水産研究本部

試験研究は今 No.660「ヒゲクジラとハクジラの成分的特徴について」(2010年03月15日)

はじめに

  我が国では、国際捕鯨委員会(IWC)の決定を受け、1982年から大型鯨類の商業捕鯨を停止していますが、持続的な捕鯨再開に向けて、南極海及び北西太平洋で国際捕鯨取締条約第8号(科学調査の実施)に基づく鯨類捕獲調査を実施しています。その調査副産物である鯨肉は食材として有効利用されており、北西太平洋の沿岸調査の拠点である釧路市では、9~10月に新鮮なミンククジラの肉が市内に流通し、鯨食文化の振興による町興しの取り組みも行われています。

  しかし、鯨肉の栄養成分に関する科学的な情報に乏しいことから、釧路水産試験場では捕獲調査対象鯨種の副産物について栄養・機能性成分に関する調査を(財)日本鯨類研究所と共同で実施しています。

  クジラにはミンククジラやナガスクジラなどのヒゲクジラ類とマッコウクジラやイルカなどのハクジラ類がありますが、今回はこれまでの調査結果から、ヒゲクジラ類とハクジラ類の赤身肉に関する成分的特徴についてご紹介します。

ヒゲクジラとハクジラ試料について

  2006~2008年に北西太平洋で捕獲されたミンククジラ(42頭)とマッコウクジラ(11頭)をそれぞれヒゲクジラ類及びハクジラ類の代表とし、いずれも背側赤身肉の栄養成分(水分、たんぱく質、脂質、全糖及び灰分)と機能性成分(脂肪酸組成及び遊離アミノ酸組成)について比較しました。なお、各成分の比較は平均値で行いました。

栄養成分の比較について

  ミンククジラはマッコウクジラに比べ、水分、全糖が少なく、たんぱく質、脂質が多い傾向であり、脂肪はミンククジラの方が2倍以上、全糖はマッコウクジラの方が約3倍多く含まれていました(図1)。
    • 図1
      図1 栄養成分の比較

機能性成分の比較について

  ミンククジラとマッコウクジラの脂肪酸組成は、18:1、20:1、22:1、20:5、22:5及び22:6で有意な差がみられました。これらの脂肪酸の内、高度不飽和脂肪酸である20:5(イコサペンタエン酸IPA)と22:5(ドコサペンタエン酸DHA)はコレステロール低下作用や血栓防止、22:6(ドコサヘキサエン酸DHA)は学習能力向上や抗アレルギー、血中脂質低下などの機能性が知られていますが、いずれもミンククジラに多く含まれていました。また、遊離アミノ酸は、その約75パーセント以上が抗疲労効果や抗酸化作用が報告されているアンセリンとカルノシン及びバレニンなどのイミダゾールジペプチド類で占められていますが、量的にも組成的にも大きな差が見られ、ミンククジラの遊離アミノ酸総量はマッコウクジラの3倍以上で、ミンククジラではバレニンがマッコウクジラではアンセリンが多く含まれていました(表1、2)。
    • 表1、表2

おわりに

  我が国の鯨類捕獲調査ではミンククジラの他、イワシクジラ、ニタリクジラ、ナガスクジラなどのヒゲクジラ類が対象となっていますが、いずれの肉も今回ご紹介した成分的な特徴を有していました。

  今後は鯨類捕獲調査の調査副産物が、これらの栄養・機能性成分の特徴を活かし、より一層、有効に利用されることが望まれます。
( 釧路水産試験場 加工部 金子博実)

印刷版