水産研究本部

試験研究は今 No.314「根室支庁管内のナマコの産卵期と禁漁期の改正」(1997年8月1日)

根室支庁管内のナマコの産卵期と禁漁期の改正

はじめに

  根室支庁管内の平成7年のナマコの漁獲量は27トン(全道の漁獲量1,273トンの2パーセントに当たる)と少ないのですが、沿岸漁家にとっては重要な根付け資源となっています。漁業調整規則では、根室支庁管内のナマコの禁漁期は納沙布岬を境にして根室海峡側は5月1日から6月15日まで、太平洋側は7月11日から9月20日までとなっていました。しかし、以前より根室北部の漁業者から禁漁期を規定している漁業調整規則が実態に合っていないことが指摘されていました。

  このため、資源保護上からの規則改正の根拠となる産卵期調査が要望されていました。そこで、平成8年5月~9月にかけて羅臼、根室の両漁業協同組合、根室地区、根室北部地区両水産技術普及指導所の協力を得てナマコの産卵期調査を実施しました。

調査方法

  調査用のナマコは平成8年5月13日から9月17日にかけて、5月、9月は月に1回、6~8月は月に2回、羅臼(水深10メートル),根室(水深3~4メートル)で各地各回30個体を目途にナマコ桁綱とスキューバ潜水により採集しました。採集したナマコは生殖巣とその他内臓を除去した殻とに分け、それぞれについて湿重量を測定しました。

  これらの値を用いて生殖巣重量の相対的変化を示す生殖巣指数(生殖巣重量X100/殻重量)を算出しました。また、現場水温の参考にするため、羅臼漁組採苗場と根室市ウニ種苗生産センターの汲み上げ海水の水温資料を用いました。

調査結果

  生殖巣指数(図1)は羅臼、根室とも5月に低く、8月下旬に最高値を示し、以後、9月に最低値を示しました。羅臼の指数は9月を除いて根室より全般に低く、これは小型個体が多かったためと思われます。生殖巣指数平均値の標準偏差は7月下旬から8月下旬に大きいのでこの時期に産卵が行われたものと考えられました。
水温は、7月までは羅臼、根室とも同様な傾向で上昇しましたが、以後、8、9月は羅臼が高めに経過しました。木下・渋谷(1939)は北海道産ナマコの産卵の始まる表面水温は太平洋側で13~14度であると報告しています。羅臼、根室について13~14度に達した時期をみますと7月中・下旬になっており、この時期に産卵が開始されたと思われました。

  産卵期は前述した生殖巣指数の変化と産卵開始水温から7月中旬~9月上旬であると判断されました。

禁漁期の改正

  これまでの漁業調整規則は、今回の調査結果と照らし合わせて実態に即していないことが明らかとなりましたので、根室支庁では北海遣水産部漁業管理課を通じ根室海峡側を根室太平洋側と同時期の禁漁期間にするよう改正を行いました。

  その結果、北海道規則第13号北海道海面漁業調整規則の一部を改正する規則(平成9年3月28日付け)により、第39条第1項の表、なまこの項が表1に示したように改正されました。

おわりに

  産卵期の親を保護して子を生ませ資源につなげるため、に、禁漁期を設定することは水産資源管理の最も基本的な方法です。木下・渋谷が全道一円に亘るナマコの産卵期調査を行い、その結果を基に産卵期間を禁漁にすべきであると1939年に提言して以来、実に60年近く経って根室海峡のナマコの禁漁期が改正されたことは、意義深いものがあります。規則は一旦制定されると、よほどのことがない限り改正しずらい面があります。今回、改正に踏み切らせたのは、地元漁業者の資源保護に対する強い熱意があったからだと思います。
    • 図1、表1

(釧路水産試験場 資源増殖部 丸 邦義)