水産研究本部

試験研究は今 No.323「漁業系廃棄物に関する共同研究について」(1997年10月31日)

漁業系廃棄物に関する共同研究について

  漁業系廃棄物であるホタテガイ中腸腺、イカ内臓、ヒトデ等の処理は、本道水産業の抱える大きな問題の一つです。魚価が低迷する中、これらにかかる処塵コストは漁業者の大きな負担であり、さらに処分場の確保も各自治体にとっては大きな重荷となっています。一方でこれらの廃棄物には非常に有効な成分が含まれていることも知られています。したがって、これら有価物の回収技術の開発を行い、廃棄物の処理コストの低減を進めることは非常に重要であり、急がれています。

  水産試験場加工部では、今年度から良間と共同で、「未利用水産バイオマスからの有価物の回収技術開発」をスタートさせ、有効成分の把握や分離・抽一出技術の基礎的研究を行っていますので、その事業の概要について紹介します。

1.共同研究体制

  この共同研究は北海道総合企画部所管の事業として行っています。水試の研究体制は中央水試加工部、釧路水試利用部、網走水試紋別支場の3場、民間企業は(株)マリンケミカル研究所となっています。マリンケミカル研究所は、平成9年2月3日に設立され、研究所は函館市桔梗町にあります。同研究所は水産資源の有効利用を目的に、農水省の特別認可法人、生物系特定産業技術研究推進機構(生研機構)と(株)北海製罐、(株)綜研化学、(株)大林組が出資した半官半民的な企業となっています。また、この事業の協力機関として京都府立医大、北海道大学農学部・水産学部、道立道南農試、道立工業技術センター、(株)小樽製作所等が参加しています。

2.事業の概要

  全体計画のフロー図を裏面に掲載しました。この事業は平成9年から12年までの4年計画で行われます。ホタテガイ中腸腺からは成人病予防機能を有するイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸(生理作用は本誌NO.238参照)の分離・回収、ホタテガイ生殖巣、イカ肝臓、ヒトデ体壁からは、抗酸化機能を有するアスタキサンチンの分離・回収。また、ヒトデ内臓からは、乳化機能を有するグリセリルエーテルの分離・回収を水試が主体となって行います。そのほか、ホタテガイ廃棄物からのエキス化を図り、その利用についても研究を進めています。これらの活用技術および機能性食品基材などの展開はマリンケミカル研究所が主体となり、マイクロカプセル化による医薬品、飼料添加による機能性成分の鶏卵などへの移行、さらに、グリセリルエーテルの化粧品への添加などを行う予定になっています。

3.平成9年度の事業実施内容

  1. ホタテガイの季節的成分調査を噴火湾海域(4月~12月)、オホーツク海域(4月~12月)で実施します。
  2. 成分調査部位は、中腸腺、生殖巣、その他(エラ、外套膜)の3部位とし、水分、タンパク質、脂肪、灰分、 遊離アミノ酸を測定します。
  3. また、中腸腺については脂質中のドコサヘキサエン酸(DHA)、イコサペンクエン酸(IPA)、トリグリセ ライド(TG)含量の測定とTG中のEPA濃度を測定します。
  4. 業務は、オホーツク海域を網走水試紋別支場、噴火湾海域を中央水試加工部が分担します。
  5. 企業化を想定した脂質の抽出は煮取り法を中心に、脂質含量の多寡、添加魚油の種類、温度、自己消化での 抽質効率について検討していきます。この試験については釧路水試利用部が北大水産学部の協力を得て行います。
  6. また、ヒトデ内臓からのグリセリルエーテル含量の季節的成分調査も釧路水試の担当で行います。
  7. マリンケミカル研究所は、これらのデータをもとに実生産での抽出・分離・精製技術の開発を行います。

4.事業の展開

  この事業はスタートしたばかりですが、基礎試験データを積み重ねて実証試験を行い、今後設立される各地の抽出工場、精製工場への技術移転を図る計画となっています。早急に漁業系廃棄物の問題を解決できるよう実効ある研究を進めていきたいと思います。
    • 図

(中央水試加工部)