水産研究本部

試験研究は今 No.349「サマーフラウンダーと呼ばれる大西洋の「ヒラメ」」(1998年6月26日)

サマーフラウンダーと呼ばれる大西洋のヒラメ

はじめに

  北アメリカ大西洋岸に分布するサマーフラウンダーはヒラメの仲間で、日本のヒラメとほとんど同じ形態をしています。

  サマーフラウンダーは活魚として、日本へも輸出されており、アメリカでは日本の技術を参考にして、人工種苗放流が計画されています。しかし、そのためには、日本のヒラメとの発育過程の違いなど、明らかにしなければならない課題がたくさんあります。

  本年2~3月に米国ノースカロライナ州においで本種の天然仔魚の形態を測定する機会に恵まれましたので、その概要についてお知らせします。

調査の背景

  北海道の栽培漁業は資源管理と並んで沿岸漁業を維持発展させる上で不可欠の要素となってきました。しかし、残念なことに、その技術は種苗生産技術の開発が中心であり、人工種苗が生態系に与える影響などについては、ほとんど明らかにされていないのが現状です。国際的には、日本の栽培漁業技術に注目が集まってきた反面、生物多様性の保全に対する関心が高まるにつれて、人工種苗を自然界に放流することへの批判が強まってきました。したがって、栽培漁業対象種の天然海域での集団構造の調査やその生理生態研究は、国際世論に負けない栽培漁業の確立のために、とても重要な課題になってきました。

  日本海に分布するヒラメでは、稚魚の背鰭鰭条数から、九州西部群と日本海北部群の2系群の存在が示唆されています。しかも、その変異は発生初期の水温に影響されることが実験で確認されています。そこで、ヒラメにみられる発生初期の水温と鰭条数との関係を、サマ一フラウンダーでも検証することにしました。これは日本のヒラメとの比較や両種の天然資源の集団構造を解析する上で、有効な情報を提供することになります。

調査海域の概要

  サマーフラウンダーは主にトロールで漁獲され、ノースカロライナ州沿岸はその漁業が盛んな海域です。また、ノースカロライナ州沿岸に広がるパムリコ湾は砂洲に囲まれた広大な海域でサマーフラウンダー仔稚魚の成育場になっています。(図1)。パムリコ湾にはオレゴンインレットとオクラコクインレットと呼ばれる2つの大きな開口部があり、大西洋とつながっています。サマーフラウンダー仔魚の成長が活発化する春の水温は、オクラコクインレットの方が高い傾向にあります。

  1994年11月~1995年4月にパムリコ湾の両開口部で採集されたサマーフラウンダー仔魚を用いて、発育段階の区分、体長の測定、背鰭鰭条数の計数を行いました。

調査結果

  背鰭鰭条数の各月のグラフの形は一つの頂点を持つ山形でよく似ています。頂点にあたる鰭条数はいずれも87~90で、それぞれの平均値を統計的に比較しても差がみられませんでした(図2)。体長については、オレゴンの11,1,4月とオクラコクの3月では、体長12ミリメートルに頂点があるのに対し、オレゴンの2月では、グラフ全体が右側に移動し、その頂点にあたる体長も14~15ミリメートルと大きくなりました。

  発育段階はいずれの月も右眼の移動が始まる時期にあたっていました。これらのことはオレゴンとオクラコクの両開口部周辺には、11~4月の長期間にわたって、産卵期の異なる複数の産卵群から生まれた後期仔魚が、右眼の移動が始まる時期に滞留することを示しており、しかもこれらは鰭条数からみて同一系群と考えられます。また、2月に体長の大きな仔魚が多くなったのは、冬季の低水温のもとで、仔魚がゆっくり成長したためと考えられます。すなわち、水温が低いと、仔魚の成長は遅くなるが、発育段階の進みはさらに遅くなるので、右眼の移動の始まる発育段階に達する時には、これらの仔魚は他の月に比べて、大きくなったと考えられます。

  今回の調査では、日本海のヒラメのように水温と背鰭鰭条数との関係がみられませんでしたが、さらに飼育実験からこのことを確認する予定です。
    • 図1
    • 図2
    • ヒラメ

(栽培センター 魚類部 横山信一)