水産研究本部

試験研究は今 No.667「「赤と黒」の変態を調べる-アカガレイ・クロガシラガレイ種苗生産試験」(2010年06月18日)

はじめに

  現在,栽培水産試験場ではアカガレイとクロガシラガレイの種苗生産に関する試験を行っています。どちらも,まだ基礎的な試験の段階ですが,人工受精して得られた孵化仔魚を稚魚まで飼育し,それぞれの発育過程で,その魚種にはどのような条件(飼育水温,餌など)が適しているのかを調べています。今回は,この人工種苗生産試験によってわかった仔魚期の一大イベントである「変態」の特徴について,紹介します。

材料と方法

  アカガレイは噴火湾の豊浦町から親魚を活魚で栽培水産試験場まで運び,人工受精および自然産卵によって受精卵を得ました。クロガシラガレイは別海町野付地区および紋別市で水揚げされた親魚を現地で採卵し受精させた後,この受精卵を水産試験場へ運びました。それぞれの受精卵から得られた孵化仔魚(図1,2)をヒラメやマツカワと同じ餌料系列で飼育しました。飼育水温はアカガレイでは12度、クロガシラガレイでは14度としました。
    • 図1
      図1 アカガレイ孵化仔魚(0日齢)  
    • 図2
      図2 クロガシラガレイ孵化仔魚(0日齢)

結果-とっても違うこのカレイたち

  図3に両種の変態過程を示しました。クロガシラガレイは23日齢から27日齢に眼の移動など変態が始まり,それまで水槽の表層から中層を泳いでいた仔魚がほとんど一斉に水槽底に着底します(知らない人は,全滅したかと思ってしまうほど)。その後,変態は進み,ほぼ35日齢には変態が完了し,成魚と同じ形状を示す稚魚となります。
  一方,アカガレイはクロガシラガレイが変態を終える35日齢では,まだ着底も変態も始まる素振りはありません。50日齢を過ぎた頃から,着底の真似事(擬似着底:一旦着底するが,その後泳いだり,着底したりを繰り返す)はしますが,本格的な着底はまだです。60日齢頃になってようやく変態が始まり,65日齢頃から着底し始めますが、全個体が着底するのは80日齢以降です。90日齢になってようやく変態が完了します。
  このように,アカガレイの変態は遅く,だらだらと進行しますが,クロガシラガレイの変態は早期かつ短期間で行われることがわかりました。
    • 図3

おわりに

  この両種はヒラメやマツカワのように大量に種苗生産し,放流するというところまではいっていません。しかし,このような飼育試験で得られた知見は,その魚種の知られていない生態を解明するうえで,大きなヒントになります。人工的に飼育した魚の生態知見は,「天然海域での生態とは違うのでは?」といった意見もありますが,人工的な飼育を通じてしかわからない事も多々あると考え,私たちは日々飼育研究に没頭しております。 

栽培水産試験場 栽培技術部
松田泰平

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