水産研究本部

試験研究は今 No.308「バカガイ種苗量産化試験開始!」(1997年6月20日)

バカガイ種苗量産化試験開始!

  栽培漁業総合センターでは、これまでバカガイの種苗生産への基盤となる研究を行ってきましたが、今年度から「バカガイ種苗量産技術開発試験」として生産規模を拡大した量産化試験へ移行します。当面はホッキガイで開発された技術を応用して、10万個規模での種苗生産を目指し、安定して大量生産するための新たな技術開発を行います。生産された種苗を用いて、江差町沖で檜山南部地区水産技術普及指導所と協力して海中でのより良い中間育成方法の開発を行います。

  バカガイ(通称エゾバカ)は全道的に分布していますが、主に道南日本海沿岸で漁獲され、すしネタとして大部分が東京方面に出荷されています。バカガイの成長はホッキガイに比べて早く、3~4年ほどで漁獲サイズの7センチメートルにまで達します。

  寿命はホッキガイに比べて短いと考えられています。現在バカガイの資源は安定していますが、将来資源が減少した時に漁獲量への影響を少なくするためにもバカガイの種苗生産には大きな意味があります。
種苗生産・中間育成の技術開発は、大きく分けて以下の4つになります。

1.親貝養成

  飼育水温を調節することによって親貝の成熟時期をコントロールします。現在、親貝を16~18度の一定の水温で飼育し、自然産卵を防いで長く成熟状態を持続させることができています。これからは、稚貝の飼育期間を長くして、より大きな個体生産を可能とするためにも、天然より早く成熟させ卵をとっていく技術が必要です。

2.幼生飼育

  次のぺ一ジに、産卵誘発で得られたバカガイの未受精卵と受精直後の受精卵と2細胞期の写真を示してあります。これらを水槽に収容して、幼生飼育を開始します。現在0.5トン水槽での安定した飼育が可能となっています。以前は流水飼育をしていたため、幼生飼育が安定せず多くの幼生が死んでしまい、沈着させて稚貝を得るのに大変な時期がありました。しかし、止水にして非常に強い通気を行うことによって、生残率を向上させることができました。泡によって出来る水槽の中の流れが幼生を巻き上げて良い結果を生んだようです。あとは飼育密度や給餌濃度、さらに大型の水槽での飼育条件などを調べていくことが必要です。

3.稚貝飼育

  沈着期を迎えた幼生は次に砂床での飼育に移ります。1トン水槽で1換水/日程度(1分間に300~400ミリリットル)の注水で飼育します。この方法で5ミリメートルの稚貝は生産できますが、生残が非常に悪く生産が安定していません。調べてみると、図1に示すように沈着後の死亡が多く、減耗のほとんどはこの時期に起こります。この壁を乗り越えるために、沈着時期、飼育方法、給餌方法などいくつかの試験を計画しています。

4.中間育成

  生産した5ミリメートルの稚貝を使って海中での中間育成を行います。数年前から檜山南部地区水産技術普及指導所が調査を開始し、いくつかの方法が試みられました。今後は当センターも加わって引き続き試験を行います。現在主流となっている育成器を用いた中間育成法は砂を用いるため、施設・作業面で大きな負担となります。このため生産数が増大しても施設・作業面での簡素化が図られる砂を用いない育成方法が望まれています。砂を用いない図2に示すようなホッキガイで高い生残率が認められたタマネギ袋での垂下方法を中心として、別にこの袋を着底させて育成する方法も検討中です。

  これから始まるバカガイの量産化に向けて様々な問題がありますが、この事業より1年早く天然での調査を開始した函館水産試験場、これまで中間育成法を検討してきた檜山南部地区水産普及指導所との連携を強めて、量産化に向けて一つずつ問題を解決していかなければなりません。種苗を大量に生産する技術を確立することで、日本海沿岸を中心としたバカガイ資源増大の一翼を担っていこうと思います。
    • 図

(栽培センター貝類部 奥村 裕弥)