水産研究本部

試験研究は今 No.445「川に放流したニジマスはどの位移動するのか」(2001年3月23日)

川に放流したニジマスはどの位移動するのか

  ここ数年来の釣りブームにより、毎年多くの釣り人が北海道を訪れ、フライやルアーフィッシングを楽しんでいます。我々が調査を行っている阿寒湖では北海道の特産魚であるヒメマス、イトウ、アメマスが生息していることで知られており、特にアメマスは有名で、本州からも多くの釣り人が訪れています。また、阿寒湖の水が流れている阿寒川では、毎年ニジマスの放流が行われています。

  この釣りブームを背景として、遊漁者が年々増加するに従って漁獲強度が強くなるとともに、釣り上げた魚をキープする遊漁者が多く、放流後短期間で魚影が見られなくなってしまいます。

  このため、漁業管理者である阿寒湖漁業協同組合では遊漁資源の有効利用を考慮した資源管理を考えていますが、国内では河川という狭い水域で限られた資源を有効に利用するための研究はあまり行われていない現状にあります。そこで、遊漁資源の有効利用を目的として放流ニジマスの行動に関する調査を行ったので、その結果の一部を報告します。
  調査河川は、阿寒湖漁業協同組合が管理を行っており、一般の遊漁者は釣りが出来ない阿寒川水系のイベシベツ川を選びました。イベシベツ川は阿寒パンケ湖から阿寒湖に流入する河川で、川の長さは約3キロメートルです。パンケ湖から流れた水は石の間を伏流して地表に現れます。このことから放流魚は上流にあるパンケ湖まで行くことができません。また、下流の河口には養魚場があり、その取水のために堰堤を設置しています。したがって、川の水は池に流れ込んでいるため、降河した魚は池に入るので発見は容易にできます。

  放流魚であるニジマスは、北海道では一般的な釣り魚として親しまれています。放流魚は位置がわかるよう、背鰭下にラジオテレメトリーと言う発信器を写真1のように装着して、図1の河川図にある地点に10尾放流しました。

  放流場所の写真を下に載せました。イベシベツ川は樹木に覆われた緑豊かで、美しい清流です。

調査結果

  イベシベツ川に放流したラジオテレメトリー標識魚の発見には専用の受信機を使いました。放流後しばらくの間は受信機でおおよその位置がわかれば、肉眼で発信器を着けたニジマスを確認できます。しかし、発信器に藻が付着してくると肉眼での確認は困難になります。そこで、受信機の方向性を高めるスイッチを使って位置を推定します。その結果、6月12日に放流したニジマスは翌日には図1の位置に移動していました。ニジマスは全て下流に移動しましたが、その移動距離は極めて短く、放流点付近から支流チクショウベツ川合流点下までの範囲でした。その移動距離は最も遠くに移動したニジマスでも放流点から約50メートルでした。
    • 図1
    • 図2
  ニジマスが定着した場所の河川形状は、川に倒れている倒木の下や側、また、木のカバーが川に覆い被さって日陰になっている下、水深があって岸がえぐれている所、また、大きな岩の下などです。恐らく、外的に狙われにくい場所を選んでいると考えられます。我々が調査する時は、川を歩いて位置確認や水量、水深を計ります。その時は定位置から移動しますが、また戻ってきます。その後の調査で、いったん住み着いた場所に引き続き生活することが明らかになりました。しかし、8月には図2のとおり、2個体が上下流に移動することも確認されました。調査期間中の残存状況を見ると6月放流から8月までは90パーセントの残存率を示しました。しかし、8月中旬以降、受信される魚の数が減少し、10月には2尾だけになり、この要因としては獣、大型の魚による捕食が考えられますが、明らかではありません。発信器内の電池寿命のため10月27日に調査を終了しました。

  今回の調査から、放流したニジマスは直後に移動した後はほとんど移動しないことがわかりました。また、多くの個体は毎回同じ位置で確認できました。これらの結果は、遊魚資源の管理をするうえで、有益な資料になると考えられます。

(水産孵化場 湖沼管理科長・坂本博幸)