水産研究本部

試験研究は今 No.342「寿都海域におけるクロソイ人工種苗の移動と漁獲状況」(1998年4月24日)

寿都海域におけるクロソイ人工種苗の移動と漁獲状況

はじめに

  クロソイは、北海道ではナガラゾイとも呼ばれ、ソイ類では最も一般的な種です。クロソイは種苗の大量生産技術が確立し、放流までの中間育成期間の生残率も高く、さらに放流後の成長が良いことが知られています。このため、北海道ではヒラメに続く、栽培漁業対象種と注目されています。

  北海道日本海南西部に位置する寿都町では、クロソイ資源の増大を目指し、人工種苗放流が平成2年度より行われています。この結果、放流開始後、漁獲量は増加し、放流の効果が示唆されています。ここでは、これまで実施されてきた標識放流の再捕結果から、放流後の移動や漁獲の状況に関しての情報を得たので報告します。

  なお、この報告では平成7,8年の北海道立中央水産試験場が実施したものの他、平成2年~平成6年に寿都町が実施して得られた資料を使用しました。標識放流は、前年生まれ(5~6月)の種苗(1歳魚)を用いて6月にも実施した平成8年を除けば、各年とも放流した年に生まれた種苗(当歳魚)を用いて10もしくは11月に行いました。

再捕結果について

  図1に町村別の再捕尾数を示しました。標識放流されたクロソイは、再捕のほとんどが放流水域である寿都町及び周辺町村となっています。すなわち、放流水域からおおよそ120キロメートル離れた上ノ国町で2尾、60~70キロメートル離れた大成町で5尾再捕されていますが、その他は寿都町で108尾、隣接する島牧町、岩内町でそれぞれ5尾、1尾、さらに瀬棚町で1尾再捕されました。
    • 図1
  また、表1に再捕までの経過年数とその場所の関係を示しましたが、これによると、時期の経過に関わらず、各年とも、寿都町での再捕尾数が非常に多くなっています。さらに図2に放流後の各四半期における再捕経過を示しました。再捕は放流された年の10~12月から放流からおおよそ3年半経過した後の4~6月までみられてますが、再捕尾数は放流約1年後の10~12月に急激に増加しています。その後再捕尾数は、放流後3年までの4~6月、10~12月に多くなっていました。また図には示しませんが、放流された1歳魚もその年の10~12月に再捕尾数が多くなりました。このようなことから、寿都海域で放流されたクロソイ人工種苗は、一部は大きく移動する個体もあるものの、大部分は寿都海域に留まり、当歳魚の場合、放流後おおよそ1年経過してから(1歳魚は放流後半年)2年半(放流後3.5ケ年)にわたって、春季及び秋季に、主に漁獲されていると考えられます。
    • 図2

終わりに

  寿都海域で放流されたクロソイ種苗も、1984年以降クロソイの人工種苗放流が実施されている津軽海峡(渡島地域)での結果と同様、定着性が強く、主に放流1年後から回収されていることがわかりました。このことから、クロソイの種苗放流によって、短期間で放流海域の資源増大の可能性が示唆されます。しかし、栽培漁業の成功には、資源増大の他、経済的にも成立させる必要があります。このため、今後放流効果を評価する際には、回収率(放流尾数に対する漁獲尾数)はもちろんのこと、放流種苗生産単価や放流事業諸費用(放流経費等)、漁獲金額に影響する年齢や季節による魚価の変化を把握し、採算性についても検討したいと考えています。

(中央水試 佐々木正義)