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林業試験場

北海道林業試験場研究報告-第22号-

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第22号(昭和59年12月発行)

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カラマツ人工林の台風被害と耐風性(PDF:84.3KB)
水井憲雄・畠山末吉
P1~9
昭和56年8月23日の15号台風によって北海道のカラマツ人工林は大被害を被った。十勝,上川,日高支庁管内のカラマツ人工林被害地の20林分について,単木および林分の被害形態や程度を調べ,単木の形質や施業方法と耐風性との関係を検討した。
1)単木の被害形態は,全調査林分に共通して幹曲りが多く,それにつぐのが根返りであり,幹折れや傾斜の被害は少なかった。
2)幹曲りの被害は林齢の増加や直径,樹高が大きくなるにつれ少なくなる傾向を示したが,根返りの被害はそれらと無関係に発生していた。
3)単木の諸形質のなかで,幹曲りの被害に対する耐風性に強くかかわるのは幹の太さであり,胸高直径が大きい個体は被害を受けにくい。また,形状比や樹冠長比と単木の耐風性との関係が明瞭であったのは一部の林分に限定された。
4)過密林分では,林内の空地から被害が拡大じ,また,急激に疎開された林分や間伐後の経過年数が少ない林分は大きな被害をうけ,これらの林分は耐風性が低いことが判った。
したがって,単木および林分の耐風性を高く保持するためには,若齢期からの疎仕立によって単木の肥大生長を促進することが有効であると考えられる。

山火事跡広葉樹二次林の動態(PDF:536KB)
菊沢喜八郎
P11~17
山火事後ほぼ一斉に萌芽更新したシラカンバ,ミズナラ,アズキナシなどを主とする林分で2つのプロットを設定し,林齢20年時から10年間,2年間隔で継続調査した。林分材積粗生長量は,プロット1で4.7m3/ha・年,プロット2で9.2m3/ha・年であった。プロット1はシラカンバを主とする林分である。プロット1のシラカンバの生長は悪く,集中している箇所で小径木が枯損した。プロット2にはミズナラ,アズキナシなどが多く,シラカンバも混在した。プロット2においては,各樹種とも生長が良く,また集中的な枯損はみられない。シラカンバは陽性の樹種であり,集中箇所では庇陰に耐え得ず小径木が枯損する,これに対し,他の樹種は多少とも耐陰性があり比較的多くの本数を維持することができる。

天北地方の環境解析による地域区分(PDF:817KB)
菊地 健・山根玄一・寺沢和彦・薄井五郎
P19~31
天北地方の森林の生育環境を,風と土壌によって地域区分することを目的とした。風の強さについては,ヤチダモ等の偏形樹を用いて風力度分布図を作成し,強,中,弱風域の3段階にグレード区分した。土壌については,理学性に着目し,稚内市,豊富町を対象に,表層地質,斜面傾斜により4つの土壌区に区分した。さらに,土壌断面形態の特徴および理学性分析値により,この区分が適正であることが示された。また,風のグレード区分図と土壌区分図とを重ねあわせて,その組合せにより調査地域の森林の生育環境を8区分した。

高密度に植栽したトドマツ模型林分の解析 -密度効果の機構とその原因について-(PDF:1.64MB)
浅井達弘
P33~42
苗畑に2年生のトドマツ床替苗木を,㎡あたり,16,36,64,100,256 本の5段階の密度で植栽し,6生育期を経過した模型林分の生長経過や現存量を調査した。根元直径と樹高は林齢6年生時には,どちらも密度が高い程小さかった。個体部分重に対する密度の抑制作用(密度効果)は,葉,枝,幹の順序であらわれた。模型林分の大半は,最多密度線より上(外)側に位置したので,新たな最多密度線を設定した。密度効果は,葉量の減少に起因すると考えられる。

カラマツ人工林の間伐試験(3)-10年間の林分構造の推移と林分生長量-(PDF:1.12MB)
近藤和男・清和研二
P43~60
新得町有林の林齢16年生カラマツ人工林に定量上層,縦線列状,定量下層,定性下層,斜線列状,定量強度の6種の間伐試験区を設定し,1971年に第1回目の間伐を実行してから10 年経過した。10年間の直径及び材積生長量は,本数率60%の間伐を実行した定量強度区が最もよい。また,第1回間伐後5年間では下層間伐区と大差のなかった列状間伐区が21年生時に実行した第2回間伐後5年間の生長がよく,とくに斜線列状区は縦線列状区を上廻る生長量を示している。26年生残存木の大径木からの積算本数で比較すると,定量強度区が太い木が最も多く,ついで,全層的間伐である列状間伐区が多い。下層間伐区は上層木の競合が出はじめ生長量が低下しつつあり,定量上層区はとくに第2回間伐以後生長量が著しく低下した。

日高地方海岸段丘地帯における斜面崩壊の研究 -火山灰を指標にした崩壊発生頻度の検討-(PDF:771KB)
柳井清治・薄井五郎・成田俊司・清水 一
P61~69
崩壊発生の地域的,時間的特性を明らかにするため,火山灰層(Us-c,Ta-b層)を用いて,崩壊地の履歴調査を行った。調査地域は,日高支庁管内門別町で,1981年8月に集中豪雨により段丘斜面,開折谷内に多くの崩壊と泥流が発生している。
火山灰調査の結果から,段丘斜面は過去の崩壊地の集合体であり,1981年崩壊地の2/3は,火山灰層の存在しない斜面およびその周辺に発生したことがわかった。また,崖錐,扇状地の断面観察から,堆積物中に火山灰層が挟まれており,その上位に1枚以上の泥流堆積物が載る場合が全体の3/4を占め,とくに2~3枚が最も多い。
以上のことから,崩壊発生の地域的特性として,特定流域に繰り返し集中して発生する傾向があり,その発生時間頻度として100~150年に1回程度の割合で発生する場合が多いと推定された。

北海道における山腹植生工法の研究(3)-侵入樹種数の増加に影響を及ぼす要因の解析-(PDF:66.1KB)
新村義昭・伊藤重右衛門・清水 一・成田俊司
P71~75
北海道内58箇所の山腹植生工施工地の実態調査資料をもとにして,侵大樹種数の増加にはどのような要因が影響を及ぼしているかを知るため,数量化1類で,9要因(経過年,周辺の林種,斜面型,周辺樹種数,導入草本の生育状態,土性,リター層の有無,堀削の難易度,土層厚)について解析した。その結果,経過年・土性の2要因が統計的に1%レベルで,周辺樹種数と堀削の難易度の2要因が5%レベルで有意であり,侵入樹種数の増加に強く影響を及ぼしていることが明らかになった。

トドマツ枝枯病の病原性の菌株間比較(PDF:874KB)
秋本正信
P77~84
北海道における Scleroderris lagerbergii GREMMEN(トドマツ枝枯病菌)の菌株間の病原性の違いを知るため,接種試験を実施した。トドマツから分離された本菌9菌株をトドマツに接種した結果,菌株によって病原性に強弱のあることが示唆された。トドマツ,ヨーロッパモミ,シコクシラベ,ストローブマツから分離された本菌1菌株ずつを,それぞれ15種の針葉樹に接種じた。その結果,モミ属から分離された本菌は,トドマツに強い病原性を示したが,マツ属にはほとんど病原性を示さなかった。一方,ストローブマツから分離された本菌は,マツ属に強い病原性を示したが,トドマツに対する病原性は比較的弱かった。このことから,北海道でモミ属に寄生する S. lagerbergii と,ストローブマツに寄生する本菌は,病原性に明らかな相違があることを指摘した。

北海道における針葉樹を摂食する小蛾類(PDF:995KB)
鈴木重孝・駒井古実
P85~129
北海道における針葉樹の害虫としての小蛾類77種(ハマキガ科57種,ホソガ科1種,スガ科1種,メムシガ科2種,ニセマイコガ科1種,ツツミノガ科1種,ヒゲナガキバガ科1種,キバガ科3種,メイガ科10種)を明らかにし,主要樹種の小蛾相の特徴を寄主植物の選択範囲の程度と加害形態の分析により概観した。各種については主要な文献,生活史の概要,成虫と幼虫の形態と区別点などを記述した。

寒冷地方海岸平野における防災林造成方法に関する研究(3.65MB)
斎藤新一郎
P131~235
本論文は,わが国の寒冷地方,とくに北海道の海岸平野における防災林の造成方法について,そこに適合する材料と方法による,技術的な可能性を研究したものである。活物材料を用いる工法において,筆者は天然生海岸林,屋敷林,既往防災林,植栽実験の成果を検討し,新しい造成技術を考察しようと試みた。汀線から200m以上離れ,林帯幅員が100m前後与えられるなら,風下林冠高10mを目安にして,20年以内に効果ある林帯を造成することが技術的に可能といえる。そのためには,材料として自生樹種を用い,十分な地拵えを行い,機能的な防風土塁を設け,密植方式により,まず前生林をつくり,ついで基本林を組合わせていき,それらに対して確実な保育と更新を行う,という一連の寒冷地方にふさわしい新しい技術体系の確立が必要である。この技術体系は,北海道各地の海岸防災林造成に適用できるばかりでなく,山地における森林造成にも応用できる,と考えられる。