水産研究本部

試験研究は今 No.290「マダラの人工種苗生産技術開発について」(1997年1月10日)

マダラの人工種苗生産技術開発について

はじめに

  マダラは北海道のほぼ全海域で漁獲される重要な漁業対象種で、白身魚でクセがなく、年間を通じて我々の食卓にあがる需要の多い魚の一つです。また低水温でも成長が早いことから栽培漁業対象種として期待されています。石川県や青森県では早くからマダラの人工種苗生産技術開発に取り組まれていますが、栽培漁業総合センタ-(以下センター)では、平成6年度から技術開発を行っています。

  平成7年度は6年度に問題となった生物餌料の栄養強化方法を改善する飼育試験を行っていました。

  ここでは6年度の方法と比較しながら、その結果について紹介したいと思います。

採卵と仔稚魚の飼育

  親魚は平成7年12月に南茅部町大船から搬入し、12月31日に自然産卵した受精卵をハッチングジャー(沈下卵専用の小型ふ化槽)で自然海水(4.7~8.4度)の掛け流しで管理しました。ふ化は平成8年1月13日~18日まで続き、仔魚は18日に1トンパンライトの試験水槽4基に収容しました。

  試験は1月19日から3月28日までの70日間行い、飼育水温は10度、餌料は1日に2~3回給餌し、10日毎に全長を測定しました。

ワムシの栄養強化

  ワムシはふ化後、仔魚が開口してから与える餌料です。市販されている濃縮クロレラ(V12)で培養しているワムシにはマダラの成長に必要な栄養(特に必須脂肪酸)が欠乏しています。そこでマダラ仔魚に必要な栄養をワムシに取り込ませなければなりません。6年度は栄養強化にセンターで培養しているナンノクロロプシス(海産クロレラの一種)を用いました。ナンノクロロプシスにはEPA(エイコサペンタエン酸)は多く含まれていますが、DHA(ドコサヘキサエン酸)はほとんど含まれていません。このDHAの欠乏が6年度に起こった大量繁死の原因であったと考え、7年度はDHAを多く含んだ商品名アクアラン(サメの卵の粉末)という栄養強化剤を用いました。方法はアクアラン20グラムを乳化し、18度の海水にワムシを400個体/ミリリットルの割合で収容した100リットルパンライト水槽に添加し、強化開始から16時間と24時間目に給餌しました。

アルテミア幼生の栄養強化

  アルテミア幼生はおよそ15日齢(全長7ミリメートル前後)から与える餌料で、ワムシと同様に栄養強化を行われなければマダラ仔魚の栄養要求を満足させることができません。

  7年度は6年度と違うメーカーの乳化油脂剤と脂溶性ビタミンを用いたものを試験区1としました。また、乳化油脂剤とフェオダクチラム(珪藻の一種)で強化したものを試験区2として試験をしました。試験区1の強化方法は、乳化油脂剤と脂溶性ビタミンを一緒に乳化し、20度の海水にアルテミア幼生を100個体/ミリリットルの割合で収容した500リットルパンライト水槽に添加しました。試験区2は、乳化油脂を乳化し、海水とフェオタクチラムを等量入れた500リットルパンライト水槽にアルテミア幼生を100個体/ミリリットルの割合で収容し、両試験区とも22時間と29時間目に給餌しました。

生残と成長への効果

  6年度にみられた全長7ミリメートル前後での大量繁死は、7年には両試験区とも起こらず、25ミリメートル種苗をつくることができました。その要因としては、今回の栄養強化方法の改善によって栄養不足が軽減できたことが考えられました。ただ、全ての水槽で水面近くを覆う個体や、体色が黒化し空胃の個体がみられ、このような個体は試験期間中に繁死し、今後の問題点として残りました。両試験区の間には、表1のように成長、生残にそれほど大きな差はみられませんでした。しかし、同じ試験区間で生残率に多少ばらつきがみられ、特に試験区2一(1)で低い結果になりました。

  これは、飼育途中で水槽内に粘性物質が発生し、その影響で低くなったと考えられました。また、試験区2の稚魚め活力は試験区1に比べ、概して劣っているように感じられました。

  以上が平成7年度に行った生物餌料め栄養強化別飼育試験の結果です。まだまだ技術開発する課題が多く、問題点が山積みの段階ですが、一つ一つ解決して1日も早く種苗生産技術が確立するように試験研究を進めていこうと思っています。(栽培漁業総合センター 魚類部 高畠 信一 )

表1 生物餌料の栄養強化別飼育試験の結果
試験区分 試験区1-1 試験区1-2 試験区2-1 試験区2-2
試験期間 1月19日~3月28日
(70日間)
1月19日~3月28日
(70日間)
1月19日~3月28日
(70日間)
1月19日~3月28日
(70日間)
収容時全長 4.9ミリメートル 4.9ミリメートル 4.9ミリメートル 4.9ミリメートル
取り上げ全長 24.9ミリメートル 25.4ミリメートル 24.9ミリメートル 23.9ミリメートル
生残率 19.3パーセント 17.6パーセント 13.7パーセント 22.4パーセント
    • 図1