水産研究本部

試験研究は今 No.450「礼文島における稚ウニ発生状況」(2001年6月14日)

礼文島における稚ウニ発生状況

  ウニ類は、礼文島の漁業にとって金額・着業者数とも多く、重要な水産資源です。さらに、ウニを楽しみに島を訪れる観光客も多く、観光を陰から支える役割も果たしています。しかしながら、ウニの資源は必ずしも安定しているとは言い難く、時に大きな減少を招いて漁獲量が激減した事もあります(図1)。
    • 図1
  一般的に、ウニ漁業の漁獲率は高いと言われます。礼文でも昭和60年代には資源の90パーセント前後を漁獲していたと推定されます。それでも安定した漁獲を続けることができるのは、島の豊かな自然の恩恵であり、ウニの発生と成長の良さに支えられていると考えられます。その発生の良さを確かめるために、稚内水産試験場では、1984年から礼文の赤岩地区(図2)で稚ウニの発生量を調べてきました(図3)。稚ウニとは、殻長1センチメートル以下の小さなウニを指しています。
    • 図2
    • 図3
  夏(6~7月)の調査の結果を青で、秋(9~12月)の結果を赤で示しています。1987年は夏・秋ともに多くの稚ウニがみられましたが、翌年になると少なかったりと、年によってかなりの変動があるようです。最近の5年間では、1997年には多かったものの、それ以外の年にはあまり見つかりませんでした。

  1993年に赤岩地区の道路の拡張工事がありました。調査をしていると、近年、ここの導流溝が徐々に砂で埋まり始めており、調査場所の環境悪化が心配されます。

  最近稚ウニが少ないのは、調査場所の環境悪化のせいなのか確かめるために、礼文島南端のベンサシ地区と、隣の利尻島の湾内地区(図2)で1997年から行っている調査の結果と比較しました(図4)。すると、ベンサシ(図4の青線)は、赤岩とほとんど同じ変化をしています。このことから、このような年変動は赤岩だけでなく、礼文の広い範囲で起こっていると考えられます。また、赤岩の稚ウニ発生が低調なのは砂で埋まってきたせいだけではないようです。
    • 図4
 利尻の湾内地区は、もともと礼文の赤岩に比べて稚ウニの少ない場所ですが、それでも1997・1998年には稚ウニが見つかっていました(図4の赤線)。しかし、1999・2000年にはほとんど見つかっておらず、特に2000年には10平方メートル内に1個体も見つかりませんでした。

 このように、礼文と利尻では稚ウニ発生の傾向に多少の違いはあるものの、1999年と2000年の稚ウニの発生が低調である点で共通しています。利尻・礼文で共通しているということは、この海域全体に及んでいる可能性もあります。

 このような広い範囲に変動を及ぼす要因として水温との関係を調べたところ、「春から初夏の水温」と「稚ウニ発生の年変動」との間に統計的な関係があることがわかってきました。現在、そのメカニズムの解明のため、飼育試験を実施しています。将来的には、水温のモニタリングから稚ウニ発生の予測を目指しています。

  ・なお、本文中の稚ウニ発生年数は、説明を簡単にするために調査年を発生年としていますが、正確には前年の秋に発生しています。ご了承下さい。

(稚内水産試験場資源増殖部 瀧谷明朗)