水産研究本部

試験研究は今 No.258「サクラマス増殖研究に新兵器」(1996年3月15日)

サクラマス増殖研究に新兵器

  魚の資源研究では魚の数を推定することが非常に重要です。とくに、北海道立水産艀化場が全場的に取り組んでいるサクラマス資源の増大に関する研究(事業名:他産サクラマス回帰率向上試験)では、淡水生活から海水生活に適応するために変態した幼魚(スモルトと呼ばれる)の降海数を正確に把握することは、研究を進める上で非常に重要です。新しく開発した放流技術の評価あるいは幼稚魚が降海するまで生活していた河川の環境評価を行うためには、魚の生き残り率が重要で、そのために降海数を推定するのです。従来は、越冬前の定着生活をしている幼魚の数から降海数を推定する方法あるいは推定しようとする群と標識放流魚の採捕比を利用する方法等によりスモルト降海数の推定が行われてきました。

  しかし、前者の方法では越冬による減耗が無視され、後者の方法では誤差が大きいことがわかっています。

  調査法で試行錯誤を繰り返している時に、当場の職員が海外研究派遣でカナダの海洋漁業省太平洋生物研究所に行き、そこで降海数を正確に算定する装置を紹介されました。当場ではこの装置がサクラマス研究に是非とも必要と判断し、アメリカ合衆国の民間会社から平成6年に当場に導入し、予備試験を行った後、7年度から宗谷管内の増幌川で本格的に稼働させました。
本装置はロータリー式スクリュー・トラップと呼ばれ、アメリカ合衆国とカナダで最近非常に注目されているものです。

  構造はスクリュー・トラップ本体に加えて、これを浮かせるフロート部、トラップを通過した魚を貯めておく捕獲槽、さらに捕獲槽に入ったゴミを下流に押し出すローター部からなっています。トラップは円錘形で外部はステンレスのスクリーンで覆われており、この中に螺旋状のプレートが取り付けられています。川の水はこのプレートに当たり、この力でトラップは緩い回転をし、回転によってトラップ内に入った魚は順次後方に運ばれ、捕獲槽に入ります。本装置は今までのトラップより効率的に魚を捕獲するとともに、設置が簡単で、増水時でも極めて良好に稼働するとのことです。

  本年のスモルト降海調査では、2、3点の問題が明らかになりました。大陸の河川と異なり、北海道河川は急勾配で、水量はあまり多くありません。この条件に対応させるために若干の改良が必要となりました。
北海道では海外の先進研究機関から道立研究機関に研究員を招へいし、道立試験研究機関の研究開発機能の向上と国際研究交流ネットワークの構築を図ることを目的として「北海道海外客員研究員招へい事業」を実施しています。前述しましたスクリュー・トラップの紹介者であるカナダ海洋漁業省太平洋生物研究所のアービン博士は、平成7年度の本事業で9月に北海道立水産艀化場に来られ、資源量推定のための研究等を我々と行いました。博士はサケ・マス資源の増大に必要な応用研究では先端的な仕事を行ってきており、とくに河川での資源的研究に多くの業績があります。スクリュー・トラップとアービン博士は当場のサクラマス研究の大きな力になりました。 (北海道立水産艀化場企画室)
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