水産研究本部

試験研究は今 No.656「日本海南部の河川に放流したサクラマスについて」(2010年01月13日)

日本海南部の河川に放流したサクラマスについて

 生鮮のサケマス類が流通しない春季に、北海道沿岸で漁獲されるサクラマスは重要な魚種です。しかし、その漁獲量は年々減少していることから、道内各地のふ化場からサクラマス幼稚魚を放流し、資源の回復を目指しているところです。

  サクラマスは生まれてから1年半河川で生活した後、体長13センチメートル程度の幼魚(スモルト)となって海に降ります。サクラマスの放流には大きく分けて、体長5センチメートル程度の稚魚を放流する方法と、降海前の幼魚を放流する方法があります。飼育コスト面では稚魚放流に、放流効果の面ではスモルト放流に分があるとされています。近年は社会的にもエコの流れとなっていますが、サクラマスの放流においても、飼育コストのかからない稚魚放流が見直されるようになってきました。水産孵化場では「自然再生産資源の造成効果の検証」という試験課題の中で、資源を有効に利用するため、親魚の遡上や産卵環境及び幼稚魚の生息環境などを総合的に評価し、新たな放流技術の確立や自然再生産による資源の造成手法を検討しています。ここでは、日本海南部の河川で得られた2008年の稚魚調査の結果について紹介します。

  日本海南部の見市川、冷水川及び相沼内川(図1)において、5月から10月にかけて投網と電気漁具によってサクラマスを採捕しました。5月の調査の後、見市川と相沼内川には水産孵化場道南支場で飼育したサクラマス稚魚を放流しました(表1)。
    • 図1
      図1 調査河川の位置
    • 表1
      表1 調査河川と稚魚放流の有無
  各河川の調査定点における稚魚の生息密度の変化を図2に、現存量と平均体重の変化を図3に示しました。保護水面である見市川では放流前の5月に前年に遡上した親魚由来の稚魚が少ないこと、放流後の8月でも稚魚の生息密度は低くかったことから、放流した稚魚の定着性が極めて悪かったことが分かりました。また、他の河川より夏季の現存量が低いことからも、餌環境や生息環境などの制限要因が働き、サクラマス稚魚の定着性を妨げているのかも知れません。冷水川の生息密度は季節的に減少しましたが、秋季でも他の河川より高い生息密度が保たれていました。ただし、夏季から秋季にかけての成長停滞や現存量の低下から考えると、冷水川の収容力を超えたサクラマスが生息していた可能性が考えられます。このことは、サクラマスを放流していない一般の河川でも、野生魚の生息数の多寡によって密度依存的な成長停滞が起こることを示唆しています。相沼内川では前年の親魚遡上期に最下流の魚道が土砂で閉塞していたため、放流前の5月の調査でサクラマスは採捕されませんでした。生息密度は稚魚放流後の夏季から秋季にかけて急激に減少する傾向にありました。生息密度の減少には自然減耗の他に釣りなどの人為的な影響も含まれているのかも知れません。実際、調査中に多くの釣り人の姿を見かけましたし、放流した稚魚がどれくらい釣られてしまうのかについても興味深いところです。
    • 図2
      図2 生息密度の季節変化
    • 図3
      図3 現存量と平均体重の季節変化
  このように、日本海南部には放流した稚魚の定着性が悪い河川や放流しなくても野生魚が高密度で生息している河川があることなどが分かりました。今後は、サクラマスが「いる川」と「いない川」にはどのような違いがあるのか検討し、野生魚の保全や放流技術の確立に役立てていこうと考えています。

(水産孵化場道南支場 大森始)

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