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林業試験場

北海道林業試験場研究報告-第43号-

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第43号(平成18年3月発行)

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北海道の落葉広葉樹林に生息する昆虫群集の多様性と林分状況との関係(PDF:5.28MB)
石濱宣夫・原 秀穂
P1~21
北海道の壮齢から老齢の落葉広葉樹林において昆虫類の多様性と林分状況との関係を調べた。調査は2002~2003年に道内8林分(道北,道東,道央,道南で各2地点)で行った。誘引性衝突板トラップ(ベンジルアセテート使用)を5月下旬~9月上旬に設置し,昆虫類を捕獲した。捕獲個体数が多かったカミキリムシ類,ナガクチキムシ科,オサムシ科,チョウ類の個体数,種数,種多様度(H’)と林分状況(全立木,衰弱立木,枯死立木,上層木,中下層木の本数と胸高断面積合計,全立木と上位40本の平均胸高直径,立木の樹種数,立木の種多様度,倒木や落枝の本数と断面積合計)との関係を解析した。
カミキリムシ類は43種1762個体捕獲された。カミキリムシ類は主に枯死木・枯枝を食べるが,その個体数,種数,種多様度いずれも枯死立木の本数と胸高断面積合計,倒木や落枝の本数,断面積合計との間に相関が認められなかった。一方,カミキリムシ類の種数と衰弱木の胸高断面積合計との間に負の相関が,種多様度と中下層木の胸高断面積合計との間に正の相関が認められた。
主に枯死木・枯枝を食べるナガクチキムシ科は18種160個体捕獲された。その個体数と種数はともに腐朽の進んでいない倒木や落枝の本数との間に正の相関が,立木の平均胸高直径との間で負の相関が認められた。また,ナガクチキムシ科の種多様度と枯死立木の胸高断面積合計との間に負の相関が認められた。
捕食性昆虫であるオサムシ科は22種285個体捕獲された。オサムシ科の種数と上位40本の平均胸高直径,および中下層の胸高断面積合計との間に正の相関が,腐朽の進んでいない倒木や落枝の本数との間に負の相関が認められた。また,オサムシ科の個体数と中下層の胸高断面積合計との間,種多様度と立木の種多様度との間に正の相関が認められた。
主に生きた植物を食べるチョウ類は22種159個体捕獲された。チョウ類の種多様度と衰弱木の胸高断面積合計との間に正の相関が認められた。また,その個体数と樹種数との間に負の相関が認められた。

トドマツ間伐試験地の74年間の成長経過(PDF:3.45MB)
浅井達弘
P22~35
1948年(林齢20年生時)に北海道東部の道有林池田経営区(現十勝管理区)に設定された「久保トドマツ人工林間伐試験地」は,設定後5年ごとに50年間,胸高直径(全木)と樹高(サンプル木)が測定されてきた。試験設計は,無間伐(0.1812ha)と2回間伐(0.101ha),3回間伐(0.101ha),6回間伐(0.2ha)である。林齢74年生時に無間伐区を中心に台風による大きな被害を受けた。被害直後に間伐試験地の全個体の胸高直径と樹高を測定するとともに被害形態などを調査し,これまでの資料と併せて74年間の成長経過を分析した。
林齢20年生以後74年生までの54年間の枯死木は,無間伐区が最も多く,間伐回数が増えるにしたがって枯死木の数は減少した。無間伐区では,期首の直径が小さかった個体を中心に期首本数の75%以上が枯死した。胸高直径45cm以上の個体は6回間伐区にのみ出現し,40cm以上の個体も間伐回数が多い処理区ほど多数出現するなど,間伐による直径成長の促進効果が認められた。林分成長量は林齢40年生時にピークがあり,以後,漸減傾向を示した。
無間伐区の台風による被害木数は,間伐を行った3区よりも有意に多かった。被害形態では,風害木の80%以上が根返りであった。根返り木の倒れた方向は,間伐回数や胸高直径と関係なく,南東の強風に対応して北から西であった。耐風性の指標に用いられる形状比や枯れ上がり高率は無間伐区で高かったが,区内の風害木の発生は形状比や枯れ上がり高率と無関係であった。

1998年に西興部で発生した山火事後の森林の再生動態(PDF:1.72MB)
真坂一彦・山田健四・大野泰之
P36~47
山火事後の森林の再生過程に関する研究の多くは,ステップや地中海性気候の地域,北方林など,自然状態において山火事発生の頻度が高く,樹木が山火事に適応した特性を獲得し,景観が山火事によって維持されているような生態系fire prone ecosystemを対象に行なわれている(e.g. Gill and Ashton,1968; 飯泉,1991; Lloret et al.,1999; Lopez-Sori et al.,1992; Moritz and Odion,2005; Trabaud and Lepart,1980; 津田,1995; Uemura et al.,1990)。しかし,冷温帯や熱帯降雨林など,湿潤と考えられる地域においても山火事は多く発生し,森林に多大な影響を与えている(e.g. 飯泉,1991; Kauffman,1991; 中静,2004)。これらの地域における山火事の発生原因の多くは人為的なものである。
たとえば,1998年4月21日,網走支庁管内西興部村で山火事が発生し,約45haの森林が焼失した。この山火事の発生原因は,野外におけるゴミ焼きからの飛び火だった(北海道水産林務部,1999)。山火事発生の当日,西興部ではフェーン現象によって乾燥した西よりの強風が吹き,気温が27.9℃まで上がっていた。近隣の雄武でも気温が28.1℃,最大瞬間風速が25.3m/秒,紋別では気温が30.3℃,最大瞬間風速が20.3m/秒という高温・強風の気象条件だった。このように,湿潤な地域であっても,まれに極度の乾燥状態になることがあり,このようなときに人為的に山火事が発生しやすい。山火事後,被災地は自然の推移に任されることもあり,北海道の場合,山火事跡地はミズナラ林やウダイカンバ林などになることもあるが,森林が回復せず,ササ原になってしまうことも多い(Takaoka and Sasa,1996)。このような遷移の方向性の違いは,山火事の規模や山火事後の樹木の被災状況だけでなく,実生更新や萌芽更新の状況など,森林再生過程の初期段階に大きく影響を受けると推察される(e.g. Viereck,1973)。しかし,山火事の非常習地域における山火事後の森林再生過程の初期段階に関する調査・研究はほとんどない。
そこで本研究では,西興部村で1998年に発生した山火事跡地において,山火事後の森林再生過程に関する基礎的資料を得ることを目的に,林冠木の生残状態の推移と萌芽枝発生状況,萌芽枝数の推移,そしてササの回復状況に関する調査を行なった。なお,この研究の一部は,すでにMasaka et al.(2000,2004)において公表されているが,ここでは未公表のデータも加え,山火事発生年の1998年から8生育期間を経た2005年までの森林再生過程を概観する。

オオトラカミキリの生枝打ちによる防除方法の検討と被害に関する知見(PDF:893KB)
原 秀穂・菅原 豊
P48~53
檜山地方北部のトドマツ人工林において1994~1995年に行われた生枝打ちによるオオトラカミキリの防除試験地を2000年に再調査した。1995~2000年の間に発生した被害木の本数率は対照区と防除区とで差がなく,防除効果が短期間に失われていることが示された。この原因は生枝打ちが林内の一部の木や近くのトドマツ林では実施されず,オオトラカミキリが十分駆除されなかったことによると推定された。
羽脱孔の地上高と生枝下高との間には正の相関が認められた。生立木における羽脱孔数の頻度分布はランダム分布(ポアソン分布)と一致した。オオトラカミキリの被害木の枯死率は0.5~1.3%/年であった。

道南地方におけるブナの植栽事例(PDF:1.72MB)
長坂晶子・長坂 有・今 博計・小野寺賢介
P54~60
道有林内に設定されたブナ植栽試験地2箇所(上ノ国町,函館市)の事例について成育状況の実態調査を行った。植栽から20年経った上ノ国町の試験地では,1万本区で植栽10年目の平均樹高が237cm,20年目が342cm,10年間の樹高成長量はほぼ1mだった。4万本区では,10年目で181cm,20年目で253cmに成長しており,10年間の樹高成長量は70cmだった。函館市の植栽地では,1998年植栽当時に樹高60~65cm程度だった植栽木は,概ね順調に生育しており,6年後の2004年には,調査全個体の平均で1.5mほどに成長している。この植栽地における植栽木の最多死亡要因は下刈り時の誤伐で,集中・隣接する傾向が見られた。ネズミによる食害も見られたが,殺鼠剤による防除効果もあり被害は局所的であった。
上ノ国町,函館市いずれの植栽地でもブナ植栽木に目立った衰弱個体や衰弱要因は認められず,成長経過も順調であったことから更新補助作業として植栽は有効な手段であることが確認された。今後の課題としては,苗木の産地と成長や気象害,獣害の受けやすさなどの関係についてデータを蓄積する必要がある。