水産研究本部

試験研究は今 No.267「ホッキガイの人工種苗をタマネギ袋で中間育成」(1996年6月14日)

ホッキガイの人工種苗をタマネギ袋で中間育成

  栽培漁業総合センターでは、平成2年度からホッキガイの種苗量産技術開発に取り組んできました。本種は約9センチメートルの親貝から2,000~3,000万粒の採卵ができ、浮遊幼生は水温20℃の場合、約2週間で0.3ミリメートルに成長して沈着します。沈着した稚貝は4~5カ月間水槽で飼育すると、3~5ミリメートルに成長します。このサイズで直ちに放流するのは減耗が大きいので、さらに育成してから放流するために中間育成技術開発を行っています。中間育成は、魚類などでは種苗を大きく、強くしたり、自然環境に馴らしたりして、放流効果を上げるうえでの重要な行程の一つとなっています。このことは貝類でも同様です。特にホッキガイなどの砂に潜る二枚貝は、放流した後、潮の流れや砂の動きなどの影響を強く受けるために小さい個体や砂に潜る力の劣る個体は生き残るのが非常に難しくなります。そのため中間育成が必要なのです。

  中間育成技術開発は、八雲町漁業協同組合の協力を得て、同町地先のホタテ養殖用幹網を利用して、渡島北部地区水産技術普及指導所と共同で海中での中間育成試験を実施してきました。

  これまで砂を使う方法と使わない方法について検討をしてきました。前者はFRP製育成器、後者はタマネギ袋を用いました。次にこれらの方法について紹介します。

FRP育成器

  ホッキガイ中間育成用として開発したFRP製のもの(図1)を用いて行います。

  この容器には10キログラムの砂を入れます。半分の5キログラムで行った場合は、生残率が低下しました。中の砂が安定しなかったからです。育成器1基あたり1,000~4,000個体の稚貝を収容し調査しました。ふたをゴムバンドで固定し、ローブで幹網につないで海中に沈めます。砂が入ると重いので注意して垂下します。育成器は垂下しているうちに浮泥がたまってへい死の原因になりますので、調査中に数回、砂の洗浄または砂の交換をします。同時に育成器についた付着動物等を取り除きます。
    • 図1

タマネギ袋

  この方法は平成5年度から試験をしています。海水の良く通るものとしてタマネギ袋(図2)を使いました。稚貝は3ミリメートル以上に大きくなっているので網目からは、こぼれ落ちません。稚貝は、1袋に1,000~2,000個体入れました。おもりを付けたロープ1本につきタマネギ袋を4~8袋つけ垂下します。吊るしていると網に色々なものが付着して網の潮通しが悪くなるので、調査中に袋を交換する必要があります。また、この方法ですと、稚貝が袋の隅に片寄ってしまいますので、へい死や成長の妨げになる可能性があります。

  この対策について現在、検討しているところです。

  今までの調査結果の一部を表1に示しました。収容期間はほぼ同じで収容サイズと育成方法が異なります。FRP育成器での生残率は、5ミリメートルより大きな種苗の場合は良好な結果が得られていますが、5ミリメートル以下では非常に悪くなっています。これに対し、タマネギ袋では5ミリメートルより小さなものでもFRP育成器の5ミリメートル以上の場合と同等の生残が認められました。

  育成器は砂を使用するため作業性に難点があります。この点を解消するためにタマネギ袋を使って試してみたところ、非常に有望な結果になりました。また、この方法は安価な利点もあります。

  中間育成では種苗を大きく、強くすると前に述べましたが、どちらの方法も冬期間は成長が望めません。これを逆手にとって「成長しない冬の前に放流するより、成長が始まる春までは人為的に保護する」という考え方に立って、現在、試験を進めています。「タマネギ袋の“春まで90%の生残率”を生かして、安価で作業性の良い方法で稚貝を大量育成し、冬期間の減耗を防いだ後、放流する。」これによってホッキガイの栽培漁業技術開発に展望が開けてきました。 (栽培センター貝類部 中島 幹二)
    • 図2
    • 表1