水産研究本部

試験研究は今 No.653「エチゼンクラゲと海流」(2009年11月25日)

はじめに

水産庁は2009年7月1日プレスリリースで「大型クラゲは・・・7月上旬頃に長崎県対馬周辺に出現する可能性が示されました。」
と、昨年は出現しなかったエチゼンクラゲ(図1)が今年は出現するとの発表を行いました。
このクラゲは、来遊すると定置網等に漁業被害を与えることからやっかいな生き物です。
そして、2009年の本道日本海およびオホーツク海沿岸において、秋に入ってからのエチゼンクラゲの大量来遊がトピックスとなりました。
    • 図1

モニタリング体制

社団法人漁業情報サービスセンター(JAFIC)は、水産庁からの委託で大型クラゲの全国的な調査を組織し、北海道もこの全国的なモニタリング調査に協力して、JAFICから「大型クラゲ出現調査および情報提供事業」を国費再委託事業として受けて行っています。道水産林務部(水産振興課)は全道各水産普及指導所、関係支庁のルートを使って全道沿岸の情報を収集し、全道の情報をホームページ上に掲載し、広報しています。同時に
JAFIC、漁業関係者に情報提供しています。水産試験場は、直属試験調査船や漁業者の協力による沿岸定点での大型クラゲ目視調査を行い、日本における分布北限域の分布動向を把握し、JAFICと水産振興課に情報提供しています。
JAFICは、全国から寄せられる情報を統合して、JAFICのホームページ上で全国分布図等の情報を掲載しています。

出現状況

  JAFICがまとめた11月16日時点でのエチゼンクラゲ出現分布情報の全国分布図(図2)を見てみましょう。エチゼンクラゲは、発生域の東シナ海から、対馬海峡を通って日本海に入り、対馬暖流に乗って日本海沿岸域を北上し、津軽海峡から津軽暖流に乗って三陸沿岸から関東沿岸まで到達します。そして北海道では、対馬暖流の沖側にいて津軽暖流に乗らなかったものがさらに北海道西岸を北上し、宗谷海峡に達します。10月7日に稚内水試試験調査船北洋丸から北緯45度40.8分、東経141度28.58分で大型クラゲ発見(トロール網に直径100cm以上1個体入網)の報告がありました。これは日本海最北端の報告例と思われます。 
    • 図2
  対馬暖流にいるエチゼンクラゲは宗谷海峡から宗谷暖流に乗り、オホーツク海沿岸に沿って10月21日に斜里沖(定置網)、11月4日にウトロ沖(定置網)と知床半島まで達しています。そして知床半島をさらに東にかわして根室海峡内の羅臼までエチゼンクラゲが 到達したことが示されています。11月5日の羅臼(定置網)からの報告は、日本で最も東にまで来遊した、おそらく初めての出現記録と思われます。また、最新データなので図2にはまだ反映されていませんが、11月13日に標津町薫別沖(定置網)で直径約100cmの1個体が出現し、現在、エチゼンクラゲは根室海峡中部を徐々に南下していることが分かります。

分布域と海流

  図3に日本周辺の水温分布図を示しました。
また、図4には日本海を流れる暖流の模式図を示しました。図2の出現状況で示されているエチゼンクラゲの出現分布は、日本列島を時計回りに流れる暖流(対馬暖流、津軽暖流、宗谷暖流)の範囲内にあることが分かります。このことは、海流分布を見ると、今エチゼンクラゲが 出現していない海域でも、今後、出現が予測される海域を推定できる可能性があります。そこで、図3から北海道周辺を切り取って拡大して、図5に示しました。図4の暖流の模式図と併せて見ると、日本海を北上してきた対馬暖流は、宗谷海峡から幅の狭い宗谷暖流となって知床岬まで流れていることを見ることができます。そこから先について、宗谷暖流の一部は根室海峡を南下しますが、残りは国後島の北側を東に向かって流れ、一部が国後水道を通って色丹島の東側から太平洋に流れ出ていることが水温分布から推測できます。さらに、色丹島の南には道東沿岸流が襟裳岬に向かって流れています。したがって、宗谷暖流にいるエチゼンクラゲが太平洋まで出てしまうと、道東沿岸に来遊する可能性があります。
    • 図3
    • 図4
    • 図5

道東沿岸は?

  エチゼンクラゲは暖水性の生物です。11月は降温期であること、また暖流がオホーツク海や太平洋の冷水と混合することで水温が急速に低下します。このような状況でエチゼンクラゲは活動力を保って浮遊し続けられるのでしょうか。今後、道東沖でエチゼンクラゲが出現するか否かは、低水温が道東沿岸をエチゼンクラゲの来遊から守る障壁としての機能を持つか否かを知るための重要な情報となるでしょう。
(中央水産試験場 田中伊織)

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