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北海道林業試験場報告-第16号-

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第16号(昭和54年2月発行)

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日高地方における広葉樹林の林分構造と生長量(PDF:736KB)
菊沢喜八郎・浅井達弘
P1~17
北海道には,山火後に再生した二次林を主とする多くの広葉樹林がある。これら広葉樹林は一般に多くの樹種を混交しており,単一樹種の一斉林よりも虫害や気象害などの諸害に対して強く,また森林に対する多様な要求にこたえ得る可能性を有している。さらに,カンバ類などの一斉林を除けば,広葉樹二次林の構成樹種は,中部北海道における極相林と考えられる針広混交林のそれと比較的よく似ている。つまり,天然に成立した広葉樹二次林の多くは,生態的にもきわめて安定した樹種構成をしているものと考えてよい。したがって,このような広葉樹林を育成して,多様な要求にこたえつつ有用広葉樹材を生産することは,林業的にも有望でかつ有意義な事業であるということができよう。
ところが従来の育林技術は,針葉樹を主とした単純林の育成に重点が置かれており,広葉樹のしかも多樹種を混交した林分については知識も少なく,ましてその施業技術の体系化はほど遠い状態にあった。この理由としては,従来は優良大径材が抜き伐り的に利用されるのみで,育成についての考慮がはらわれていなかったことがあげられる。また,育成への志向があった場合でも,多樹種を混交した林分の解析方法がきわめて困難であり,その方法が確立されていなかったのが実情であった。広葉樹林についての解析方法を確立し施業体系を作るためには,一方においてはそれぞれの樹種の特性に関する知識を蓄積するとともに,他方では様々な林分についてその構造を知り,生長・枯損等の動態を把握する必要がある。これらによって得られた知識を実践によってためし,施業体系を作り上げていくことが望まれる。
以上のような考えから,著者らは北海道内のいくつかの広葉樹林について,その構造の解析と動態の調査を行っている(菊沢ら,1974,1976,1977)。ここでは,日高三石町有林における対象林分の構造の解析を行い,つぎに林分現存量の推定と生長量・枯損量などを含めた林分の動態について報告し,最後に間伐試験の概要を述べ,今後の保育指針について考察した。
本論に入るに先立ち,調査に終始ご協力をいただいた三石町林業課の岡崎昇課長をはじめ,小池幸冶,長船輝男,盛岡光志の諸氏に感謝の意を表する。試験地設定に際しては,竹永弘行氏(現留萌支庁)をはじめ日高支庁林務課の方々のご協力を得た。また道立林業試験場からは,森田健次郎(現農林水産省林業試験場),水井憲雄,斎藤満,北条貞夫(現林務部道有林第二課)の諸氏が調査に参加した。以上の方々に感謝の意を表する。

亜高山帯天然林における樹木の分布様式(PDF:805KB)
嘉戸昭夫・前崎武人・鈴木 煕・鈴木悌司
P19~26
亜高山帯の森林は,最近,国土保全や保健休養などの面からその重要性が認識されている。筆者らは,大雪山系旭岳の西側に位置する勇駒別地域の亜高山帯の森林を対象に,森林を多目的に利用する場合の施業の基礎資料を得る目的で,天然林の林分構造について解析を進めている。従来,林分構造については樹木の混交割合や直径分布などを問題にすることが多かったが,森林の成立や推移を予測するためには,樹齢構成や樹木の分布様式などについても調査する必要がある。本報告は,このうち樹木の分布様式について取りまとめたものである。
なお,本研究をすすめるにあたり,旭川林務署の方々に多大な御援助をいただいた。ここに厚くお礼を申しあげる。

トドマツの雪害抵抗性の地理的変異(PDF:657KB)
畠山末吉・江州克弘・石倉信介
P27~39
この研究はトドマツ(Abies sachlinensis)の雪害抵抗性の産地間変異およびその変異と生育地における環境要因との関連をのべたものである。
トドマツも天然分布域が広い多くの植物と同じく産地間に遺伝子頻度のちがいがある(MATSUURA et al.,1972)。
トドマツの表現形質の産地間変異については数多い研究がある。例えば,柳沢(1965)はトドマツ球果の形態的変異の連続性とその変異と地理的環境との関係を報告した。久保田(1965),岡田ら(1970)は本道脊梁山脈の西側と東側産トドマツの初期生長や子葉数,冬芽の芽鱗数,二次生長および生長期間などの変異を報告した。トドマツの寒風害抵抗性の産地間変異については久保田(1968)および畠山ら(1973)が,耐凍性の産地間変異については栄花(1973)が報告している。
本稿ではトドマツの雪害抵抗性の産地間変異と産地における気候因子との関係について検討した。
この研究をはじめるにあたり北海道立林業試験場渡辺啓吾場長から貴重な示唆と雪害写真の一部を提供いただいた。試験材料の収集,試験地の造成は久保田泰則副場長の企画と指導によるぶのである。また,当場育種科梶勝次研究職員には調査にさいし終始協力をいただいた。本稿のとりまとめにあたり以上の三氏に深甚な謝意を表す。

北海道北部に自生する海岸林用の頂芽型広葉樹の育苗(PDF:658KB)
斉藤新一郎・水井憲雄・斉藤 満・小原義昭
P41~50
北海道北部の海岸林造成は,多くの困難な問題をかかえている。その原因は自然環境,社会経済,造成技術などさまざまであるが,苗木供給の不足もそのひとつである。このことは,海岸林用樹種の育苗技術が未熟であり,しかも経済林用樹種の育苗方法(服部ほか 1932,田添 1936,ほか)ではこれに対応できなかったためといえよう。
それで,天然生海岸林の解析と海岸林造成事業の成果から,適応樹種を選び出し,それらの育苗試験を行い,育苗技術を樹立することが道北支場の研究目標のひとつとなった。当支場では,道北地域に自生する主要な落葉広葉樹の育苗が1971年から実行され,77年までに,ハリギリの根ざし(原口ほか 1974,ほか),ミズナラ・カシワの根切り・据置き(斎藤ほか 1976a,ほか),広葉樹の実生育苗(斎藤ほか 1973)およびとりまき(豊田ほか 1976,ほか)の成果が逐次発表されてきた。ここにそれらの成果をとりまとめることとする。
本研究の一部は,林野庁の補助研究費によった。
本研究の基礎づくりと初期の試験を実行された前主任の原口聰志氏(現本場企画係長),前分場長の豊田倫明氏(現後志支庁林業専門技術員),助言された本場の防災,樹芸樹木および造林の3科の各位,および当支場の育苗手の各位に対して深く感謝する。

網走地方における防災林造成法の研究(PDF:1.47MB)
伊藤重右ヱ門・新村義昭・成田俊司
P51~71
この報文は,北海道における防災林造成法に関する研究の第7報であり,現地調査は,防災林造成技術のための地帯別区分(伊藤・斎藤1971)でオホーツク海岸北部及び東部に位置する網走地方の民有林,国有林及び鉄道林の中から選定した林分を対象として,1977年に行われた。
この研究のまとめに当り,現地調査を支援された北海道治山課,網走支庁林務課及び北見営林局治山課の関係各位に深く謝意を表する。

トドマツを加害するハマキガ類のサンプリング法(PDF:440KB)
鈴木重孝・上条一昭
P73~80
トドマツを加害するハマキガ類は,ハマキ亜科に属する13種とノコメハマキ亜科に属する4種の計17種が記録され,その簡単な生活史が報告されている(鈴木・上条, 1967)。これらの種のうち,コスジオビハマキ(Choristoneura diversana HÜBNER)は1965年に北海道中央部一帯の30-40年生トドマツ造林地で大発生し,それが10年ほど続いた。激害林分の一部では梢端が枯死する被害を生じたが,現在は個体数も減少し,目立った被害はでていない。
筆者らは,このコスジオビハマキがカナダにおいてバルサムモミなどに大被害を与えているトウヒノシントメハマキ(Choristoneura fumiferana CLEMENS)と同属の種であることから,大発生が長期にわたって継続した場合,トドマツ造林事業にとって大きな問題になると考え,この種を中心としたハマキガ類の発生消長を1965年から継続して調べてきた。その調査結果をもとに,コスジオビハマキ,トウヒオオハマキ(Lozotaenia coniferana ISSIKI),タテスジハマキ(Archippus pulchra BUTLER),クロタテスジハマキ(A. abiephaga YASUDA),マツアトキハマキ(A. similis BUTLER),モミアトキハマキ(Archips issikii KODAMA),イチイオオハマキ(A. fumosus KODAMA),トドマツメムシガ(Epinotia aciculana FALKOVTSH),トドマツアミメハマキ(Zeiraphera truncata OKU)の9種についてサンプリング法を検討した。なお本報では,これら9種のうち Archippus 属の3種と Archips 属の2種についてはそれぞれタテスジハマキ類,モミアトキハマキ類と一括して取扱った。
サンプリングの問題を考える湯合,当然のことではあるがそれぞれの種が異なった生活史をもっているため,1回のサンプリングですべての種の個体数を推定することは難しい。仮に幼虫という一定のステージに限定した湯合でも,齢期によってそれぞれの個体数の減少の程度が異なっている。従って,単位面積当りの個体数のようないわゆる絶対密度を推定するためには個々の種について異なったサンプリングを実施しなければならない。しかし,何種類かのハマキガの個体群変動を長期にわたって調べたり,一度に多数の林分の個体群構成を調べたりする場合には莫大な労力と時間がかかり,あまり実用的でない。そこでここでは,枝当りの相対密度の推定に重点を置いてサンプリング法を検討した。

エゾヤチネズミに対するリン化亜鉛1%殺そ剤の駆除効果の再確認(PDF:263KB)
中田圭亮・坂口勝義・川辺喜吉・広田文徳
P81~86
1977年春季に松前林務署管内,北海道桧山郡上ノ国町宮越内のスギ造林地にエゾヤチネズミ(Clethrionomys rufocanus bedfordiae)による林木被害が見いだされた。リン化亜鉛1%殺そ剤による散布経過(1976年秋季;ヘリコプター散布2回)からして,その原因の一つとして殺そ剤のエゾヤチネズミに対する駆除効果に疑問が提出された。
リン化亜鉛剤は1956年から実用に供されている(阿部 1956,上田ら 1956)林野用殺そ剤であり,多くの長所ゆえに今日もっとも広汎に使用されている(樋口 1977c)。エゾヤチネズミに対する駆除効果試験も初期の高含有率3%毒餌から現在の低含有率1%毒餌まで,各含有率の比較試験を含めていままでに多々行なわれ,その駆除効果については確認されている。しかし,それらの詳細な報告とくに1975年から北海道でほぼ全面的に使用されるに至った1%毒餌についてはほとんど刊行物に印刷されておらず,資料の参照が容易でない。
今回の試験ではエゾヤチネズミの野外個体群に対するリン化亜鉛1%殺そ剤の駆除効果を再検討した。この報文ではその結果を述べるとともに,資料の利用をはがるためいままでの未刊行資料の掲載に努めた。また駆除後の侵入に対する考察を行った。
未刊行資料の掲載を許された関係各位ならびに本稿について御助言いただいた林業試験場北海道支場樋口輔三郎博士にお礼申し上げる。