水産研究本部

試験研究は今 No.307「今春、留萌管内と稚内地区に豊漁をもたらしたニシンについて」(1997年6月13日)

今春、留萌管内と稚内地区に豊漁をもたらしたニシンについて

  道水産部と関係機関による「日本海沿岸性ニシン資源増大プロジェクト」がスタートして丁度1年目。本年3月から4月にかけて、留萌管内と稚内市で時ならぬ産卵子シンの来遊があり、漁村をわかせました。水揚げの盛況ぶりが、報道機関によって報じられ、漁業関係者に留まらず、多くの人たちの関心を呼ぶところとなりました。

  水産試験場と関係水産技術普及指導所では、上記プロジエクトの一環としてこのニシンに関する調査を実施しています。

  現在資料解析の途中ですが、これまで得られた結果から以下にこのニシンの特徴などについて紹介します。

1.漁況について

  表1に示すように、沿岸漁業によって留萌管内で合計114トン、稚内で11トンの水揚げがありました。いずれもこの時期の沿岸漁獲量としては、昭和62年4月稚内の32トンを除いて、最近20年間で最高の水準でした。

  留萌管内でも特に漁獲が多かったのは小平と留萌で、留萌港から臼谷にかけてのごく沿岸の狭い範囲に漁場が形成され、時期的にも3月に集中して漁獲されました。稚内の漁場は、稚内港東側と坂の下のごく沿岸に形成されました。漁獲の多かったのは坂の下で、時期的には4月上旬に集中して漁獲されました。

  表1:平成9年春季留萌支庁管内および稚内漁業協同組合ニシン沿岸漁獲量
沿岸 3月 4月 合計
増毛 1354 0 1354
留萌 38664 745 39409
小平 46826 459 47285
苫前 11514 233 11747
羽幌 9816 2006 11822
初山別 1740 902 2642
小計 109914 4345 114259
稚内 1064 10015.5 11083

2.漁獲されたニシンの特徴

  稚内、留萌管内いずれのニシンも成熟魚で、稚内では漁具への放卵(写真)が確認され、留萌では種苗生産用親魚として受精卵採取ができたことなどから、漁場近くで産卵しているものと思われます。また、上述した漁況の推移および生殖巣の観察結果から、それぞれ漁獲のピーク付近が産卵盛期と思われます。

  魚体の大きさは、尾又長230,240ミリメートル台のものが主体である点で各地区とも共通していましたが、南の地区ほど大型魚が多い傾向が認められました(表2)。また、厚田と比較すると明らかに小型であることも特徴的でした。なお、昨年と比較すると、年齢が異なると思われる尾又長280ミリメートル台のモ一ドが見られない点で大きく異なっていました。

  軟X線撮影による、脊椎骨数の調査結果では、今年の稚内のニシンは平均で54.23~54.46、留萌管内のニシンは同じく54.22~54.43で、厚田のニシン54.36~54.59よりも若干少ないものの大差無い値でした。なお、留萌管内の場合昨年の平均54.43~54.56よりも若干少ない値でした。

表2:平成8、9年の春(2-4月)に北海道北部日本海沿岸で漁獲されたニシンの尾叉長組成
年月 場所 尾叉長(ミリメートル)
200 210 220 230 240 250 260 270 280 290 300 310 320 330
平成9年 3~4 稚内 0 4 23 84 81 48                
3 羽幌   3 32 73 46 7 1 1            
3 苫前   5 36 111 85 23 2              
2~4 留萌   3 38 173 199 65 6 1 1 1        
2 厚田   4 23 84 81 45 21 17 12 12 6 3 2 1
平成8年 3~4 苫前     2 10 22 9 24 50 27 3        
3~4 留萌   3 17 66 74 31 14 25 17 8     1  
2 厚田   3 9 7 4 13 31 68 50 44 13 5 2  

3.系統群について

  留萌管内および稚内沿岸で2~4月に産卵するニシンに関する知見は、極めて少ない現状です。

  今回得られた結果を、周辺海域を含めたこれまでの知見と比較すると、稚内と留萌管内のいずれのニシンも、上述した産卵時期および鱗相が不鮮明な点で、石狩湾で産卵が知られている石狩湾系統群および稚内坂の下から報告された群に類似しており、北海道サハリン系統群などとは異なっていました。これらの群は、小林(1993年)によって集団遺伝学的にそれぞれ固有の集団とされており、いずれに属するのカ)、集団遺伝学的手法も導入した今後の解析が待たれます。なお、従来集団区分の特徴の一つとされていた脊椎骨数については、今回得られた値がこれまで知られるニシン集団の中間的な値を示すこと、年齢によって変動する可能性があることなどから、今後あらためて検討を要するものと思われます。

(稚内水試 資源管理部 宇藤 均)
(現:中央水試 資源増殖部)