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北海道林業試験場報告-第15号別刊-

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第15号別刊(昭和53年3月発行)

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カラマツ人工林の林分生長モデルに関する研究
目次,緒言(PDF:18KB)
第1章(PDF:193KB)
第2章(PDF:3.40MB)
第3章(PDF:2.52MB)
第4章(PDF:3.79MB)
第5章(PDF:348KB)
文献,Summary(PDF:117KB)
小林正吾
P1~164
一斉人工林においては,立木密度の管理が施業の中心となる。坂口(1961)は,人工林の間伐形式と,目標とする生産材の関連について詳しい論述を展開し,間伐後の立木本数は,経営目的に応じて決定されるべきであると指摘している。この指摘を待つまでもなく,与えられた生産目的を達成するために,最適な密度管理体系を選択して採用することが,育林経営技術の中心課題といえよう。
間伐形式を主とする施業法の選択,あるいはその施業効果を判定する際に有効な方法の1つとして林分収積表の利用があげられている(嶺 1955,西沢 1961)。本研究の直接の対象である北梅遺地方のカラマツ人工林についての林分収積表は,すでに10種以上も調製され実用に供されている(松井 1966)。しかし,これらの収棲表は,いずれも対象地域に成林している現実林分の測定位に基づいて調製された地方的色彩の濃い基準的林分収榎表である。調製林齢の範囲も造林歴の浅さを反映してせいぜい40年生にとどまっている。現在,北海道地方のカラマツ人工林の育林は.既往の施業体系(短伐朔-小中径材生産)から脱皮して,新たな施業体系(長伐期-大径材生産)への転換を図ることが当面の課題とされている(小林 1973, 1976c)。しかし,既往の施業体系を前提として調製されてきた林分収獲表から新たな施業法への指針を求めることは難しい実情にある。
また,安藤(1968)によって提示された密度管理図は,林分収穫量が立木密度(本数密度)の函数として与えられており,林分施業を選択する際の指計としてきわめて便利なモデルである。しかし,密度管理図の骨格である等樹高線の決定には,現実林分の測定による平均値が用いられ,この点では林分収穫表の場合と同様な事情にあるといえる。
一方,近年における電子計算機の発達を契機として,後述するようにより詳細に林分の施業効果をあらかじめ判定できるようなシミュレーションを手法とする林分生長モデルの研究が発展してきた(NEWNHAM. 1964,NEWNHAM and SMITH 1964,LEE 1967,MITCHELL 1969,LIN 1970,BELLA 1971,ARNEY 1972など)。これらの林分生長モデルは,林分の生長因子を平均値で表示する林分収榎表や密度管理図と異なって,林分内の単木の生長を基礎にして林分生長を実現させるもので,立木密度などの変化に対応した動的な林分生長の予測を可能とするものである。
北海道地方のカラマツ人工林について,大径材生産を目標にした新たな施業法の方向づけをするという実際的な課題が本研究を進めた背景になっている。しかし,先に述べたような事情から当面はその林分施業の選択方法の確立が中心的な課題となる。これに適切な手段を提供すると考えられる林分生長モデルについて,その構成方法とそのシミュレーションによる林分収穫量の予測法についての研究を取り上げた。
林分生長モデルに関しては,1973年にIUFROでjoint meeting のテーマとして取り上げられている.国内においても,林業統計研究会で,1975年と1976年の連続2回のシンポジウムでテーマに採用され研究討論が重ねられてきている。このように最近に至り国の内外で,林分生長モデルを本格的な研究対象にする気運がたかまってきた。しかし,その研究の歴史は浅く,モデル構成の方法論も研究者によって多様であり,まだ体系づけできる段階には至っていないといえよう。こうした現状にあって,本研究では,まず第1章において現在までの林分生長モデルに関する研究の発展過程をたどり,その研究小史を取りまとめた。この取りまとめを通じて,森林の生長構造のモデル化に当っての生態学的な根拠の希薄性が指摘でき,この反省の上に立って本研究におけるモデル構成の基本的な方法論を述べた。
第2章では,林分の生長因子ごとにそれぞれ理論的根拠を求めながら,林分生長の部分モデルの構成を図った。まず,林分の構成単位である単木について,樹高と樹幹直径の関係を相対生長の面から解析を加え,この結果でえられた法則性を基にして,樹高対直径の相対生長モデルを導いた。このモデルは,立木の幹部の肥大生長に対する立木密度効果を説明するもので,林分の閉鎖過程を,林分のうつ閉にともなう樹冠の枯れ上がり現象としてとらえ,この結果,葉から幹への同化物質の配分量が減少し,幹の肥大生長の低下がもたらされるという生態学的知見を理論的背景にして導かれたものである。さらに,このモデルを閉鎖林分の単木に適用させるため林分内での各立木の確保しうる生育空間の間接的な表示ともいえる立木の占有面積を定義づけし,単木ごとにその面積範囲を画定する方法を求めた。つづいて,林分生長の1次的因子ともいえる林分の樹高生長こ対して,統計的モテルを組み立て,シミュレーションによってその生長を実現させる方法を求めた。
第3章では,上で導いた部分モデルを組み合せて,林分の全生長過程に対応できるような林分生長モデルを構成し,それによって林分生長を実現させるシミュレーション・システムを組み立てた。ここでは無間伐の林分生長過程を実現させて,いままでに明らかにされているいくつかの林分生長の法則性と対照して,実現されたモデル林分と現実林分との相似性について検討を加えた。
つづいて第4章では,本研究の動機でもあるシミュレーションによる林分収穫量の予測を試み,その予測結果を従来の林分収穫表と同じ表示形式によって示し,実用に供することができることを明らかにした。さらに同じシミュレーション・システムを利用して,生長途上にある現実林分の生長予測を試み,林分生長モデルが,林分生長量の直接的予測法としても利用できることを示した。
最後の章では,以上の研究結果を要約し,あわせて本研究を通じてえられた林分生長モデルに対する問題点を指摘して,今後の研究の参考に供した。
本論を進める前に当って,筆者の恩師でありまた本研究を進めるに際して常にご指導ご鞭達を下された九州大学農学部教授西沢正久,新潟大学農学部教授高田和彦の両先生に厚くお礼を申し上げる。また,論文のご校閲を賜わった九州大学農学部教授宮島寛,同じく助教授関屋雄偉の両氏および論文の取りまとめに際して種々ご助言を下された同学部の長正道氏に心から謝意を表する。さらに本研究を進める上に種々貴重な示唆を与えて下された文部省統計数理研究所の林知己夫所長および石田正次研究部長,また,貴重な文献を提供下された九州大学農学部名誉教授木梨謙吉氏にあわせてお礼を申し上げる。また,本研究の遂行に当って常にご鞭達とご助力を頂いた当場の渡辺啓吾場長を始めとする職員の各位に,とくに現地調査から取りまとめまで終始ご協力を頂いた経営科研究員阿部信行氏に心から感謝を申し上げる。
本研究は,電子計算機の使用が前提となるものであったが,その最終的なプログラムの完成から,シミュレーションの試行に至るまで,頻々にわたる試行鎖誤を重ねた。この間,種々の労をわずらわした北海道林務部森林計画課電算係の太田馨係長を始めとする係員の各位,また,プログラム作成上の技術的な助言を頂いた総務部電算課の須田憲氏,さらに労をいとわずご協力を頂いたHBAの管原司氏を始めとするオペレーターの方々にも改めて深厚なる謝意を表させて頂くものである。