水産研究本部

試験研究は今 No.677「「未低利用魚のすり身化技術開発」が始まりました。」(2010年11月11日)

はじめに

  北海道の漁業生産量は近年大きく減少し、道内の水産加工業、特にすり身業界では、慢性的な原料魚不足となっています。左下の図は北海道の沖合底びき網漁業の漁獲量を示していますが、平成10年に40万トンを超えていた漁獲量は、平成18年には約25万トンに減少しています。また、右下の図には、沖合底びき網漁業で漁獲されるホッケやスケトウダラを主原料とする冷凍すり身と練り製品の生産量を示しています。北海道の冷凍すり身の生産量は平成10年の11万トンから平成19年の6.3万トンに減少する一方で、練り製品の生産量は、平成10年から平成18年まで約2.3万トンと横ばいで推移しており、練り製品業界の輸入すり身への依存度が高まっていることが伺えます。(国内のすり身自給率は約3割)。
    • 図

北海道の未低利用魚について

  北海道の沖合底びき網漁業では、食用としてあまり利用されていないウロコメガレイ、大型イカナゴ(以下オオナゴ)、カジカ類が相当量漁獲されています。オオナゴは年間1万数千トン漁獲され、一部稚内地域で高付加価値化への取り組みが進められていますが、その多くは養魚用餌料に向けられています。また、ウロコメガレイやカジカ類に至っては、利用価値が低いので漁獲後直ちに海へ戻されています(海中還元)。これら食用としての利用の少ない資源(以下、未低利用魚)について、加工原料としての特性を明らかにするとともに、その有効活用を図ることが関係業界から強く期待されています。  

  本研究開発では、これら未低利用魚の冷凍すり身化とそのすり身の付加価値を高めるための研究(ゲル物性の改善)を行い、地域産業(沖合底びき網漁業、冷凍すり身産業、練り製品産業)の連携による地域・社会の活性化を目指しています。
    • ウロコメガレイ、オオナゴ、カジカ類

「食用としての利用の少ない地域水産資源のすり身化技術開発」事業について

  下図に本事業の共同研究体制を示しました。この事業は道総研の中央水産試験場、釧路水産試験場、網走水産試験場、工業試験場の4機関と酪農学園大学による共同研究により実施します。また、協力機関として、小樽機船組合、稚内機船組合、(株)橋本商会、(有)布川加工所、(社)全国すり身協会、(社)北洋開発協会の各企業、団体にも参加頂いています。各研究機関の具体的な研究項目は次の通りです。

  中央水産試験場では、ウロコメガレイの原料特性(漁期、鮮度等)とゲル物性(カマボコ物性)の関係や冷凍すり身として最適な製造条件を明らかにし、新しい食品素材としての高付加価値技術を開発します。また、ホッケやスケトウダラ等のすり身との混合によるカマボコ物性の改善技術を開発します。
釧路水産試験場ではオニカジカやオクカジカ等のカジカ類、網走水産試験場ではオオナゴをそれぞれ対象に、ウロコメガレイと同様に原料特性とカマボコ物性の関係や冷凍すり身として最適な製造条件を明らかにし、新しい食品素材として高付加価値技術を開発します。工業試験場では、これら未低利用魚すり身及び廃鶏肉の微細化やジュール加熱等の加熱方法によるカマボコ物性の改善技術を開発すると共に、電子顕微鏡等によるカマボコ構造の観察や塩ずり肉の熱力学的特性について調査します。酪農学園大学では、廃鶏肉と各種すり身とのハイブリッド化によるカマボコ物性の改善技術を開発します。また、ハイブリッド化に伴うカマボコ特性の変化等について、タンパク質レベルで評価・解析も行います。

  現在、ウロコメガレイのすり身化では、スケトウダラ陸上2級すり身と同等以上のカマボコの物性や白さ(白色度)が得られています。今後の研究成果にご期待ください。
    • 共同研究体制

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