水産研究本部

試験研究は今 No.312「貧酸素噴火湾底層水」(1997年7月18日)

試験研究は今 No.312「貧酸素の噴火湾底層水」(1997年7月18日)

貧酸素の噴火湾底層水

  1995年9月始め、噴火湾中央部でアカガレイがまったく獲れないとの通報を受けて、その原因調査に着手しました。網が臭かったとのことでしたので、溶存酸素量を調べた結果、海底直上水の酸素量が異常に低いことがわかりました。

1.溶存酸素量の鉛直変化

  1995年9月26日に噴火湾最深部(図1St.5)で実施した、試験調査船金星丸(函館水試所属)による2回目の調査結果を図2に示しました。80メートルより深いところでは、水温5.3度塩分33.45(psu)であり、海底直上(1メートル上)水の溶存酸素量は3.08ミリグラム/リットル、飽和度31パーセントでした。ここで飽和度というのは、ある水温・塩分のもとで、海水中に溶けうる酸素量に対す百分率のことです。
    • 図1
    • 図2
図3
 砂原から豊浦までの断面の水温分布をみると、深さ20~30メートルと60~80メートルのところに水温躍層(水温が急に変わる層)があります(図3)。塩分の分布と併せてみると、中層に津軽暖流水が流入していることがわかります。表層水は夏期噴火湾水であり、底層水は冬期噴火湾水と呼ばれているものです。

後者は夏にも底層に停滞していたことになります。水温躍層があることは、その上下で海水の混合がないことを意味しますので、酸素は底層へ補給されないことになります。したがって底層水中では有機物の分解に伴う酸素消費が一方的に進むことになります。

噴火湾は、湾口の最も深いところの水深が約85mであるのに対して、湾中央部の最深部が約95メートルですので、中央部の底層水が滞留しやすくなる構造になっています(図1)。そのため、夏季に底層水の酸素飽和度が40~50パーセントほどにまで低くなることは20年ほど前から知られていました。

2.底層水の溶存酸素の周年変化

図4
  湾中央部底層水の溶存酸素量は1996年2月に9.4ミリグラム/リットル(飽和度89パーセント)でしたが、その後減少し、同年9月に1.5ミリグラム/リットル(飽和度15パーセント)に減少しました(図4)。

  底層水は1995年と同様に、1996年にも酸素が少ない状態になりました。

  底層水の溶存酸素量は夏に急に少なくなります。酸素が少なくなるのは、海底付近の有機物が分解されるときに、酸素が消費されるからです。その速度は底層付近の水温や有機物量によって、また底層水の滞留度合などによって、年によって変化すると考えられます。

3.アカガレイの分布との関係

  アカガレイは低温性なので夏には湾の深いところに生息しています。1995~ 1996年には貧酸素の最深域を避けて、酸素が十分あって、かつ我慢できるやや低水温の深度85メートルほどの水域に移動したと推察されます。漁場が移っただけそあり、「漁獲量か著しく減少したわけではありませんでした。しかし、アカガレイやトヤマエビにとって好適な生息環境が数か月間失われたことになります。

4.低層での溶存酸素量の復元

  1995年11月(噴火湾の中層より上は津軽暖流水に占められていました。しかし60~70メートルのところにはまだ氷温躍層があり、底層水の水温は9月と変らないために、酸素飽和度は65パーセントまで回復していました。このことは、湾外の150メートルより深いところにある、底水温でかつ酸素が十分ある水が、湾口の底に沿って湾内底層へ流入したことを示唆しています。

  冬には、鉛直混合(大気によって冷やされた表面水は重くなって沈むので、このことが繰り返されて、表層水と底層水が混合すること)によって、水温躍層は消滅し、底層水の貧酸素状態は解消されます。しかし、秋には底層に沿った湾外水の流入によって、酸素が供給されていると推察されました。

  水産試験場は今年もこの調査を継続します。1997年5月の最深部直上水の酸素飽和度は前年同期よりも低く、56パーセントでした。
 
  噴火湾のアカガレイは今年もまた苦しい夏を迎えそうです。

(函館水試室蘭支場 西浜雄二)