水産研究本部

試験研究は今 No.339「サケマス類の遊魚に関する調査研究の今とこれから」(1998年3月27日)

サケマス類の遊魚に関する調査研究の今とこれから

  最近、遊魚(この言葉は職漁という語に対する行政サイトの造語であり、釣り人からはあまり良い評価は得られていません)についての調査研究ニーズが増えてきています。発端は忠類川における秋サケ有効利用調査であり、道内のみならず本州かちも大勢の釣り人が押しかけ、地元に大きな経済効果をもたらしたことはご存知だと思います。サケマス釣りがひとつの大きなレジャー、ひとつの大きな水産関連産業となる可能性があることに人々が気付き、またサケマス釣りの先進地である北米から様々な情報が入ってくるようになって、海、川を問わず、釣りというものに対する意識が変化してきました。昨年の11月に札幌で開催された水産庁主催の「漁業・遊魚交流シンポジウム」や、今年1月に小樽で開催された水産林務部・艀化場主催による「サクラマスフォーラム」など、釣りをメインテーマにした集まりが民・官を問わず頻繁に開かれるようになり、それぞれ多くの人々が参加していることからも、釣りの重要性が認知されつつあることがうかがえます。このような背景から、水産艀化場の中でも釣りというものに対する調査研究の取り組み姿勢が変化しています。

  今のところは予算の裏付けがある研究事業は行っておらず、手弁当的な仕事となっていますが、当場が行っている釣りに関する調査研究と将来的な方向についてご紹介したいと思います。

  もともと北海道ではヤマベ釣りが盛んに行われてきました。ただ、私達のように増殖事業とそれに伴う調査研究を行う者にとっては「ヤマベの新仔釣り」は天敵であり、何とか規制する方法はないものかとデータ集めに奔走していました。

  図1は、少々古いデータなのですが、積丹半島にある禁漁河川の余別川と、規制のない美国川における放流ヤマベ、すなわちサクラマス幼魚の生息密度変化を調べたものです。余別川に比べて美国川の減り方が激しいのが分かります。でも、これだけでは釣りによる減少がどうか分かりません。そこで、同じ年の8月の幼魚の体長組成を調べてみました(図2)。すると余別川では正規分布型を示すのに美国川では9センチメートル以上の魚はほとんどみられませんでした。これは釣りによって大きな魚が釣られてしまった結果と考えられます。このような、釣りが増殖事業に影響を及ぼしていることを示すデータは他にも沢山あります。
  しかし、最近では釣りを増殖事業の敵として見るのではなく、共存する方向に考え方が変わってきています。これにはもちろん、釣り人自身の意識の変化も大きく影響しています。当場の真狩支場の職員が、札幌、函館、余市の釣具店において、内水面の釣りについて意識アンケート調査を行いました。その中で、ヤマベのキャッチ&リリースについて聞いたところ、実に96パーセントの釣り人が賛成と答えています(図3)。漁業と同様に、釣りにおいても資源を乱獲することは自分の首を締める結果になるという意識が浸透してきた証拠でしょう(より大きいヤマベを釣りたいという理由もあるようですが)。
    • 図3
  では、どうしたらよいのでしょう。釣り人による自発的なルール化もひとつの方法ですが、効果の面を考えるとやはり何らかの規制が必要であると考えます。この規制には、増殖という観点からの場所や時期等の規制と、釣り人のための公共資源を守るという観点からの体長や数的な制限が考えられます。残念ながら、私達には後者についてのノウハウがありません。そこで現在は、北米における規制体系を学ぶために現地へ赴いたりして資料を収集している段階です。当然、意識や社会的背景が異なる北米のシステムをそのまま北海道に適用できるかどうかという問題点もあります。この問題も含めて、規制措置の導入については色々なデータの蓄積が必要だと思っています。釣りに関する研究課題は他にもあります。例えば外来種の問題があります。詳しいことは別の機会に紹介しようと思いますが、ニジマスやブラウントラウトといった外国産の魚が非常な勢いで増えていること、ご存知でしょうか。これは釣り人による放流が原因なのですが、こうしたゲリラ的放流を規制するためにも、外来種に与える生態的・遺伝的影響についてもデータを集める必要があります。

(水産艀化場総務部企画室)