水産研究本部

試験研究は今 No.263「資源管理型漁業と漁民意識」(1996年5月17日)

資源管理型漁業と漁民意識

  近年、資源管理型漁業という言葉をよく聞くようになりました。ある程度自由に獲らせていたこれまでの漁業では資源利用の仕方がまずくて、新たに資源を管理しなければ、漁業の継続さえむずかしくなってきたからです。

  一昨年、根室海峡でロシア側の発砲事件があったころの道新の記事に、根室海峡の刺網漁業者の言葉として「向こうに行けばカレイやメンメが掛かって掛かって、網が見えないくらいさ。」日本側といえば反対に「網ばっかりで魚が見えない。」「この海で生きてきた俺達に『死ね』というのか。こんなに厳しかったら、食っていけねえべさ!」とありました。この言葉にこれまでの漁民、いや、日本の漁業政策の基本的姿勢が出ています。

  獲りつくして、採算が合わなくなったら、他に移るという姿勢です。戦後の日本漁業は、沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へと発展していきましたが、これは原始的な焼き畑農業みたいに、沿岸を潰し、沖合を潰し、最後はよその国の沿岸まで出ていったということです。

  昭和52年、米ソ超大国が200海里漁業専管水域を設定して以来、沖合、遠洋漁業は各国の沿岸からしだいに締め出されています。平成6年、国連海洋法が発効し、日本もとうとう批准します。限りなく広いと思っていた海も、今や自由に魚を獲れるのは、日本の200海里内だけとなりました。自由の時代から管理の時代へ移ったのです。「網はっかりで魚が見えない」海で「食っていかねぱなんねー」時代になったのです。

  沿岸漁業の重要性が高まったと言えます。将来を担うべき沿岸漁業は今、資源減少による漁獲減を漁獲努力の増大によりおぎなおうとして、さらに資源を悪化させ、経営も悪化させるという悪循環を繰り返しているようにみえます。

  この悪循環を断ち切るのが、資源管理型漁業です。水産資源は生物資源ですから過度な漁獲をしなければ、自ら子どもを生んで殖えてくれます。この自然の再生産力を利用し、資源を増やし、資源に見合うような漁獲努力量に調整しようとするものです。

  資源を増やすには、一時的に漁獲を我慢する必要があります。我慢の方法はいろいろで、総漁獲量を決めて、それを守らせる方法。漁業者数(漁船数)、操業期間の調整、漁船の大きさ、漁具の数、網の長さ、網目の大きさなどなど、いわゆる、漁獲努力量の削減です。そのほか、魚のサイズ規制や漁獲、混獲の禁止等があります。

  かつてのサケ・マス流し網漁業の廃止までの歴史をみると・漁船数と漁期の規制の他はほとんど効果がありませんでした。ケガニのノルマも同様です。昔はお上が決めたことは権威があり、それなりに守られたのでしょうが、戦後の民主主義の世の中になって、権威があったのはマッカーサーの命令までで、その後は行政が決めてもほとんど守られていません。

  ですから、今回の資源管理型漁業推進総合対策事業では、漁業者自らが管理することに重点が置かれ、行政や水試はそのお手伝いをすることになっています。

  行政の決めた規制は簡単に破られますが、漁民がみんなで納得して決めたものなら、地域の漁民全体が監視するわけですから、違反もしにくくなるでしょう。

  「ラクダを水辺まで連れてゆくことはできるが、無理矢理水を飲ませることはできない。」というたとえ話があるように、漁民自らが守ろうとしない限り、どんな規制も効を奏しません。資源は衰退を続け、よほど良い季件がそろわないと増えないでしょう。今の北海道近海の資源はそういう状態です。資源を管理するということは、漁業を管理することです。漁業を管理することは、人を管理することです。今は規制緩和の時代で、とくに猟師=漁師は管理されることを嫌います。

  資源管理は管理対象資源がコンブやカキのように定着性で海域が狭い方が管理しやすいのですが、ハタハタやシシャモのように広域に移動するものは大変です。

  一匹おおかみ的な操業をしてきた漁業者を束ねるんですから、組織の上に立つ人は強い指導力が是非必要です。それと漁業者自らが自分の資源・漁場を管理するという自立した意識を持たなければ、資源管理型漁業はうまくいきません。

  明治以来、北海道は官主導で開発が進められ、漁業にもその体質が強く残っています。現在の管理型漁業推進事業も、官主導で進められ、漁業者はしかたなくついてきているという感じがします。

  行政側からの種々の規制がなければすぐ乱獲に陥り易いということは産業として自立していない証です。「輸入が増えたから俺達の魚が安い」「底曳きが悪い」「隣のやつが密漁する」「ロシアの取り締りが厳しすぎる」「水試の資源計算が間違ってる」などなど、すぐ他人のせいにします。

  「行政や水試は余計なこと言わんでくれ、俺達の資源は俺達がしっかりと守るから、ちょっと手を貸してくれればいい。」というようになりたいものです。部会をまとめるためには誰かが中心となってやらなければなりません。いくつかの部会で利用する資源ならそれらの部会を束ねる人が必要です。釧路・十勝沖のケガニのように多くの組合が共同で利用する資源は機船組合を含めた多くの組合を統率してゆかなければなりません。
管理型漁業の推進にはそういう強い指導者とそれを支える一人一人の漁民の意識改革が強く望まれます。
全道の水産試験場では様々な魚種で資源管理型漁業推進対策事業に取り組んでおり、成果を上げるには漁業者の協力が是非必要です。よろしくお願いします。(釧路水試 資源管理部)