水産研究本部

試験研究は今 No.306「ハナサキガニ資源増大調査について」(1997年6月6日)

ハナサキガニ資源増大調査について

  道東の夏の味覚の一つにハナサキガニがあります。ハナサキガニは日本近海では襟裳岬から納沙布岬に至る太平洋沿岸と根室半島根室海峡側沿岸の一部に生息しています。とくに根室半島沿岸域は主要な分布域となっており、水産資源としてばかりではなく観光資源としても重要な地位を占めています。

  以前、北方四島周辺でも操業していたころは根室だけで年間1,000トン以上の水揚げがありましたが、昭和52年から四島周辺でのカニ漁業が禁止となったことにより、漁獲量は大幅に減少しました。また、その後も根室沿岸での漁獲圧の高まりなどで年々漁獲量が減少したため、根室沿岸のハサキガニかご漁は昭和56年から3年間禁漁としました。

  しかし、その間、根室海域ハナサキガニ資源調査推進協議会(平成3年に根室海域ハナサキガニ資源維持増大対策連絡協議会と改称)が主体となって資源調査を実施し、許容漁獲量を設定するなどの自主的な資源管理を行ってきました。その結果、禁漁後は漁獲量が徐々に増加し、平成5年には昭和52年以降では最高の443トンの漁獲量を記録しました。ところが、その翌年には急減し、平成7年以降は100トン未満の漁獲量となりました(図1)。
    • 図1
  このような状況から、地元からは観光資源としても重要なハナサキガニを天然資源の管理だけでなく、積極的に増やしたいという切実な要望が寄せられました。そのため、平成9年4月からハナサキガニ資源の増大に向けた取り組みを行うことになり、「ハナサキガニ資源増大調査」として事業化が決定しました。

  この事業は、平成9年から12年までの4年間行う計画です。いつ、どこに、どれくらいのサイズの稚ガニを放したら最も効果的なのかを推定するため、まず、天然稚ガニの分布・食性・生息環境を調査します。また、人工種苗放流のため標識法の開発等、稚ガ三の放流に向けた基礎試験を実施しま'す。これらが終了した後、放流技術の検討を行い、平成13年以降に実証試験を行う予定をしています(図2)。
    • 図
  次に具体的な事業の課題と年次計画について紹介します。

1.天然ハナサキガニの生態調査
(1)時期別分布域の特定(H9-H12)
(2)分布域の物理的環境条件の解明(H9-H12)
(3)分布域の底生生物調査(H9-H12)
(4)発育段階別食性の解明(H9-H10)
2.南千島海域における情報収集(H10-H12)
3.中間育成技術開発 年齢と齢期、成長との関係解明(H9-H12)
4.放流技術開発
(1)標識技術の開発(H9-H12)
(2)種苗性の評価(H10-H12)
(3)放流効果調査(H10-H12)

  ところで、この事業は、かなり規模の大きなものとなるため、釧路水試、根室地区水産技術普及指導所のほか、網走水試、道立栽培漁業総合センターでも課題を分担し、地元ハナサキガニ協議会、日栽協の協力を得て実施します。具体的には、1一(1)(2)(3)、2,3,4一(3)を釧路水試が1一(4)を網走水試が、4一(1)(2)を栽培漁業総合センターがそれぞれ担当します。

  また、3の年齢と齢期の関係を解明するための飼育試験は根室市水産研究所に委託しました。

  なお、既に4月から調査を開始しており、4月24,25日に歯舞地区と落石地区で1回目の稚ガニ磯採集調査を行いました。歯舞地区の調査では、雪混じりの強風の吹く中、水試、指導所、支庁の担当者と地元ハナサキガニ協議会のメンバーで35尾の稚ガニを採集し、貴重なデータを得ることができました。

  まだまだ始まったばかりの事業ですが、ハナサキガニ資源の増大に向けて努力していきたいと思っています。

(釧路水試 資源管理部 武藤 卓志)