水産研究本部

試験研究は今 No.289「コンブの施肥試験実施地域で成果発表」(1996年12月20日)

コンブの施肥試験実施地域で成果発表 水産試験研究プラザから

  稚内水産試験場資源増殖部では平成2年度から平成7年度までの6年間、施肥試験を実施し、結果がまとまったことから、実施地域である礼文町で水産試験研究プラザを開催し、成果を発表しましたのでその内容を紹介いたします。

1.試験の目的

  近年、日本海では磯焼けが進行し、海藻類の生育が悪くなっており、道北海域においてもその状況は同様であります。

  利尻、礼文両島におけるリシリコンブの生産量は減少傾向にあり、その原因のひとつが暖流勢力の拡大による海域の貧栄養化と考えられることから、その対策として、施肥によるコンブ漁場への栄養補給を目的に試験を実施しました。

施肥の効果としては
  1. コンブの生残及び再生産を高め、生産性を増大させる
  2. コンブの品質自体を向上させる
  3. コンブの群落形成を促進させる
などがあり、これらの効果を明らかにするため、固形(化学)肥料を用いて試験を実施しました。

2.試験に用いた肥料

  硝酸態・アンモニア態窒素(各12パーセント)、リン酸態リン(3パーセント)を組成とする化学肥料を樹脂の膜で包んだ粒状のもので、一定期間(30日、60日タイプ)で溶出します。

  方法は、麻袋に肥料を詰め、200~400グラムを施肥ブロックに設置しました。

設置場所
平成2~3年 春深井地区・赤岩地区
平成4~5年 差閉地区
平成6~7年 尺忍地区

3.リシリコンブに対する施肥の影響

施肥地区と対照区のコンブについて、各項目を比較し、施肥の有効性を評価しました。
  1. 色調:施肥区のコンブは葉体の先端部まで黒色が強くなりましたが、対照区では葉体縁辺部の黄・赤茶化したものが混じっていました。
  2. 葉体の大きさ:施肥区の1年目コンブは成長量が増大、大型化しましたが、2年目コンブは1年コンブほど明瞭な結果を得られませんでした。
  3. 実入り:コンブの肥大{葉重量/(葉長子棄幅)}は夏期に増大しますが、施肥区で高い値を示し、実入りがよくなることがわかりました。
  4. 成熟:子のう弧形成率は施肥区で高く、対照区よりも成熟が促進されていました。
  5. 再生・生残:2年目へ生き残ったコンブ及び末枯れ後の新葉を形成したコンブの割合(再生率)は施肥区で低い値でした。
  6. コンブの現在量:施肥区では1年目コンブの現存量が高まる例もありましたが、密度及び群落規模の増大に明瞭な差がみられませんでした。
  7. 製品の等級:施肥区のコンブは葉体の大型化や黒色化により等級の向上がみられました。

4.まとめ

  春から秋の施肥により、コンブの葉体緑辺部の白化を防止できることや葉体の大型化、肥大化増加などに効果があることがわかり、特にコンブの品質を高めるのに施肥が有効であることが示されました。
しかし、一方で施肥は成熟を促進することや葉の再生率及び1年目から2年目への生残率が低下することなどから、1年目コンブの成熟を早めるような施肥は、再生及び生残にマイナスの要素もあることがわかりました。また、施肥により新個体が増加し、群落規模が増加する傾向は全試験を通じてはみられませんでした。 (稚内水試企画総務部 木村・資源増殖部 多田)
    • リシリコンブの生活史