水産研究本部

試験研究は今 No.380「オホーツク沿岸でマツカワを追う!NO2」(1999年4月9日)

オホーツク沿岸でマツカワを追う!-その2-

マツカワ
  前回(第375号)に、網走管内で放流されたマツカワでは、再捕報告が非常に高くなってきていることを紹介しましたが、今回はどの様な場所で再捕されているのか、いつ頃成長しているのかなどの調査結果を紹介しながら、この海域におけるマツカワ栽培漁業の今後について考えてみたいと思います。

放流地点周辺でほとんどが再補される!マツカワ

  再補された海域と放流海域との移動距離で再捕尾数を調べた結果を表1に示しました。これでみるとわかりますように、97群を除いてどの放流群も20キロメートル以内での再捕が最も多く、次いで20~40キロメートル以内となっていて、放流地点からはそう遠くないところで再補されているのが明らかです。ちなみに、各放流群の100キロメートル以内での再捕率は93群の84.6パーセントから97群の98.9パーセントの間にあり、ほとんどが放流海域周辺で再補されている結果となっています。また、遠距離の移動例としましては、93群の小樽市高島沖(放流3年目の3月)、95群の増毛沖(3年目の5月)、96群の浦河沖(越冬放流2年目12月)でそれぞれ1尾ずつ再補されて、それぞれの水産技術普及指導所を通じて当水試に連絡がありました。また、日本海方面に移動する過程で、枝幸、猿払、稚内などで再補されていますし、根室・釧路を回って日高方面へ移動する過程で羅臼からも再補されています。

この紙面をお借りして、マツカワ再捕に協力下さった全道の漁業者の皆さんや漁組関係者、水産指導所の皆さんにお礼を申し上げます。

表1 網走海域から放流したマツカワの移動距離別再捕尾数(1999年3月)
放流群名 ~20km 20~40km 40~100km 100~200km 200km~ 採捕位置不明 合計
93群 16 5 1 3 1 2 28
95群 82 11 3 3 1 0 100
96群 67 49 21 7 4 7 155
97群 36 47 7   1   91

短期間で急速に成長する!マツカワ

  この海域では放流数が少ないので、漁獲したときに外部から識別しやすいスパゲッティ型標識を全個体に装着して放流してきました。標識の付いた再捕魚の測定データをもとに、放流日から再補日までの全長差や体重差を再補日までの日数で割った日間成長量を計算できました。それでみると、12月初旬に放流した95群では、翌年の 7月までは多くの個体がマイナスの値を示していました。しかし、8月からその値がプラスとなり12月までは月を追うごとに全長では0.1/日から0.4ミリメートル/日まで、体重では0.1グラム/日から1.0グラム前後/日まで増大しています。同じ傾向は、11月下旬に放流した97群でもみられ、翌年の春から7月までは日間成長量は全長でみると0.1ミリメートル~0.2ミリメートル/日、体重では0.2グラム/日以下で、8月から12月にかけて全長では0.2ミリメートル/日から0.4ミリメートル/日へ、体重では0.2グラム/日から1.0グラム前後/まで増大していました。越冬2年目も同様に、8月過ぎてから12月までが成長の著しい時期でした。

  具体的な数字でみますと、放流翌年(越冬 1年目)春の全長15センチメートル前後、体重50グラム前後から冬前には全長30センチメートル前後、体重500グラム前後まで成長するのです。越冬2年目には春先の全長30センチメートル前後、体重500グラムから冬前の全長42~45センチメートル、体重1.2~1.5キログラムに成長していました。

  このように、放流されたマツカワはこの海域では8月から12月の間で急激に成長することがわかりました。

今後は?

  以上に紹介してきたこと以外にも、漁獲される水深帯が成長に伴って春先の5メートル以浅から次第に深いところで捕れるようになる傾向(それでも80パーセント以上は10メートル以浅で再補されている)や、能取湖に放流された93群は刺網での漁獲が80パーセント近くで残り20パーセント足らずが定置網による漁獲であるのに対して、それ以外の放流群は定置網での漁獲が70~80パーセントで、刺網で10~20パーセントであることもわかってきましたが、詳細は紙面の制限もあるので別の機会に紹介することにしたいと思います。

  これからは、放流予定海域の5~15メートルの浅海域の餌環境条件を調べることや、中間育成にかかった経費や漁獲されたマツカワの単価などを考慮しての放流経済効果を調べることに力を注ぎたいと思っています。そして、この地域での魚類栽培漁業の1モデルとして事業化できるのか否かを斜里・網走・常呂マツカワ栽培漁業協議会の関係者とともに検討していきたいと思っています。皆さんの、今まで以上のご協力を引き続きお願いいたします。

(網走水試 資源増殖部主任研究員 川真田憲治)