水産研究本部

試験研究は今 No.328「稚ガニ磯採集調査同行記」(1997年12月12日)

稚ガニ磯採集調査同行記

「いってらっしゃい!」「おみあげよろしくね!」
同僚たちに冷やかしのような声を掛けられながら根室へと向かう。「まったく、大潮だか何だか知らないけど、花の金曜日の、それも夜の夜中に調査をするなんて・・・」

  今回は、ハナサキガニ資源増大調査の稚ガニ磯採集に同行しましたので、その様子について紹介します。

  この調査は今年の4月に始まったばかりで向こう4ケ年をめどに道東地域の特産種であり重要資源でもあるハナサキガニの資源を増やすための基礎資料を得ることが目標です。(詳しくは、「試験研究は今」NO.306号をご覧になって下さい。)

  集合時間のの30分程前に現場に到着。調査の支度をしていると、今回調査に参加するメンバーがどんどんやって来ます。地元漁協や市役所員、水産指導所、支庁水産課に我々水試と、総勢13名が集まりました。暗闇の中で身支度をする様子は、何だかちょっと怪しくて、まるで密漁者の風情です。支度も終わり、調査地点へと移動します。採集場所は海岸から突き出た小さな小島で、潮が大きく引く大潮の時しか歩いて渡れません。(といっても腰の高さほどの海水に浸かるのですが。)
    • 図1
  『冷てえっ!』可哀想に根室水指の青柳主査のドライスーツには穴が空いていたようです。そう言う私はどうかというと、指導所からお借りした、特大のドライスーツを自分の巨体で引き千切らんぱかりにしながら海藻で滑りやすくなっているすくなっている玉石原を越えて理場に着く頃には、もうへとへとになっそいました。

  さあ、ここからが本番です。各自それぞれにバケツを持ち、頭に付けたライトの光を頼りにカニの採集が始まりました。ベテランの人達は、自分の漁場(?)があるのか、さっと散って行きました。一人残された自分は、「今日は取材のためだから。」と言い訳を考えながら、「一匹も採れなかったらどうしよう。」と必死になって探しました。しばらくして目が慣れてくると、いました、いました、波間に漂うコンブの下に。慌ててカニに手を伸ばすと、以外とあっさり『御用!』となりました。「取材」の事も忘れて30分もする頃には、バケツに半分程のカニを捕まえることが出来ました。ふと我に返ってあたりを見渡すと、漆黒の海が月明かりに照らされていて、不気味で美しい不思議な風景でした。差し詰め、『大人の潮干狩り』といったところかな、とばかなことを考えていると、顔にライトの光を当てられました。見ると、なんと岩場に腰掛けてタバコを吸っているではありませんか。まじめにやれ!と注意しようと彼のところに行くと、支庁のT係長。バケツを見てまたびっくり、ハナサキガニが山のようにあふれていたのです。日く「たくさんいるんで飽きちゃってさあ。」

  ま、係長程はないにしても、これだけあれば誉めてもらえるだろうと、みんなの所に戻って報告すると、「バーカ!喰うために採ってんじゃねぞ!」、そうでした。今日は稚ガニの採集に来ていたのでした。
    • 図2
    • 図3
  開始してから2時間程で採集終了、今度はその場で測定作業が始まりました。みんな手慣れたもので、てきぱきと作業が進みます。自分に出来る手伝いは、測定し終わったハナサキガニを放流することだけでした。結果、オス151匹、メス112匹の合計263匹で、甲長25~30ミリメートルのサイズが一番多かったそうです。

  4月から始まったこの調査も、月一回のぺ一スで今回が7回目、次回は12月初旬ということです。重装備とはいえ寒い野外での作業にはかなり厳しいものがあります。このような地元の人達の努力が実を結び、ハナサキガニの資源が安定的に供給される日がくればいいなあと、心から思いました。

  時計を見ると、あと30分で午前0時。さあ、宿に帰って風呂入って、夕飯の時に残しておいた、カニと一緒にビールでも飲もうっと。

(釧路水試 企画総務部企画情報 主査 小松 靖)