水産研究本部

試験研究は今 No.336「1997年度のホタテガイ再苗事業を振り返ってみる」(1998年2月27日)

1997年度のホタテガイ採苗事業を振り返ってみる

  ホタテガイ養殖・地蒔き漁業は、この漁業が種苗を天然採苗するという点で他の漁業と大きく異なっています。日本海・オホーツク海沿岸におけるホタテガイの種苗生産については、その天然採苗技術はすでに確立されているものと楽観的に思われてきました。しかし、昨シーズンは産卵期が遅く、特にオホーツク海南部沿岸では例年より約1ケ月遅い5月末になりました。

  このような年には、噴火湾では種苗が不足しますが、オホーツク海では不振ながらも必要量の種苗を確保することができました。

  そこで、昨シーズンを振り返ってみて、その理由を探ってみたいと思います。冬期間流氷に覆われているオホーツク海では例年5月になると日本海から流入してくる宗谷暖流の勢力と、ここに居座るオホーツク海の冷たい(2度前後)水塊勢力が力比べを展開しながら、徐々に水温が上昇します。ホタテガイは、ちょうどこの時期、水温が8度になると産卵を開始します。

  昨シーズンは4月末までは、例年のようにオホーツク海沿岸を暖流が徐々に南下し、ホタテガイ産卵期を迎えたのですが、南部では急に冷たい水塊が数回にわたって勢力を盛り返し、折り返し接岸してきたため産卵に 待った がかかってしまいました。

  この現象は、噴火湾での試験研究成果のひとつである産卵期における親潮の流入による産卵異常現象ときわめて類似しているものと思われます。このような状況にもかかわらず、当海域で、ホタテガイ種苗が確保できた理由の一つは、浮遊幼生の供給源が、1.地元の親貝 2.他海域からの移入 3.サロマ湖・ノト口湖からの供給など、複数あったことによると考えられます。  更に重要な理由として、ここで報告したホタテガイ採苗事業では、図に示すように各浜で、生産者自身も参加して、採苗事業に関わる一連の調査が平行して実施され、この情報を交換することによって、支援しあっていることによるところが大きかったのでぽないでしょうか?

  この調査は、図に示す20カ所の調査定点で、14の調査担当機関と、これを補佐する25の調査協力機関、さらに資料を収集・蓄積・広報している網走水産試験場を含めた総計40機関が協力しあって、10余年にわたって継続されております。

  1997年度には、浮遊幼生の分布状況に関する調査結果295件をはじめ、合計804件の資料が追加・入力されました。これらの資料は、年々蓄されており、シーズン中には「ホタテガイ採苗情報」として活用されます。例えば1997年度では、第1号で、すでに“警戒を要する年”であることが参加40機関などに広報されました。続号では、その要因のひとつとして“水温上昇が例年より遅れている”こと、さらに、このような傾向は、“1989年の型に類似している”ことが予告されております。特に、第6号では“冷水塊について”の緊急な情報収集結果および警報が出されました。

  この調査の特徴は警戒を要する年に限らず、毎年、シーズンを通して、ホタテガイの親貝・幼生、そして環境について調査を繰り返し実施し資料を蓄積していることです。また、ホタテガイの生産とは直接関係がうすいと思われがちの、後志南部から提供される、早期4月の海象情報が当該年のオホーツク海の海況予測に大いに役立っていることや、網走西部の10年以上も昔の記録が、当該年の海況の特徴と比較され、ホタテガイ採苗技術をさらに安定化させるために役立っていることなどです。

  この調査に参加されている、各位のいっそうの協力とホタテガイ漁業振興協会の御支援さらには、未加入機関の協力などを得ることによって、ホタテガイ採苗を安定した事業とレて展開できるように、ともにがんぱりましょう。
    • 図1

(網走水試 資源増殖部 主任研究員 門間春博)