水産研究本部

試験研究は今 No.273「計量魚群探知機EK500によるスケトウダラ調査」(1996年7月26日)

計量魚群探知機EK500によるスケトウダラ調査

  平成7年に新造された北海道立稚内水産試験場所属の調査船「北洋丸」に日本で2台目という最新鋭の計量魚群探知機(以下「計量魚探」)が装備されています。この計量魚探はノルウェーのシムラッド社製のEK500といい、周波数は38キロヘルツと120キロヘルツを持っています。計量魚探というだけあって、漁船などに装備されているふつうのカラー魚探によりかなり正確に魚群の量を知ることができます。さらにこのEK500では一般の魚探とは異なるタイプの送受波器を備えているため単体のターゲットストレングス(以下「TS」)、つまり魚の大きさを測ることができます。

  北洋丸では船体ノイズが少ないため、水深1,000メートルにいる体長60センチメートルの魚を単体として判別できます。

  稚内水試では主としてスケトウダラの調査にこの計量魚探を用いています。一例を紹介しますと、平成7年8月に日本海の道北海域でスケトウダラ成魚の資源量調査を行いました。調査には38キロヘルツの周波数を用い、魚種確認の為に着底トロール網を曳きました。その結果、スケトウダラとみられる魚群反応が礼文堆から武蔵堆北部にわたる水深300~400メートルの海域で強く見られました(図1)。水深400メートル地点での魚群量を魚探反応の強さ(図2)から推定すると1ヘクタール当たり約29トンのスケトウダラが分布していたと推定されます。実際に着底トロールを行ったところ尾叉長31センチメートル前後のスケトウダラが396キログラム漁獲され、この反応がスケトウダラであることが確認できました。

  さらにこの調査では分布水深により、スケトウダラの大きさが異なることが分かりました。主群は水深400メートル付近に分布する体長組成モードが31センチメートルの魚群ですが、その下の層にも41センチメートルにモードがあるスケトウダラがまばらに分布していました。

  これらの大きさはTSの解析結果とトロールの漁獲物の測定結果から求めた値です。

  ほかの地点でのTSと比較してみると、どうやら水深が深くなることに分布するスケトウダラが大きくなっているようです。

  このようにEK500では迅速な資源量の推定の他に、個体毎のTSを測定できるので、あちらこちらに分布する魚のおよその大きさ(体長)までも推定することができます。

  また、この計量魚探は仔稚魚の調査にも力を発揮しそうです。例えばスケトウダラの稚魚は大きさがおよそ8センチメートル以上になると表層生活から底層生活に移り、沿岸から沖合へ出てゆくと考えられています。
    • 図1
    • 図2
  しかし実際のように生活の場を変えてゆくのか、本当のところあまり分かっておりません。今までの情報は断片的で想像の部分が多いのです。

  ところがEK500を使って何時、どの海域のどの水深に、どのようなサイズの稚魚が分布していたということが分かれば、スケトウダラ稚魚の底層生活への移行という一大イベントの真実が明らかにされるでしょう。

  今までのオーソドックスな研究方法では深度別にネットを曳いて、実際に魚を採集してとれた量や大きさを測っていました。しかし、計量魚探ではただ航行して魚探をかけているだけで膨大な量の情報を得ることができます。ネットで調査するより広い海域をより短い期間で調査することもできます。もちろん深度ごとのデータを集めるのも容易です。

  さらにEK500ではもっと小さい魚(全長2~3センチメートル程度)まで個体判別しTSを測定できる可能性があります。スケトウダラよりもっとTSの小さいオキアミを計量魚探で調べられた例も多くあるほどですから、スケトウダラの仔魚でできないわけがありません。

  そう考えて1996年4・5月の道北日本海スケトウダラ仔魚調査にEK500を用いてみました。この調査では2.5×2メートルの四角い枠のネットで仔魚の採集調査を行い、同時に航行中ずっとEK500で魚探反応を記録しました。ネット調査では14~30ミリメートル程度のスケトウダラの仔魚が採集され、魚探にもそれらしい反応が見られました。今はまだ解析途中ですが、新たな知見が得られるかも知れないと期待しています。

  以上簡単に北洋丸に装備された最新鋭の計量魚探と調査例を紹介してきました。

  実のところ魚探自体の課題もまだ多くあります。しかし、最新鋭の計量魚探の登場はまるで、暗闇の中で手探りで調査していたところ、急に手元が明るくなったほどのインパクトがあります。今後、いろいろな調査に計量魚探をどんどん使い、漁況予測や資源管理に役立てて行きたいと考えています。
*1)スプリットビーム方式:送受波器を4分割して反射波を受信する方式。受信エコーを補正して単体のTSを計算できる。
*2)ターゲットストレングス:送受波器から発射された音波を送受波器方向へ反射する強度。標的強度ともいう。
(稚内水試 資源管理部 三宅 博哉)