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北海道林業試験場研究報告-第55号-

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第55号(平成30年3月発行)

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北海道の天然林における林冠層およびササが林床植物の多様性に与える影響―構造方程式モデリングによる分析―(PDF:1.0MB)
八坂通泰
P1~12
林冠層の種組成の違いが林床植物の多様性に与える影響を評価するために,北海道の天然林167林分における植生データを用い,林床植物の多様性に及ぼす林冠層の種組成およびササの影響について分析した。林冠層の直接的な効果と,林冠層がササを介して林床植物の多様性に与える間接的な効果を,それぞれを直接効果と間接効果とし,これらを分離するために構造方程式モデリングを用いた。林冠層の直接効果として広葉樹の被度は,林床における草本の種の豊富さ(SR)とは正の相関が,木本のSRとは負の相関があった。また,林冠層の広葉樹の被度,開葉時期の遅い広葉樹の被度,混交度と維管束植物のSRはいずれも正の相関を示した(直接効果)。間接効果については,林冠層の種組成によって,ササの被度が減少し林床植物のSRが向上する場合があったが,この傾向は林冠層の種組成に依存し異なっていた。さらに,直接効果と間接効果はササの種類や林床植物の生活形によって異なる関係を示した。これらの結果は,ササの影響を考慮しても広葉樹林や針広混交林で針葉樹林より林床植物の多様性が高いという仮説を支持した。一方で,限られたデータや単純な分析では,林冠層の林床植物の多様性への影響を正当に評価できない可能性があることも示唆していた。

カラマツ人工林の収益性に対する植栽密度,間伐方法,伐期の影響について(PDF:1.0MB)
阿部友幸
P13~19
林業経営における意思決定支援のための基礎資料とするため,カラマツ人工林の様々な植栽密度,間伐方法,伐期の組み合わせ(施業シナリオ)について,システム収穫表を用いた成長予測に基づいて植栽から主伐までの支出と収入を積算し,時間あたりの収益を求めた。また,植栽密度,間伐方法,および伐期が収益に与える影響を検討した。地位指数はI等地の25とし,施業シナリオは,植栽密度,間伐方法,伐期を違えた45種類を検討した。すなわち植栽密度は1,000~3,000本/haの間を500本/ha刻みで5種類,間伐方法は疎仕立(収量比数Ry=0.6~0.7)・中庸仕立(Ry=0.7~0.8)・無間伐の3種類,伐期は30年・50年・80年の3種類である。植栽密度による収益の違いを比較すると,疎仕立と中庸仕立では,植栽密度が低い方が収益が大きくなった。これは収入に差が見られないが,支出に差があるためであり,特に間伐費用と植栽費用の少なさが関係していた。無間伐については,1,000本/haが他の植栽密度より収益がより大きくなった。これは支出にほとんど差が見られないが,収入に差があったためである。伐期による比較では,伐期が長くなるほど時間あたりの収益が大きくなった。これは,伐期が長くなると収入も支出も低下するが,支出の低下する額がより大きいためである。時間あたりの支出が低下することの一つには,間伐と主伐以外の造林初期経費の時間あたり金額が,長伐期の方が安くなることが挙げられる。間伐方法による比較では,疎仕立,中庸仕立,無間伐の順に収益が大きかったが,疎仕立と中庸仕立に大きな差はなかった。無間伐は支出がより少なかったにも関わらず,収益がより小さかったことの一つには,収入において補助金の額が小さかったことが関係している。80年伐期については,生産材積がより少なかったことも関係した。

研究資料 シラカンバを加害するAgrilus sp.通称シラカバナガタマムシの学名と和名(PDF:855KB)
原 秀穂
P21~22
シラカンバの穿孔性害虫である通称シラカバナガタマムシの学名及び和名はAgrilus viridis (LINNAEUS, 1758)及びシンリョクナガタマムシであることが明らかになった。

研究資料 第2世代精英樹等を用いた採種園設計 :北海道松前町大沢トドマツ採種園造成の事例から(PDF:2.8MB)
石塚航、今 博計、黒沼幸樹、中田了五
P23~41
採種園新規造成の際には,植栽するクローン個体の配植設計をする必要があり,近交弱勢リスクを低く,かつ,高い遺伝的多様性を担保させられるような,適正配置となる配植設計が求められる。第2世代精英樹を用いた採種園の設計においては,交配親が共通することで血縁関係が生じるため,近交弱勢リスクの少ない適正配置を得るには交配親の情報を考慮しなければならない。このような事情から,既存プログラムによる配植設計ができないため,本報告では,適正配置のためにどのような手順で設計したらよいかについて,第2世代精英樹等計138系統,のべ490個体を植栽した大沢トドマツ採種園造成の事例を用いて報告する。

研究資料 森林の多面的機能に関わる土壌・生物要因の林相間比較(Ⅵ) -表層土壌の酸性度-(PDF:713KB)
中川昌彦
P43~45
森林の多面的機能に関わる土壌要因の林相間比較を行うため,同一の地質(第三紀砂岩・泥岩互層),気象条件,斜面方位に成立する林齢40~50年生の,ウダイカンバ二次林,ウダイカンバ人工林,カラマツ人工林,トドマツ人工林およびトウヒ類人工林の計5林分において,0~5cm,5~10cm,15~20cmの3段階の深さで表層土壌の酸性度の調査を行った。深さ別に林相間で比較を行ったところ,5~10cmと15~20cmの深さでは,林相間での有意な違いはみられなかった。一方で0~5cmの深さでは,トウヒ類人工林において酸性度がウダイカンバ二次林やトドマツ人工林,カラマツ人工林よりも有意に強かった。これらの結果から,第三紀砂岩・泥岩互層を母材とする土壌の広葉樹二次林で林相転換を行ってアカエゾマツやヨーロッパトウヒなどのトウヒ類を植栽した場合,40~50年の期間で深さ0~5cmのごく表層においてのみ土壌が酸性化する可能性が示唆された。しかしカラマツやトドマツを植栽しても40~50年という期間では土壌の酸性度が大きく変化する可能性は小さいと考えられた。