森林研究本部へ

林業試験場

北海道林業試験場研究報告-第27号-

PDFファイルで閲覧ができます

バックナンバー



第27号(平成元年11月発行)

目次ごとにダウンロード

トドマツ枝枯病の発病誘因と被害予測(PDF:1.15MB)
浅井達弘
P1~48
本論文は,北海道のトドマツ造林地の広い部分に蔓延していて深刻な被害をもたらしているトドマツ枝枯病の防除方法の確立に資することを目的として,本病の発病誘因と被害予測の方法を追求・解明したものである。接地枝の発病率(19.7%)に比べて,非接地枝の発病率(82.2%)が著しく高かったことや,感染苗木を地面から50cm持ち上げて越冬さした処理,接地する枝に副木をあてて人工的に接地を妨げた処理の発病率が有意に高かったことから,積雪が枝葉を強く引っ張ることがストレスとなって本病の発病を促進すると考えた。激害区分図を用いた被害林分の解析から,初めて被害を受けた時の樹高(初発病樹高)とその個体の将来の被害度に密接な関係があることをみいだした。初発病樹高階とその樹高階に属する部分個体群の激害本数率の経年変化のモデル化(被害推移モデル)や個体の被害進行過程のシミュレーションにより,個々の林分の初発病樹高の分布から将来の激害木の本数を予測する方法を提案した。さらに,激害区分図の交点樹高から道有林の立地区分を行い,各立地の積雪深や特徴的な被害,施業についてまとめた。

斜面変動の年代解析による土砂害危険地判別に関する研究(PDF:1.24MB)
柳井清治
P49~83
土砂害の典型例である斜面崩壊の危険地帯の判定法について,テフロクロノロジーを用いて検討を加えた。研究対象地には,北海道中央部の3地域(門別地域,登別地域および厚真地域)を選定した。門別,登別地域の崩壊多発地帯において約300年前に降下した火山灰(Us-c,Ta-b)の分布を調べた結果,最近に発生した崩壊地の約2/3が過去300年間に発生した崩壊地の再発ないしはその拡大であり,崩壊発生には同一斜面への集中傾向があることが明らかとなった。また,堆積地において埋積された火山灰から,崩壊発生頻度は300年間に1~2回が平均であり,ほぼ100~150年に1回程度の周期で発生していると推定され,流域単位の活動性としても反復傾向が存在することが明らかになった。この崩壊発生を斜面発達のプロセスとしてとらえるため,厚真地域で斜面の年代を測定したところ,基本的には9000年前の古い火山灰(Ta-d)がのる斜面と,300年前の火山灰しか存在しない斜面(Ta-b,-a)の2面からなることがわかった。両者は明瞭な遷急線によって区分され,崩壊は新しい斜面が発達するプロセスとして位置づけられる。この年代の新しい斜面を筆者はPGVと定義し,遷急線に注目してPGV全体を潜在的崩壊地帯として面的にとらえる考え方を提案した。実際の崩壊地において,崩壊発生域,面積とPGVとの関係を調べたところ,比較的高い相関があった。流域のPGVの発達段階によって,予め土地の危険性を把握することができる。

キハダ内皮のベルべリン含量の個体および産地間差異(PDF:497KB)
梶 勝次・佐藤孝夫・山岸 喬・中野道晴
P84~91
キハダの内皮を乾燥させたものは,日本薬局方に収載されている重要な医薬品である。そこで,生薬材料としての優良個体の選抜を目指し,道内の天然林から合計136個体のキハダを選び,高速液体クロマトグラフィーを用いて個体別に主成分含量を調べた。
主成分含量は,同一個体内の採取部位や採取時期には顕著な違いがなく,個体間により大きな差異が認められ,その範囲はberberineで0.4%~5.1%,palmatineで0.02%~2.0%であった。さらにberberine含量は,産地平均でも大きな差異がみられ(0.69%~3.73%),内皮の厚いものや樹冠の大きいものなどに高い傾向が認められた。

トドマツの年輪幅変動に及ぼす土壌乾燥の影響(PDF:282KB)
薄井五郎
P92~99
丘陵地帯の若いトドマツ林から15本の優勢木をとり,1976~1988年における各年の年輪生長幅の変動について,まず生長期各月の降水量,日照時間,平均気温などの気候因子との関係を検討した。その結果,年輪幅の平年値からの変動量は7月の降水量(r=0.72,1%水準で有意)と,前年の9月・10月の平均日照時間(r=0.61,5%水準で有意)との間に正の関係が認められ,この2因子と年輪幅の変動量との重相関係数は0.764であった。次に,土壌毛管水が欠乏する日数を,月別に降水量および推定蒸発散量から求めたところ,土壌乾燥の起こる季節およびその影響の現れ方について,次のことが推測された。
①土壌が乾燥状態になるのは6月以後である。
②6月から7月中旬の土壌水分不足日数はその年の直径生長量と無関係である。
③7月中旬から8月下旬までの土壌水分不足日数はその年の直径生長量と負の関係(r=-0.84,1%水準で有意)にある。
④前項の土壌水分不足日数と前年9月・10月の平均日照時間とを組み合わせた場合,年輪幅との重相関係数は0.856であり,変動量の73%を説明した。
⑤前年の土壌乾燥は翌年の直径生長量と無関係である。