水産研究本部

試験研究は今 No.670「ニシンの人工種苗放流、風蓮湖では、 配布サイズ(40mm台)でどぅでしょう!~」(2010年08月11日)

試験研究は今 No.670「ニシンの人工種苗放流、風蓮湖では、 配布サイズ(40mm台)でどぅでしょう!?」(2010年08月11日)

はじめに

 風蓮湖では、別海町ニシン種苗生産センター(以降、別海センターと記す)で生産された人工種苗が毎年放流されています。
人工種苗は全長40ミリメートル程度まで別海センターで育てられ、その後、3カ所ある中間育成施設(風蓮湖内2カ所と尾岱沼漁港)に移され、60ミリメートル台にまで大きくなったら放流されます。別海センターから各中間育成施設へ運び出す時の人工種苗の大きさを「配布サイズ」、放流時の大きさを「放流サイズ」と呼んでいます。

  放流サイズは、これまでの研究成果から決められました。でも、配布サイズでの放流は全然見込みがないのでしょうか?

風蓮湖における仔稚魚の分布傾向

  これまでの調査の結果、風蓮湖ニシンの卵や仔稚魚の分布傾向は概ね把握されています(図1)。風蓮湖の北西部湖盆に繁茂するアマモ場のほぼ全域が産卵場として利用されます。孵化直後(5月頃)の仔魚は北西部湖盆全域(青で囲んだ水域)で採集されますが、すぐに最も湖の奥が分布の中心になります(赤で囲んだ水域、産卵期の3~4月にアマモは生えていない)。それから60ミリメートル位になるまでの間(5~6月)、ここが仔稚魚の成育場の中心となり、その後、水温の上昇とともに再び北西部湖盆全域に広がって、7~8月上旬に降海する、と推測されています。

  ニシンが卵を産み、その子供達が生活をする場が風蓮湖の北西部湖盆であり、特に、湖の最も奥の水域がニシンにとって大切な成育場(ナーサリー)になっているのです。
    • 図1
      図1 風蓮湖におけるニシンの卵・仔稚魚分布イメージ

配布サイズ(40ミリメートル台)放流試験

  では、このナーサリーに配布サイズの人工種苗を放流したらどうなのでしょう?

  ここは水深が浅いために中間育成施設を設置することはできません。しかし、トラックで近くまで行くことは可能です。そこで、これまでは、走古丹の中間育成施設を経て放流された「放流サイズ」の効果を中心に調べてきましが、今度は、配布サイズ放流の効果を調べることにしました。

  配布サイズの放流時期と放流場所は、40ミリメートル台の天然ニシンがお手本です。また、放流サイズ走古丹放流の結果との比較もすることにしました(対照試験と言います)。

  放流時期は6月中下旬。放流場所は、その頃に40ミリメートル台の天然ニシンが生息する水域(ナーサリー)に最も近い場所、糸氏桟橋(図1、2)。もう1カ所、これまで長年放流を行ってきて、かつ、作業の容易な走古丹でも試験放流をすることにしました。

(1)配布サイズ放流:糸氏桟橋(ナーサリー) 15万尾 6月18日
(2)配布サイズ放流:走古丹(既存の放流場所) 7万尾 6月18日
(3)放流サイズ放流:走古丹(対照試験;本放流) 50万尾 7月16日
    • 図2
      図2 糸氏桟橋

放流時に観察された現象

  中間育成施設からの放流は、網の一方をほどいて出口を広げ、出口の反対の網をゆっくりとたぐり寄せながら、魚にストレスを与えないように慎重に行われます。配布サイズ放流では、トラックに乗せた青色の輸送用水槽からホースで直接、湖に放流しました(図4)。

  走古丹の放流場所の岸近くにはアマモの枯れ藻が海底に沈んでいて(図5、点線で囲んだ所)、その先は砂場となっていました。

  輸送用水槽の蓋をあけると、人工種苗は驚いて底に沈んでしまいましたが、ホースを繋げる作業をしている間に落ち着きを取り戻しました。そして、放流。ホースを通して放流された直後に斃死して湖面に浮き上がる個体はほとんど認められませんでした。

  しかし、ホースの先は砂場まで届いていたのに、放たれた人工種苗の一部は岸に入って来て、枯れ藻の中に潜り込んだのでした。あるものは枯れ藻に絡まって死に、あるものは枯れ藻に入ったかと思うと水面まで上昇し、再び潜るといった行動を繰り返しました。

  その他の多くの人工種苗は、暫くの間、放流場所付近を群遊した後、静かに見えなくなっていきました。
    • 図4
      図4 放流風景(走古丹)
    • 図5
      図5 走古丹放流場所(走古丹)

      アマモの彼もが打ち上がっている湖底(点線内)にも同様の枯れ藻がある

おわりに

  別海センターは、40ミリメートル種苗100万尾の生産能力を有する施設として開所しました。しかし、技術は進化し、現在では200万尾を超える人工種苗の生産も可能となりました。

  試験結果が分かるのはもう少し先になりますが、配布サイズ放流の効果が見込めるようになれば、中間育成施設の収容量を超えた放流計画策定も可能となり、放流数の増大、ひいては人工種苗による漁獲量の増加に繋がる可能性も望めるようになることでしょう。

  別海センターで生産された人工種苗を、余すことなく、できるだけ効果的に放流して漁獲に結びつけたい。人工種苗の生産、放流に携わるみんなの願いです

(釧路水産試験場 調査研究部 堀井貴司)

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