水産研究本部

試験研究は今 No.714「チヂミコンブ養殖試験について(続報)」(2012年6月1日)

はじめに

  チヂミコンブ養殖試験については「試験研究は今No.690(チヂミコンブ養殖試験について)」の中でご紹介いたしました。今号では平成23年度職員研究奨励事業(提案部門技術支援型)のなかで、宗谷漁協青年部、宗谷漁協、稚内水産試験場の3者共同で行ったチヂミコンブの促成養殖(養殖開始から1年以内で収穫する方法)試験(写真1)についてご紹介いたします。
    • 写真1

チヂミコンブの種づくり

  チヂミコンブはマコンブなどと同様に、短日(昼が短く、夜長い)の光周期で養成すると子嚢斑(試験研究は今No.651の写真参照)ができ、成熟することが分かっています(図1)。養殖開始から1年以内での収穫を目指す促成養殖では、なるべく早く養殖を開始する必要があり、そのためには少しでも早めに採苗することが必要です。そこで未成熟のチヂミコンブを短日条件下で養成し、天然のチヂミコンブより早く成熟させ、通常より早めに採苗して種苗を育成しました。
    • 図1

宗谷漁協青年部による養殖試験

  以前ご紹介した養殖試験(試験研究は今No.690)は主に利尻島のコンブ養殖施設(延縄式)を用いて行っていましたが、平成23年度の養殖試験はチヂミコンブの主産地である宗谷漁協管内で行いました。しかし、宗谷には利尻島にあるような延縄式のコンブ養殖施設がないため、比較的簡易で安価な「立て縄式」の養殖施設(図2)を用いて試験を行いました。

  1~2センチメートル程度に生長したチヂミコンブ種苗(写真1の左上)を養殖ロープに挟み込み、平成22年12月に水深約5mの海に沖出しして養殖を開始しました。養殖開始して約7ヶ月後の6月に養殖施設を回収し、養殖したチヂミコンブの葉長や重量などを測定しました。その結果、今試験のチヂミコンブの葉長は60~70センチメートル、葉幅は5~6センチメートル程で平成21年に利尻島で行った促成養殖試験(平均葉長約180センチメートル、葉幅約14センチメートル)の時のように大きく生長しませんでした(図3)。あまり生長が良好ではなかった要因はいろいろ考えられますが、養殖密度が高すぎたことも1つの要因ではないかと考えられました。それを解消するためには、養殖期間中に間引きを行い、人為的に養殖密度を調整する必要がありそうです。

  養殖を開始して約1年後の平成23年12月にも養殖チヂミコンブを採取して生長状況を観察しました。採取したチヂミコンブの7割以上が葉状部の根本近くに新しい葉(新葉)が見られ、再生長していることが確認できました(写真2)。このことから宗谷海域では促成養殖ではなく、立て縄式養殖施設を用いた2年養殖(養殖を開始して約18ヶ月で収穫)ができる可能性も考えられました。
    • 図2
    • 図3
    • 写真2
      写真2 再生長した養殖チヂミコンブ

      (平成23年12月採集)

おわりに

  平成23年度のチヂミコンブ促成養殖試験では当初想定していたほどの良好な生長はみられませんでしたが、これは決して失敗というわけではなく、宗谷海域でのチヂミコンブ養殖に関する貴重な情報が得られたと考えています。チヂミコンブ増産のためにはまだまだ問題点はたくさんありますが、漁業者や漁協のみなさんと協力して一歩ずつ前進していきたいと思います。

(稚内水産試験場 合田浩朗、川井唯史)

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