成する環境や方法がわかったので、最後に、何時それを行えばよいかを決めなければなりません。平成11年度にも現在のような基質造成試験を行ったのですが、この年の夏は例年にない猛暑と高水温が続き、前年度の予備試験の結果から決めた造成試験実施日には、すでに卵の放出が終わってしまっていたようなのです。その結果、基質へのモク類着生は見られず、試験は失敗に終わりました。このときの原因を考えると、高水温によりモク類の成長・成熟が早く進み、卵の放出も早く終了したと思われます。このことから、海水温の変化から造成適期が求められると考えました。

  そこで平成12年の夏に小樽市銭函(ウガノモク)と余市町港海域(フシスジモク)に水温計を設置し水温を計測するとともに、試験用の小型基質を約2週間おきにモク群落内に設置しました。基質は初秋にすべて取り上げ、表面に着生したモク類の幼芽を計数しました。これらから、造成に適した時期を、水温との関係で表すことができます。

【ウガノモクについて】
  早期に基質を設置した場合、他の海藻に基質表面を覆われ、ウガノモクの着生が妨げられてしまいました。これから、最適な基質の設置時期は6月10日頃から6月30日頃の間で、これを水温に対応させると約13~21度の間となることがわかりました。水温が約13度に達したころ基質表面の雑海藻除去を行えば、ウガノモクの入植が見込まれます。

【フシスジモクについて】
  最適な基質の設置時期は7月30日頃より前であれば良いことがわかりました。ただし、より確実さを期すのであれば、6月30日頃から7月30日頃の間で、これを水温に対応させると約16~22度の間となります。また早期に基質を設置した場合でも、水温が約16度に達したころ基質表面の清掃を行えば、確実なフシスジモクの入植が見込まれます。

今後の課題

  卵の放出時期をより確実に把握するためには、生殖器床内の卵の成熟度合を明らかにすることが重要です。今後、生殖器床の断面を観察し、卵の成熟度合と水温の関連を明確にする必要があります。また、水温を指標とした造成時期の決定について、他海域(厚田村嶺泊等)での実証を行い、より確実なものとすることも重要と考えます。

(中央水産試験場 水産工学室 金田 友紀)