水産研究本部

試験研究は今 No.446「厚田村におけるニシンの産卵状況について」(2001年4月10日)

厚田村におけるニシンの産卵状況について

  一般に太平洋ニシンは比較的浅い場所の藻場に産卵することが知られています。平成8年から実施している日本海ニシン資源増大プロジェクトで調べている石狩湾系ニシンも、厚田村や留萌市沿岸の水深1メートル以浅にあるスガモ(海草)やウガモノモク、フシスジモク(海藻)に産卵することが分かってきました。中央水試が担当している厚田村沿岸では、これまで複数の産卵床を発見してきました。その中には、嶺泊のように平成10年から12年にかけて続けて産卵が確認された場所と、産卵規模は大きくても年によって場所が異なる場合があります。毎年、繰り返し産卵床として使われる場所の特徴は何か、また、年によって産卵が行われる場所の特徴は何かについて、研究を続けることで、ニシンが産卵場所を決める仕組みを明らかにできればと考えています。

  これまでの調査では、ニシンが卵を産み付けるのはスガモが最も多く、次いでウガノモクやフシスジモク、あるいはアカバギンナンソウなどでした。これらの海藻草類の群落は厚田村沿岸に発達している水深1メートル以浅の平磯の上にたくさんあります。このようにニシンの産卵基質として使われる海藻草類は沿岸に広く分布していますので、海藻草類の量や組成によって産卵床の場所が決まるようには思えません。

  ニシン曇りという言葉があるように、ニシンの産卵(群来)が起こる状況は、凪ぎで、どんよりとした曇りの日が多いと言われています。このような時には、普段波が荒く、泳いで行くことが困難な浅瀬にも、ニシンが入り易いと思われます。実際に、毎年産卵床が形成される嶺泊で産卵時期の波高を調べた結果でも、産卵が行われた時期は波が低い傾向を示しています。また、嶺泊では、沖から浅瀬へと続く溝があり、これがニシンの通り道になっている可能性があります。

  今年は、例年になく寒く時化の多い冬でした。嶺泊に設置していた水温計は2月にはほとんど0度あるいはそれ以下を示しています。これは、産卵床となっていた平磯上が結氷し、氷に被われていたことからも伺えます。また、海面に降った雪があまりに寒いために溶けずに積み重なり、2メートルほどの厚さでシャーベット状になり、これが岸から500メートルほど沖まで続いて、潜水観察も困難な状況でした。厚田沖では、2月からニシンが取れ始めたのですが、嶺泊ではごく少数の産卵があっただけでした。おそらく結氷や降雪のために、ニシンも浅瀬に入れなかったと思われます。

  氷が溶けた2月下旬から、毎週観察を行ってきました。3月上旬に、嶺泊船揚場に近い場所で新たな産卵が観察されましたが、卵の密度は例年に比べるとかなり低く、また溝の近くでは全く産卵はありませんでした。この時期までに、望来川の南側で海岸線に沿って100メートル、幅10メートルほどの範囲にパッチ状に産卵床が形成されていましたが、他の場所では観察されていませんでした。

  ニシンは同じ大きさの群で来遊し、漁期の始めには大型個体が、後半には小型個体が漁獲されることが知られています。厚田村でも、3月中旬になると小型個体が獲れ始めました。また、連続して長期間獲れるのではなく、しばらく間をおいてまた獲れたりします。外国の研究者はこのようなニシンの来遊をWave(波)と呼んで寄せたり返したりする様子を表現しています。しばらく漁獲がなかった厚田村で、3月25日と26日に、厚田と古潭の間に限って約8トンの漁獲がありました。それも、浅瀬に網をかけた漁業者だけが獲れたということで、早速、26日に調査を行いました。

  その結果、青島と呼ばれる地域で、海岸線に沿って250~300メートル、沖方向に150~200メートルの広い範囲で産卵が行われていることが分かりました。卵の量もかなり多く、スガモの葉に2層から3層に重なっている場所もありました。卵の観察から、26日の朝に産卵があったと推定しました。この日は、朝から凪ぎで波はほとんどなく、これまで言われていたように曇りの日でした。

  これまで、ニシンの産卵が確認されている場所の特徴に淡水の流入があります。嶺泊や望来、そして今回の青島の場合も、小さい河川が流入し、付近に塩分の低い水塊が存在していました。ニシンが浅瀬に入れる状況は、波のない凪ぎの状況であると述べましたが、そのような場合には、塩分の低い水が比較的長い時間、狭い範囲の水塊となっています。ニシンにとっては少し移動するだけで塩分濃度が大きく変わることから、そのような場所がよりはっきりと分かるのだと思われます。今年は、フィンランドのニシン研究者であるカーリア博士(写真1)を招いて、厚田で一緒に調査を行っていますが、カーリア博士はこのような低塩分の水がニシンを誘引し、また産卵を誘発すると考えています。青島の産卵床も、河川からの流入した低塩分の水塊の範囲と濃く卵が付いていた範囲が一致しており、博士の仮説を支持していました。

(中央水産試験場資源増殖部)
    • 写真1 フィンランドから来道されているカーリア博士

      厚田村嶺泊で調査時の様子です。手に持っているのはニシンではなく博士が素手で捕まえたメナダです。