水産研究本部

試験研究は今 No.672「後志産コウナゴの研究状況」(2010年09月14日)

 後志地方では,毎年,4月末から5月末頃までのおよそ1ヶ月間,コウナゴ(イカナゴの仔稚魚)漁業が行われます。夜間に集魚灯を照らしてコウナゴを集め,敷網で漁獲します。「生炊きしらす」の名称で知られる佃煮,天日干し,さっと湯がいただけのもの,いずれも美味で後志自慢の特産品です。

  中央水試と後志南部地区水産技術普及指導所では,地元の要請を受けて,10年程前から後志南部地域でコウナゴ資源の来遊予測などに関する試験研究に取り組んできました。コウナゴの漁期は年によって変動が大きく,漁業者が集魚灯や敷網を装備し着業を開始するタイミング,水産加工業の雇用計画などにも影響することから,来遊量の規模はもちろん,漁期がいつ頃から始まり,いつ頃まで続くのか,漁期前の大きな関心事になっています。

(1)春の水温が低いと漁期が遅い

 研究が進みデータが蓄積されていくにつれ、毎年の漁期には、漁期前の漁場水温が大きな影響を及ぼしている傾向のあることがわかってきました。図1は、その年のコウナゴの総漁獲量のうち50パーセントを超えた日、これを「盛漁日」として推定し、その値と4月の漁場水温平均値との関係を示しています。盛漁日は4月の平均水温が高い年は早く、低い年は遅く訪れるという傾向が明瞭に現れています。
    • 図1 
      図1 後志南部海域の4月平均水温とコウナゴ漁業の漁期との関係

      図中の数字は西暦を示す。

(2)水温はコウナゴの成長に影響

  一般に、魚類の稚魚の成長には水温が大きな影響を及ぼします。このことを、後志南部産コウナゴの2008年級について、耳石の日周輪解析を行って調べてみました。耳石の日周輪とは、頭部にある耳石という小器官に1日1本刻まれる輪紋です。これを顕微鏡下で計数すると、個体のふ化から採集日までの日齢を知ることができ、成長パターンやふ化日を把握できます。

  これによって求められたコウナゴの成長パターンを図2に示しました。漁獲対象となるのは20ミリメートル台前半からですので、ふ化からおよそ1ヶ月程度経過する頃に漁獲対象となり、以降は1日あたり0.7~0.8ミリメートルくらいで成長していることが判りました。一方、早い時期(3月中旬)にふ化した群と、遅い時期(4月上旬)にふ化した群で成長を比べてみると、後者の成長速度のほうが大きい傾向がありました。これは、遅い時期にふ化した群の方が、相対的に高い水温を経験することによるものと考えられました。これらの結果から、ふ化から漁獲対象となるまでの水温、すなわち4月頃の水温が高いと成長が速くなり漁獲対象サイズに達するまでの日数が減ることで、漁期が全体的に早くなるのではないかと考えました。

    • 図2
      図2 後志南部海域におけるコウナゴ2008年級群の成長

(3)ふ化時期の年変動

 2009、2010年も同様の日周輪解析を進めました。やはり成長には水温が大きく影響していることが確認されましたが、一方で、ふ化した時期も年によって大きく異なる傾向が認められました(図3)。ふ化後の成長差だけではなく、産卵からふ化までに要する時間、産卵期についても何らかの要因で年変動し、それらの要因が絡み合って漁期が決まっていることがわかってきました。現在は、ふ化時期とその年のコウナゴ資源量との間にみられる関係を整理すべく、解析を進めていることころです。
    • 図3
      図3 後志南部海域におけるコウナゴのふ化日組成(2008~2010年)

 ところで、コウナゴ漁期は桜の開花のタイミングが目安になる、という話を耳にすることがあります。試しに、図1で示した後志南部海域の盛漁日と、比較的気象条件が近いと思われる函館市のソメイヨシノの開花日との関係を図4に示してみました。水温との関係(図1)ほど明瞭ではありませんが、開花の著しく早い、あるいは遅い年は、漁期も同様になるという、それらしい傾向が出ているようにもみえますが、いかがでしょうか?桜の開花も冬からの気温に依存しますので、気温と水温、開花とコウナゴの成長・・・背後には因果関係があるのかもしれません。

  昼は桜、夜は漁火。そして道端のコウナゴ天日干し。後志の春模様です。

    • 図4
      図4 桜の開花日とコウナゴ漁期との関係(後志南部海域)

      図中の数字は西暦を示す。開花日データは気象庁HPより引用。


 (中央水産試験場 資源管理部 星野 昇)

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