水産研究本部

試験研究は今 No.352「「歯舞地先ハナサキガニ分布域の底生生物調査」について」(1998年7月17日)

「歯舞地先ハナサキガニ分布域の底生生物調査」について

  釧路水域では平成9年度からハナサキガニ資源増大調査に取り組んでいますが、今回はその中の研究課題の1つである「ハナサキガニ分布域の底生生物調査」の平成9年度調査の結果概要についてお知らせします。

調査実施の経過

写真1
  平成9年度はハナサキガニの生息に関する環境要因および指標種として重要である底生生物(底生動物、海産植物)の分布構造を明らかにするとともに、外敵生物(魚類)を特定することを目的に実施しました。

  調査は、平成9年7~8月に写真1に示した根室市歯舞地先マッカヨウ岬の東側沿岸(写真左側)の平磯~水深3メートルの場所で、底生生物の種類、1平方メートル当りの個体数と湿重量、ならびに出現生物の大きさ等について行いました。また歯舞地先に生息する魚類9種を刺網で採集し、このうち5種について胃内容物の分析を行い、各ハナサキガニの食害の有無を確認しました。

  なお、今回の調査で採集された生物標本のうち、底生動物および魚類胃内容物の分析作業は、民間の調査機関(株式会社日本海洋生物研究所札幌支店)に業務委託して行いました。

底生動物の調査結果

写真2
  底生動物は平磯~水深3メートルの範囲に、合計144種類確認されました。各水深帯で最も出現個体数の多かった種類は、平磯区が巻貝のクロタマキビ(399個体/平方メートル)、水深1メートル区が巻貝のエゾシタタミ(53個体/平方メートル)、水深2メートル区が二枚貝のヌノメアサリ(53個体/平方メートル)で、水深3メートル区も同種(30個体/平方メートル)でした。

  海産植物は平磯~水深3メートルの範囲に緑藻2種、褐藻11種、紅藻18種および海産顕花植物のスガモの合計32種の分布が確認されました。ここでは水深1~2メートル区を中心にトロロコンブとガッカラコンブが大量に繁茂していました。

  所謂カニはシワガニ、ショウジョウガニ、ハナサキガニ、ヨツハモガニ、ヒラツメガニ、クリガニの6種類出現しましたが、水深1~2メートル区のクリガニ(1メートル区は22個体/平方メートル、2メートル区は11個体/平方メートル)以外、個体数は少ない状況でした。ハナサキガニは水深1メートル区のコンブ類の繁茂地帯に、甲長平均47ミリメートル(推定14齢期)の比較的大型の稚ダニ(写真2)力下1平方メートル当り2個体生息し、予想以上に高い密度で生息しているのが確認されました。今回の調査でハナサキガニは、砂成分の少ない底質の所にのみ生息していました。

魚類胃内容物の調査結果

  歯舞地先に生息する魚類の胃内容物分析では、動物69種、海藻8種の合計77種類の生物のほか、木片、石、砂などの非生物が確認されました。今回多くの摂食が確認されたのは、甲が殻類あコブヒゲハマアミ(写真5)で、本種は特にホッケが大量に摂食(230個体/尾)していました。

  ホッケの胃内から所謂カニは確認されませんでした。カニはウサギアイナメの胃内だけ、シワガニ、ショウジョウガニ、クリガニの3種が確認きれましたが、ハナサキガニを摂食していた個体は確認されませんでした。ウサギアイナメ1尾当りのカニの摂食量は1個体以下と僅かでしたので、ハナサキガニ資源の増減に関与する外敵生物とその可能性は、現状では、他の調査魚種を含め、低いものと考えられます。魚類の胃内容物調査は平成9年度で終了しましたが、ハナサキガニ分布域の底生生物調査は、歯舞地先の水深2~3メートルの特に砂成分の少ない底質の場所に調査区を移して、平成10年度も継続実施しで行います。
    • 写真3
    • 写真4
    • 写真5

(釧路水試 資源増殖部 阿部英沿)