水産研究本部

試験研究は今 No.371「イクラ製造衛生改善マニュアルについて」(1999年1月22日)

イクラ製造衛生改善マニュアルについて

はじめに

  昨年の6月に発生した病原性大腸菌0-157によるイクラ醤油漬け食中毒事件は、全国に衝撃を与えると同時に、道内の水産加工品への信頼が揺らぎ、本道の重要な産業である水産業全体への影響が憂慮されました。また、水産加工品を製造する衛生環境に対しても、消費者の目は、以前より厳しくなりました。イクラの製造工程には加熱して殺菌を行う処理はありませんし、イクラは加熱せずにそのまま食べられます。このためイクラ製造にあたっては、細菌汚染が少ない環境を整える必要があります。

2.衛生改善マニュアルの作成

  水産試験場ではイクラを安全に製造するための衛生改善マニュアル(印刷中)を作成しました。これは、大規模な施設の改修や、特別な機械を使用せずに、どこの工場でもできる日頃の衛生管理方法を示したものです。ここでは、その内容をかいつまんで紹介いたします。

  最初に水産試験場が行ったことは、イクラの製造実態について詳しく調査したことです。これには道内各地のイクラ加工場に協力していただきました。それは単に目で見ただけで、製造現場の衛生環境を判断するものではありませんでした。

  調査は工場にサケが搬入されてから、生筋子がサケから腹出しされ、これがイクラ製品となりて包装されるまでに使用されるすべての原料、器具、用具について、細菌の汚染状況を調べるものでした。そしてこの調査結果を詳しく検討し、どの工程の、どの器具が細菌汚染の原因になっているかを突き止めました。これをもとに各工場に共通する問題点を選び出し、それぞれの問題点についてどのような改善方法を行えば良いのかを示しました。

3.原点の保管について

  土間や屋外に放置せず、低温庫や水氷中で保管し、温度管理を徹底します。原魚の保管容器はこびりついた汚れを落すように丹念に洗浄した後、次亜塩素酸ナトリウム水(残留塩素濃度50ppm)で殺菌します。また、洗浄には水道水を使用することが原則ですが、やむを得ず地下水を用いる場合は、残留塩素濃度が0.2ppmになるよう次亜塩素酸ナトリウムで処理します。殺菌を行わない地下水では病原性大腸菌などの混入、海水では腸炎ビブリオなどの混入が考えられます。

4.洗浄方法について

  シャワー方式の洗浄では、十分に汚れが落とせない場合があるので、洗浄するもの全体を水中に入れる方法が良いです。高圧洗浄機は勢い良く噴射された水が床や壁、あるいは洗浄、殺菌していない器材などに当たり、それと同時に細菌を拾い上げて様々な方向に跳ね返えり、汚染を広げます。このため、折角きれいに洗浄、殺菌した器材や原料などが汚染されてしまいます。したがって、高圧洗浄は、跳ね返える水が他に影響を与えない専用の場所で行うことが大切です。高さのある器材などを洗浄する場合は、上から下へ向かって洗浄を行い、常に床などからの水が跳ね返えらないように注意、工夫する必要があります。溜め水も、汚れが溜まらない内にこまめに新しい水と交換します。

5.器具・用具

  魚卵の洗浄や水切り、保管、調味などに使用するザル、コンテナ、へらなどはきれいに洗浄後、次亜塩素酸ナトリウム水やエタノールで殺菌します。また、使用中にも数回使用するごとに殺菌します。これらの器具用具は素手で扱ってはいけません。また、各工程で専用の器具、用具を用意し、他の工程のものと混用しません。生筋子から生イクラを製造する魚卵分離器では、木製のもので、綿糸を張ったものが見受けられますが、木や綿糸は汚れを内部まで浸透させるため、洗浄、殺菌が困難です。また、木くずがイクラに混入すると予想されます。したがって、ステンレスや樹脂製の魚卵分離器に変更することが望まれます。各工程従事者はゴム手袋を使用し、使用後の洗浄、殺菌はもちろんのこと、作業中にも洗浄し、次亜塩素酸ナトリウムやエタノールで殺菌します。また、ある工程の従事者がその工程でのゴム手袋をはめたまま他の工程に従事してはいけません。

6.水切り・液切りについて

  洗浄後の生イクラの水切りや、調味後の液切りは、低温(10度以下)で短時間(数時間以内)で終了して下さい。日中の気温上昇が予想される9月では、特に注意が必要です。調味に使用する塩水や醤油調味液は煮沸かして殺菌を行い、低温で保管します。使用する際に必要量を取り出します。使用後のものは再使用しません。また、水切り、液切り中は落下細菌による汚染防止のため、ビニールシートなどによりザル上面を覆います。

7.その他

  製造工場内に外から風が吹き込まないようにします。フォークリフトなどによる工場外部と内部の相互汚染、また工場内部での作業スペース間の相互汚染防止を行います。エアコンなど空調機器内部の洗浄、殺菌も大切です。作業台、テーブルはしっかり洗浄、殺菌を行い、作業開始前、および作業中もエタノールなどにより殺菌します。

8.おわりに

衛生改善マニュアルを利用され、より一層の衛生管理に努めていただきたいと願っています。

(中央水試 加工部 北川雅彦)