水産研究本部

試験研究は今 No.377「外国産さけます類の移殖とその問題点」(1999年3月12日)

外国産さけます類の移植とその問題点

  北海道にはサケ、カラフトマス、サクラマスなどのさけます類が分布しており、官民一体となって資源づくりに取り組んでいるのはご承知のとおりです。また本道にはこれら以外のさけます類として幻の魚と呼ばれるイトウ、世界分布の南限のオショロコマ、そしてアメマスが生息しています。これらは産業面の価値は低いのですが、遊漁すなわち釣りの対象魚として親しまれてきました。そして昨今のルアー、フライ釣りの流行とともに人気が急上昇しているのが、同じさけます類のニジマスとブラウントラウトです。(写真1,2)。
    • 写真1、2
  ニジマスは北米原産で北海道には大正9年に初めて移植され、その後全道各地で移植放流が行われました。一方、ブラウントラウトはヨーロッパ原産で、北海道には昭和52年に初めて放流されました。

  これらの外来種は大型に成長することから釣りの人気が高く、釣り人らによって各地で放流事業が行われています。そして現在までに数多くの河川湖沼でその生息が確認されています(図1,2)。特にブラウンは、近年急速にその分布域を拡げています(図3)。
    • 図1
    • 図2
    • 図3
  ニジマスやブラウントラウトなどを移植放流すると、特に生態的に似た同じサケ科の在来魚との間に餌やすみか、産卵場所をめぐる競争が起こると考えられます。また、魚食性の強いブラウンの場合、在来魚を補食することも考えられます。では具体的には、在来種にどのような影響が及ぶ可能性があるのでしょうか。

  北米大陸では過去百年にわたるさけます類の移植放流によって、各地の在来種の個体群が大きな影響を受けました。カワマスやカットスロートトラウトなど在来個体群の生息数や分布域が、ブラウンやニジマスなどの移植によって激減したのです。在来種が移植魚に影響を受ける原因も詳細に研究されており、生息場所や餌をめぐる競争とその結果生じる成長の差、両者間の高水温への耐性や釣られやすさの違い、食う食われるの関係など、さまざまな要因が関係していると考えられています。

  本州、四国、九州のほとんどの県では内水面漁業調整規則により、ブラックバスやブルーギルをはじめとした外国産魚類の移植放流が制限されています。それは、これら外来種による在来種、特に漁業対象種への影響が明らかになりつつあるからです。

  これに対して、現在北海道では外来種の移植放流に関する法的規制は何らありません。いまのところ北海道では外来種の移植放流が生態系におよぼす影響は、科学的に調べられてはいませんが、新聞報道によれば、支笏湖ではブラウントラウトが昭和63年ころから年々増加するにともなってアメマスやヒメマスの分布域が変化したり、森町の鳥崎川ではブラウンの移植とともにサクラマス幼魚が減少したりといった影響が現れているようです。また北米での研究例をみても、道内で外来種が在来種に大きな影響をおよぼす可能性は非常に高いと考えられます。

  このような将来予測される事態に先駆け、最近水産孵化場では外来種の分布状況や繁殖生態などを調査し始めました。本道の貴重な在来さけます資源を保護・増殖するとともに、釣り資源として重要な外来種を管理することは重要な課題です。さけます類の移植放流が生態系におよぼす影響を科学的に解明し、その結果をもとに魚類の移植放流や保護管理に関わる何らかの指針を作成し、実行に移すことが急務であると考えます。

(道立水産孵化場 増毛支場 鷹見達也)