水産研究本部

試験研究は今 No.332「日本海沿岸におけるサケ幼稚魚の餌生物」(1998年1月30日)

日本海沿岸におけるサケ幼稚魚の餌生物

  1995年春から、留萌支庁の増毛沿岸においてサケ幼稚魚の生態と環境のモニタリング調査が行われています(本紙、NO.268)。今回は、1996年春の調査結果を中心に、沿岸域でサケ幼稚魚がどんな餌を食べて成長しているのか紹介します。この調査では、サヨリ2艘曳き網という方法でサケ幼稚魚を採捕しました。サケ幼稚魚は4月下旬から捕れ始め、5月下旬までは、岸から500メートル以内に多く、特に、増毛港の東隣りに位置する朱文別の小湾に多く滞留していました。この間、サケ幼稚魚は平均体長で5センチメートル台から7センチメートル台に成長しました。6月になると、沖合1~3キロメートル地点で、平均体長8センチメートル台のサケ幼稚魚が捕れ、成長にともない沖合、北方への移動回遊がなされているようです。

  サケ幼稚魚の主要な餌生物は裏面の図のように交代してゆきました。ソコミジンコ類(海藻等に付着する底生榛脚類)は4月下旬に多く捕食されていました。ソコミジンコ類が降海直後の重要な餌生物であることは、本紙NO.156号にも紹介されています。5月になると、餌の種類は多様になり、4センチメートルないし5センチメートル台の小さなサケは主にソコミジンコ類を食べていましたが、5センチメートルないし6センチメートル台の大きなサケはトルタヌス(沿岸性プランクトン、榛脚類)やヤドカリの浮遊幼生等、やや大型の餌を食べていました。5月下旬までに食べられていたこれらの餌生物は沿岸域に特有の種類が多く、岸近くの静穏な入り江がサケの索餌場として重要な場所であることがわかりました。また、捕食されている数は少ないもののイカナゴ稚魚は大型であるため、5月中の重要な餌生物となっていました。5月末以降は餌生物が交代し、アカヒゲカラミジンコ(榛脚類)やオタマボヤ類(尾虫類)等の外洋性プランクトンが多く捕食されていました。

  沿岸域でプランクトンネットを曳くと、サイズチボヤ類(尾虫類)やヒドロクラゲ類が多く採集されますが、それらにくらベサケの餌となっている生物はずかです。サケは大型で栄養価のある餌を選んで食べることで、捕食のための労力を節約し、体の成長を促しているようです。1997年の日本海へのサケ来遊数は大幅に減少しました。春先のサケをとりまく沿岸環境がどの程度、資源変動に影響しているのか、この調査を通じて明らかにし、増殖技術の改善に繋がれぱと考えています。
    • 図1~6

(中央水試海洋部 平野和夫)