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道南農業試験場

第10回道南農業新技術発表会

主催:道南農業試験場

  • 日時:平成20年2月26日(火)13:00~16:00
  • 場所:北斗市農業振興センター

 第10回道南農業新技術発表会は、2月26日、生産者等、JA・諸団体、市町村・支庁・国関係者、農学校・町技術センター・普及センター・研究機関など多数のご参加をいただき、盛会のうちに終了いたしました。誠にありがとうございました。


発表会の内容

  1. 新品種・技術
    1. 期待の極良食味水稲「上育453号」
      風味に優れる大納言小豆「十育154号」
      美味しいポテトチップ用馬鈴しょ「CP04」
    2. ダイズシストセンチュウ抵抗性大豆品種の活用法
    3. 高設・夏秋どりいちごの養液管理と窒素栄養診断
    4. 有機性廃棄物によるカドミウム負荷の実態
    5. 生物農薬によるトマトの病害虫防除
    6. ホワイトアスパラガスの新しい栽培法
    7. 八重系トルコギキョウの品質改善
  2. トピックス
    1. 焼酎用さつまいもによる厚沢部町の地域振興
      (厚沢部町農林課)
    2. 2007年道南地域における水稲不作要因の解析
      (道南農業試験場技術普及部)
    3. 平成19年度の発生にかんがみ注意すべき病害虫
      (道南農試 病虫科)

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期待の極良食味水稲「上育453号」

北海道立上川農業試験場 研究部 水稲科

1.はじめに

 近年、北海道産粳米は、品種改良や栽培技術の改善による食味水準の向上および販売面の努力によって全国的な評価を高めている。しかし、一般に登熟温度の低い北海道では、アミロース含有率が高くなりやすく、炊飯米の粘りが弱くなる傾向にある。そのため、高い食味水準を確保するためにはアミロース含有率が適度に低い米が必要とされてきた。「おぼろづき」はアミロース含有率が適度に低く食味が優れる銘柄米として高値で取引されているが、玄米粒厚が薄いため収量性が低く、その需要に対して生産量が不足している。一方、「ほしのゆめ」の食味水準は「おぼろづき」に比べると劣り、収量性も基幹品種の「きらら397」や「ななつぼし」に比べて劣るため近年栽培面積が減少している。
このため、「おぼろづき」並かそれ以上の食味と「ほしのゆめ」「おぼろづき」以上の収量性を兼ね備えた品種が求められている。

2.育成経過

 「上育453号」は、平成9年に北海道立上川農業試験場において、極良食味品種の育成を目的に、低アミロース良食味系統の「札系96118」(後の「北海287号」)を母、多収良食味系統の「上育427号」(後の「ほしたろう」)を父として人工交配を行い、葯培養により得られ倍加固定系統から選抜された品種である。

3.特性の概要

  1. 形態的特性:稈長は「おぼろづき」よりやや長く「ほしのゆめ」並の“やや短”、穂長は「おぼろづき」よりやや短く「ほしのゆめ」よりやや長い“やや短”。穂数は「おぼろづき」よりやや多く、「ほしのゆめ」よりやや少ない“多”で草型は“穂数型”に属する。割籾の発生は「おぼろづき」よりやや少なく「ほしのゆめ」より少ない。
  2. 生態的特性:出穂期は「おぼろづき」「ほしのゆめ」並の“中生の早”であり、成熟期は「おぼろづき」「ほしのゆめ」並からやや遅い、“中生の早”に属する。耐倒伏性は「おぼろづき」「ほしのゆめ」よりやや劣る“やや弱”である。障害型耐冷性は「おぼろづき」「ほしのゆめ」にわずかに劣る“やや強~強”である。葉いもち圃場抵抗性は「ほしのゆめ」よりやや強く、「おぼろづき」並の“やや弱”、穂いもち圃場抵抗性は、「ほしのゆめ」よりわずかに強く、「おぼろづき」よりわずかに弱い“やや弱~中”である。玄米収量は「おぼろづき」「ほしのゆめ」より多収である。
  3. 品質および食味特性:玄米品質は「おぼろづき」並で「ほしのゆめ」にやや劣る。検査等級は「おぼろづき」「ほしのゆめ」並である。
    炊飯米の食味は「ほしのゆめ」に明らかに優り、「おぼろづき」並かやや優り良好である。食味関連成分のアミロース含有率は「おぼろづき」より高く「ほしのゆめ」より低い。白米の蛋白質含量率は「おぼろづき」より低く、「ほしのゆめ」並である。

4.普及態度

 「上育453号」を「おぼろづき」の全てと「ほしのゆめ」の一部に置き換えて作付けすることにより、極良食味米の安定供給と北海道米の食味向上に寄与できる。

  1. 普及見込み地帯:上川(名寄市風連町以南)、留萌(中南部)、空知、石狩、後志、胆振、日高、渡島および檜山各支庁管内
  2. 普及見込み面積:10,000ha
  3. 栽培上の注意事項
    1. 耐冷性が対照品種に比べやや劣るため、前歴期間および冷害危険期にかけて深水管理を徹底する。
    2. 耐倒伏性がやや劣るため「北海道施肥標準」を遵守し、多肥栽培は厳に慎む。
    3. いもち病抵抗性が不十分であるため発生予察に留意し、適切な防除に努める。

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風味に優れる大納言小豆「十育154号」

北海道立十勝農業試験場 作物研究部 小豆菜豆科

1.来歴と育成

 「十育154号」は、極大粒、落葉病・萎凋病抵抗性の「十系701号」を母、大粒、茎疫病(レース1,3)抵抗性の「十系697号」を父として平成9年に十勝農業試験場で人工交配を行い、育成された。

2.特性の概要

長所:
  1. 落葉病、茎疫病(レース1,3)、萎凋病に抵抗性である。
  2. 加工適性が「アカネダイナゴン」、「ほくと大納言」と同等以上に優れる。
  3. 百粒重が「アカネダイナゴン」より10%以上重く、大納言小豆規格内歩留まりが高い。
短所:
  1. 子実重が「アカネダイナゴン」よりやや劣る。

3.優良品種に採用しようとする理由

 道南地方の小豆は大粒の大納言品種が栽培されている。しかし「アカネダイナゴン」は加工適性の評価が高いものの、規格内歩留まりが低い。また「ほくと大納言」も加工適性の評価は高いが、収穫前降雨による雨害粒発生が多い。「十育154号」は風味、加工適性、耐病性に優れ、規格内歩留まりが高い。大粒、良質な大納言小豆の安定供給が可能となる。

4.栽培上の注意

落葉病、茎疫病(レース1・3)、萎凋病に抵抗性を持つが、栽培に当たっては適正な輪作を守る。

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美味しいポテトチップ用馬鈴しょ「CP04」

カルビーポテト株式会社 馬鈴薯研究所

1.来歴と育成

 「CP04」は、アメリカ合衆国のコーネル大学において「Allegany」と「Atlantic」との交配から選抜され、1998年に「Andover」の名で発表された。ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有する中早生の加工(ポテトチップ)用品種である。カルビーポテト(株)により導入され、北海道における適応性を検討してきた。

2.特性の概要

長所:
  1. 早堀り、普通堀りにおけるポテトチップ加工適性が優れる。
  2. 「トヨシロ」より9℃貯蔵後のポテトチップ加工適性が優れる。
  3. ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ。
  4. そうか病抵抗性が“中”である。
短所:
  1. 開花期以降にウイルス病様の生理障害が発生することがある。
  2. 低収である。

3.優良品種に採用しようとする理由

 北海道におけるポテトチップ用馬鈴しょは20万トン以上の消費量があり、今後の需要拡大も期待できる。現在の品種には「ワセシロ」と「トヨシロ」があるが、両品種ともジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持たない。また、「ワセシロ」は貯蔵後のチップカラーが劣るため使用可能期間が短い。「CP04」はジャガイモシストセンチュウ抵抗性で、センチュウ密度を低下させる効果があり、発生地帯拡大のリスクを低減させる。また、早堀り、普通堀りにおけるチップカラーが優れ、チップ以外のスナック製品への適性もある。ポテトチップ用の高品質原料の安定供給が可能となり、馬鈴しょ生産の安定化が期待される。

4.栽培上の注意

  1. ウイルス病(モザイク、えそ斑、葉巻症状)に類似した生理障害が、乾燥しやすい圃場で発生しやすいので、保水力が高く肥沃な圃場を選択し、適切な肥培管理に努める。
  2. 原採種栽培におけるウイルス罹病株抜き取り作業の場合は、生理障害との区別に留意する。

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ダイズシストセンチュウ抵抗性大豆品種の活用法

中央農試作物研究部畑作科
中央農試・道南農試技術普及部

1 試験の背景と目的

  1. ダイズシストセンチュウとは?
    ダイズシストセンチュウは豆類(大豆・小豆)に寄生する有害線虫の一種で、寄生された豆類の収量や品質は低下する。道南地方では豆類が過作傾向にある檜山管内で多発傾向にあり、その被害が大きな問題となっている。
  2. 抵抗性大豆品種の育成
    北海道の研究機関では抵抗性をもつ大豆品種を育成している。しかし、本線虫には複数のレ-スが分布し、同じ品種でも地域やほ場によって寄生性が異なる。このため、地域で抵抗性品種を導入する場合には、どの抵抗性品種が有効なのか調べておく必要がある。
  3. これまでのレ-ス判定法
    これまでは、米国で開発された判定法に準じて米国産大豆5品種での寄生反応の違いをもとにレ-スが判定されていた(国際判別法)。しかし、この判定法を日本にあてはめると一部実態に合わず、また土壌を室内に持ち帰って調査することから、発生土壌の取り扱いに注意が必要なことや、労力の点から多数のサンプルを処理しきれないなどの欠点があった。
  4.  本課題は、抵抗性大豆品種の有効性を農家ほ場で簡易に判定する方法を開発し、これによる各地域の実態の解明、抵抗性品種の効果的導入および今後の抵抗性品種の開発に資することを目的とする。

2 試験方法

  1. 簡易判定法(シ-ドテ-プ法)の開発
    (1) 供試品種;今回開発した判定法では、北海道で育成された大豆品種の中から、抵抗性遺伝資源の異なる4品種を用いた。「スズマル」(感受性)、「ユキシズカ」(PI84751由来のレ-ス3抵抗性)、「トヨコマチ」(ゲデンシラズ1号由来のレ-ス3抵抗性)、「スズヒメ」(PI84751由来のレース1および3抵抗性)
    (2) 判定方法;根に寄生するシストの個数を指数におきかえて寄生程度を算出し、シスト寄生程度10以上を陽性として判定した。

3 結果の概要

  1. 判定基準の設定
    判定品種の寄生反応から評価区分(R3、R3g、R3p、Rgp、R?)を設定し、大豆品種の導入適否基準を策定した(表1)。
  2. 実態調査の結果
    2005~2007年に関係機関の協力のもとに、道央と道南を中心に7支庁16市町村で実態調査を行った結果を表2に示した。調査ほ場全体(75筆)の61%(46筆)で寄生が認められ、このうち評価区分R3と判定されたほ場が52%、Rgpが26%、R3gが15%、R?が4%、R3pが2%、の順に確認された。このことは、レ-ス3抵抗性品種が有効なほ場が発生ほ場全体の52%(R3)、レ-ス1抵抗性品種が有効なほ場が97%(R3+R3g+R3p+Rgp)、レ-ス1・3抵抗性品種に寄生する個体群が分布するほ場が4%(R?)あったことを示している。
  3. シ-ドテ-プ法の長所
    シ-ドテ-プ法は、取り扱いが容易で防疫上有効である、少人数で多数の圃場調査が可能である、現地圃場で夏期までに判定可能であるなどの長所がある。

4 今後の対応

 今後は、道央以北および道東部のダイズシストセンチュウ発生地域でも本法を用いた実態調査を継続することや、判定区分R?ほ場での線虫個体群の解析などを行うとともに、実態調査の結果をもとに抵抗性大豆品種の育成を進めることが課題として残されている。

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高設・夏秋どりいちごの養液管理と窒素栄養診断

北海道立道南農業試験場 研究部 栽培環境科・作物科

1 試験目的

 高設・夏秋どりいちごは市場のニーズが非常に高く、作業性が良好なため、生産拡大が期待されている。しかし、養液の濃度管理などの要因により、収穫期間途中で急激に収量が減少する「成り疲れ」の症状を起こしやすい。そこで養液の窒素管理法および窒素栄養診断法を確立し、高設・夏秋どりいちごの生産安定化を図る。

2 試験方法

供試品種:エッチエス-138(夏実)
栽培方法:魚箱(外寸55×34×12cm,16L)利用による高設栽培
栽植密度:5,556株/10a(4株/箱,千鳥植,120cm間隔縦方向設置)
耕種概要:定植 5/24、収穫期 7/14~11/7
供試培土:ピートモス:火山礫=1:1(容量比)、炭カル3g/L、過石1g/L
供試肥料:養液土耕1号(N-P2O5-K2O-CaO-MgO=15-8-16-6-2)
養液処理:
【平成17年】I.半量(L:6000倍=25mgN/L) II.標準(N:3000倍=50mgN/L) III.倍量(H:1500倍=100mgN/L)
【平成18年】I.半量(L) II.標準(N) III.倍量(H) IV.HHNL V.HNNL VI.HLLL VII.LLHL (IV~VIIは濃度切換え処理区、切換日:7/18, 8/17, 9/12)
【平成19年】I.NHNNN II.NHNLL III.LLHHL IV.LLHNL V.LNHHL VI.LNHNL VII.NNHHL VIII.NNHNL IX.LHHNL X.LHNLL(切換日:6/19, 7/13, 8/9, 9/18)
*平成19年のみ H:2000倍=75mgN/L
給液時間(分/日):定植~7月上旬:4~9、7月上旬~9月下旬:8~13、9月下旬以降:3~10(32ml/株・分)
試験規模:各区12~20株(2反復)
調査項目:果実収量、果実品質、各部位乾物重、養分吸収量、時期別葉柄硝酸濃度

3 試験結果

  1. 収穫果実部を除く作物体の乾物重および窒素吸収量の増加は前期収穫ピーク直後までみられたが、それ以降は認められなかった。また、窒素吸収量を部位別にみると果実部位の吸収量が最も多かった。
  2. 全生育期間中の養液濃度が高いほど果実収量は増加する傾向にあったが、果実のBrix値は低下し、酸度は高くなる傾向にあった。窒素施肥量に対する窒素吸収量の割合は施肥量が多くなるほど低下した。
  3. 果実収量は養液の窒素濃度配分を花房養成期および株養成期に中程度(50mgN/L)、前期収穫期では高濃度(75mgN/L)、中休期は中程度(50mgN/L)、後期収穫期では無駄な養分の供給を抑えるために低濃度(25mgN/L)とした処理区(NNHNL)において全収穫期間を通じて高く、同区は収穫途中での収量減少が緩和し、施肥窒素量に対する窒素吸収量の割合も高くなった。
  4. 葉位別葉柄硝酸濃度は各区とも上位葉で低く、下位葉ほど高くなり、時期とともに高まる傾向にある。養液濃度の上昇に伴い葉柄硝酸濃度は高まっており、これを測定することによって体内の窒素栄養を把握することが可能である。測定部位は5葉位が適している。
  5. 果実の前期収量はその直前の葉柄硝酸濃度が500~1500mgNO3/kgFWの範囲で、中休期収量は1000~2700mgNO3/kgFW、後期収量は1200~2700mgNO3/kgFWの間で高収になった。
  6. 以上のことから、安定的な収量確保のための養液窒素管理基準を設定し、さらに窒素栄養状態の確認のための各生育ステージにおける窒素栄養診断基準値も併せて設定した。これらの養液管理および窒素栄養診断基準により、高設・夏秋どりいちご「エッチエス-138」の収量安定化が図られる。

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有機性廃棄物によるカドミウム負荷の実態

北海道立道南農業試験場 研究部 栽培環境科

1 背景と目的

 カドミウム(Cd)は、土壌、河川や湖沼などの陸水および海水中、あるいは動植物の生体内に微量に存在する重金属である。よって、人間は日常生活において健康上問題にならない量のカドミウムを主に食品から摂取している。しかし、カドミウムを大量に摂取すると腎機能障害を引き起こす可能性があることから、2006年に食品の国際的な基準値が設定された。これを受けて、我が国でも現在玄米(1mg/kg)のみ定められている国内基準が、他の食品にも拡大適用される見込みである。このため、将来的にはカドミウムの基準値を越えない農産物の出荷と、そのための土壌管理が求められるであろう。
作物のカドミウム濃度を高めないためには、それらを栽培する土壌のカドミウムレベルを低く保つことが重要である。一般的な非汚染土壌において、土壌へカドミウムが負荷される原因として肥料や土壌改良資材があげられる。また、循環型社会では、有機性廃棄物を肥料あるいは堆肥化し、農地還元することが一つの手段となっているが、このような投入資材により、土壌に負荷されるカドミウムの量的把握や土壌への蓄積が不明であった。
ここでは、北海道における有機性廃棄物由来のカドミウム発生量とそれらの農地還元量の把握、および有機性廃棄物施用により負荷されるカドミウム量やそれによる土壌のカドミウムとの関係について明らかにした。

2 北海道における有機性廃棄物由来のカドミウム発生量と農地還元量

 北海道における有機性廃棄物由来のカドミウム発生量は年間7855kgと試算され、農業に由来するカドミウム発生量は2136kgであった。農業由来の中では、家畜糞尿によるカドミウム発生が大半を占めるとともに、ほぼ全量が農地還元されていた。非農業由来のカドミウム発生量は年間5179kgであり、下水汚泥、有機性汚泥、水産系、し尿等により大半を占めた。この中で、農地に施用することにより持ち込まれるカドミウムは1160kgであった。このことから非農業由来の有機性廃棄物の農地還元が今後促進された場合、農地へのカドミウム負荷リスクは高まると言える。

3 有機性廃棄物施用による土壌のカドミウム収支

 各種有機性廃棄物資材を用いて、実際にトマトおよびダイズやコムギなどの畑作物を栽培した。果実と残さを持出すトマト圃場において、水産系堆肥によるカドミウム負荷量(5年連用)は圃場からの持出し量より多かったが、牛ふん堆肥による負荷量は持出し量より少なかった。畑作物圃場では水産系堆肥、下水汚泥、生ゴミの負荷量(5年連用)は持出し量を上回った。
したがって、有機性廃棄物資材を施用すると、カドミウムは概ね土壌に蓄積することがわかった。ただし、この程度の負荷量ではいずれも可食部や土壌のCd濃度の変化は少なかった。

4 有機性廃棄物によるカドミウム負荷量と土壌のカドミウム濃度との関係

 カドミウムを比較的多く含む有機性廃棄物資材を大量施用し、カドミウム負荷量と土壌カドミウム濃度の増加を調査した。その結果、カドミウム負荷量と土壌のカドミウム(0.1M塩酸可溶性カドミウム)濃度に直線関係が得られた。ここから、土壌のカドミウム濃度が0.1mg/kg増加(分析値として明瞭に差が現れる値)を基準として有機性廃棄物資材の濃度水準別に施用年数および施用量を試算した。その結果、例えばカドミウム濃度が0.1mg/kgの牛ふん堆肥を毎年1000kg/10a施用する場合には、250年間の連用が可能である。したがって、このレベルの資材を長年連用しても土壌のカドミウムが高まるリスクは低いと考えられる。

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生物農薬によるトマトの病害虫防除

北海道立道南農業試験場 研究部 病虫科

1 背景と目的

 ハウス栽培のトマトの地上部には各種の病害虫が発生し減化学農薬栽培を難しくしている。その一方、生物農薬を用いて減化学農薬防除が試みられているが、生きた微生物や昆虫等を成分とすることから従来の化学農薬と比べて適用性や活用法について不明な点が多く、効果的な使用法の確立が求められている。そこで本課題では、トマトの地上部に発生して問題となる病害虫に対して、生物農薬の適用性を明らかにし、既存の防除法と組み合わせた減化学農薬の防除技術を検討した。

2 各病害に対する生物農薬の活用法

1)バチルス・ズブチリス水和剤の効果
市販の5薬剤について、灰色かび病、葉かび病及びうどんこ病に対する防除効果を評価した。灰色かび病に対する防除効果はインプレッション水和剤とエコショットで比較的高かったが、このうちエコショットでは散布による果実の汚れもなく、収穫時期の使用が可能だった。葉かび病に対しては、防除効果は不安定だった。うどんこ病に対しては、安定した防除効果を示した。
2)化学農薬との組合せによる防除効果
従来予防散布を推奨されていたバチルス剤であったが、予防散布による労力・コスト増や複数病害に対する化学農薬への切り替え時期の難しさなどから、散布のタイミングの見直しを検討した。その結果、半促成では各病害の初発時に化学農薬を散布し、その後バチルス剤と化学農薬を交互に散布することでバチルス剤が防除効果を発揮し、慣行の化学農薬のみによる防除と同等の効果を示した。夏秋どり作型では、葉かび病の伸展が激しかったが、病葉率1割(通路側の全ての株に1~2枚ずつ発病が見られる状態)を目安にバチルス剤をポリオキシン複合体水和剤(YES!cleanで農薬成分回数にカウントしない)に切り替えて交互散布することで、葉かび病に対しても慣行と同等の防除効果を得た。夏秋どり作型ではうどんこ病が発生する場合があったが、この散布体系で同時防除が可能だった。
3)耕種的防除法との組合せによる防除効果
葉かび病の抵抗性品種が市販、栽培されているが、抵抗性遺伝子Cf-4を持つ品種(桃太郎ファイト等)では葉かび病を回避できなくなっており、Cf-9を持つ品種(桃太郎コルト等)で発生を回避できることを確認した。また、病気が初発した時に、葉かき作業によって発病葉を取り除くことで、灰色かび病と葉かび病の伸展抑制効果があり、薬剤散布と併用することでバチルス剤の防除効果が安定した。

3 各害虫に対する生物農薬の効果

 モニタリング法として、オンシツコナジラミ成虫の黄色粘着板による捕獲状況はトマトでの寄生初発をとらえるのに有効であった。各生物農薬では、オンシツコナジラミに対してボーベリア・バシアーナ剤、バーテシリウム・レカニ剤及びペキロマイセス・フロモセウス剤は防除効果があり、特に、ボーベリア剤の効果が高かった。ミカンキイロアザミウマに対しては、ボーベリア剤とククメリスカブリダニ剤で防除効果がみられた。アブラムシ類では速効的に有効な生物農薬はなかった。モニタリングによりコナジラミやアザミウマ(少発生条件下)の初発をとらえて、これらの生物農薬を複数回散布することで、化学農薬を用いなくても害虫の密度を低く抑えることが出来た。

4 有生物農薬を活用した病害虫防除モデル

 病害虫の発生に応じて、これらの生物農薬を用いた防除法を組み合わせて活用することで、YES!clean基準以下に化学農薬の使用回数を抑えることができた。

5 成果の活用面と留意点

 トマト栽培の減化学農薬でYES!cleanの基準をクリアする防除技術として活用する。

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ホワイトアスパラガスの新しい栽培法

北海道立花・野菜技術センター 研究部 野菜科

1 試験のねらい

 近年、その独特の風味と食味の良さから「青果用ホワイトアスパラガス」の需要が増加傾向にあり、今後も需要の拡大が見込まれています。しかし、従来の培土法1)では土の中にある若茎2)を収穫するためグリーンアスパラガス栽培と比較すると収穫作業が難しく、また、培土に適した土壌が必要であるため栽培地域が限定される等の問題があります。そこで、収穫が簡単で、培土を必要としないホワイトアスパラガスの新しい栽培法について検討しました。さらに、この新しい栽培法を応用して真冬のホワイトアスパラガス栽培にも挑戦しました。

2 試験の方法

  1. ハウス春どり栽培・ハウス立茎栽培3)
    ハウス内に作った大型トンネルを遮光フィルム(「ホワイトシルバー」、遮光率99.9%以上)で被覆して暗黒条件下とし、萌芽した若茎を緑化しないで収穫する栽培法(遮光フィルム被覆による無培土栽培法)を検討しました。また、本方法をハウス立茎栽培に導入することで、春芽をホワイトアスパラガス、夏芽をグリーンアスパラガスとして収穫する栽培法についても検討しました。
  2. 2) 伏せ込み促成栽培4)
    上記の方法を伏せ込み促成栽培に応用した真冬のホワイトアスパラス栽培について検討しました。

3 試験結果

  1. ハウス春どり栽培・ハウス立茎栽培
    遮光フィルムを使えば培土をしなくてもホワイトアスパラガスを生産できることが明らかとなりました。この 新しい栽培法ではグリーンアスパラガス栽培と比較して、収穫本数が減少しますが、若茎一本重が増加するため収量性は同程度となりました。また、トンネル内は暗黒条件ですが、頭にヘッドライトをつけることでグリーンアスパラガス栽培と同じように地面に出てきたホワイトアスパラガス若茎を収穫できました。さらに、本方法をハウス立茎栽培に導入することにより、春芽をホワイトアスパラガス、夏芽をグリーンアスパラガスとして収穫することも可能でした。遮光フィルムを用いた無培土栽培法を導入してホワイトアスパラガスを生産するとグリーンアスパラガス栽培よりも増益が期待できます。
  2. 伏せ込み促成栽培
    畑で春から養成した根株を秋に掘り上げて、ハウス等の施設に伏せ込み、遮光フィルムを被覆して無培土栽培すると真冬のホワイトアスパラガス生産が可能となりました。適品種である「ウェルカム」の1年養成株から株養成圃場10a当たり360kg以上の若茎を得ることができました。この方法を使うと道央地域では12月中旬からホワイトアスパラガスを出荷できるため、クリスマス需要にも対応可能となります。

 これらの栽培法の普及により「青果用ホワイトアスパラガス」が北海道の新しい特産品となることを期待しています。


用語解説

  1. 培土法・・アスパラガスが萌芽する前に土を盛り、土の中で若茎を白くする栽培法
  2. 若茎・・アスパラガスの収穫物(食用部位)
  3. ハウス立茎栽培・・ハウス内で春収穫(春芽、4~5月)と夏収穫(夏芽、7~9月)を行う長期どり栽培
  4. 伏せ込み促成栽培・・畑で1年以上養成した根株を秋に掘り上げて、温床に伏せ込んで芽を出させ、冬期間に収穫を行う栽培


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八重系トルコギキョウの品質改善

北海道立花・野菜技術センター 研究部 花き科

1 試験のねらい

 八重系トルコギキョウの秋切り作型は本道の有利性を発揮できる作型であるが、ブラスチング(花蕾の発育停止)が発生しやすく、品質向上が課題となっている。本試験ではブラスチングを抑制するとともに総合的に切り花品質を向上させる技術を確立する。

2 試験の方法

 供試品種:「ピッコローサスノー」(早生)、「セレモニースノー」(中晩生)、「ロジーナⅢ型ホワイト」(晩生)

  1. 電照による光環境改善効果
    処理区:ナトリウムランプ昼間補光区(3000lux、12時間連続点灯)、ナトリウムランプ長日処理区(3000lux、朝夕点灯、明期18時間)、白熱灯長日処理区(50?120lux、朝夕点灯、明期18時間)、無処理区
  2. 栽植密度による光環境改善効果
    処理区:疎植区(2,778株/a)、標準区(3,333株/a)
  3. 反射マルチによる光環境改善効果
    処理区:反射マルチ区(8月16日以降、通路に反射マルチを設置)、無マルチ区
  4. 定植後の短日処理による栄養生長促進効果(ピッコローサスノーのみ供試)
    処理区:短日処理区(定植翌日から30日間、17時?9時を暗期)、無処理区
  5. 稚苗定植による栄養成長促進効果(セレモニースノーのみ供試)
    処理区:稚苗区(エクセルソイル512セル苗)、慣行苗区(2006年度288セル苗、2007年度406セル苗)

3 試験の結果

  1. ブラスチングの多発には頂花開花期前後の光不足が大きく影響していると考えられた。
  2. 採花1ヶ月前からのナトリウムランプによる補光および長日処理では切り花のボリューム増加とブラスチング抑制に効果が認められた。白熱灯による長日処理では日長反応による開花促進効果および切り花長の増加が認められ,照度を100lux以上確保することにより花蕾数の増加やブラスチング抑制効果も認められた。
  3. 疎植および反射マルチの設置による光環境改善においても切り花のボリューム増加とブラスチング抑制効果が認められた。また、これらと電照法を組み合わせるとより品質向上効果が高まった。
  4. 栄養生長促進技術である定植後1ヶ月間の短日処理により切り花のボリュームは大幅に増加するがブラスチング抑制効果は認められない。しかし、光環境改善技術との組合せにより一層のボリューム増加とブラスチング抑制が可能となった。
  5. 稚苗定植によっても栄養成長促進による切り花のボリューム増加と光環境改善技術との組合せ効果が認められた。
  6. 経済性試算の結果、栄養生長促進技術と光環境改善技術を組み合わせることにより、収益性が大幅に向上すると考えられた。
  7. 以上より品質向上対策のポイント、収益性向上効果が高かった技術の組み合わせ例を示した。
  8. 今後はより低コストな電照方法についての検討が必要である。


用語解説

 【ブラスチング】蕾が発育途中で死んでしまうこと。光不足などで光合成が出来ず、蕾の発育に必要な糖分が欠乏して発生する。
【稚苗定植】4葉期頃の小さい苗(標準は6葉期)を植えて直根をしっかり張らせる方法。


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焼酎用さつまいもによる厚沢部町の地域振興

厚沢部町農業活性化センター

1 はじめに

 厚沢部町は、じゃがいも「メークイン」発祥の地であるが、近年、新規作物として、焼酎用さつまいもが栽培されるようになった。平成18年には、札幌酒精工業(株)厚沢部工場が完成し操業を開始した。
「いものマチ」厚沢部は、産消協働による新たな地域振興に取り組んでいる。

2 焼酎工場立地に至った経緯

  • 平成15年、札幌酒精工業(株)が、乙類焼酎の原料さつまいもを北海道でつくれないかと、道内でも比較的温暖な当町の農家に栽培を委託したのが、きっかけである。0.2ha作付けし、4t収穫。
  • 翌16年、さつまいも「コガネセンガン」を原料とした本格焼酎「喜多里(きたさと)」を販売し、好評を博した。
  • 平成17年には生産量が60tを超え、札幌本社工場での焼酎製造が限界に達した。会社は、輸送コストの削減、原料の品質保持、産消協働の観点から、厚沢部町への工場建設を決断した。
  • また、当町には、焼酎製造に最適とされる柔らかくおいしい湧水(軟水)があることも大きな要因のひとつであった。
  • 厚沢部工場は、平成18年4月に着工し、総事業費14億円をかけて、同年10月に完成した。

3 工場建設に係わる町の支援策

 町は、平成18年3月に関係条例を制定するとともに、さまざな支援策を講じてきている。

  1. 企業立地促進条例による支援
    1) 便宜供与:工場用地の選定、町道の整備、水道等の整備、用水路の整備
    2) 補助金の交付:投資額の2割以内で上限2億円
    3) 課税の免除:固定資産税を3ケ年間免除
  2. 農業者に対する支援
    1) 農業活性化センターによる技術支援
    ・栽培試験、土壌分析(H17~)
    2) 苗代の一部助成(1/3以内、H19~21)

4 工場誘致に伴う波及効果

 工場誘致に伴い、町の知名度は向上し、経済効果はもとより様々な面に効果が波及している。

  1. 雇用の創出
    ・正社員;操業時5人、現在6人(工場長含まず)
    ・パート;延べ24人
  2. 契約栽培農家の安定的収入確保
    ・19年産さつまいも16戸2千万円
  3. 町税、歳入の増加
    ・法人町民税;H19~(均等割)156千円
    ・固定資産税;H22~
    ・水道料金;H18.10~H19.12;1,168千円
  4. 観光集客:定期ルート、バスツアー、視察等
  5. 知名度向上:取材、CM放映
  6. の他:産業体験学習の場

5 さつまいもの生産と栽培方式

  1. 生産動向:さつまいもの生産は順調に伸びており、平成19年には16戸15.3ha393t収穫し、今後さらに増加が見込まれている。
  2. 苗の供給等:苗は、当初、九州から購入し、その後、契約農家に委託していた。  平成18年8月に育苗、栽培、原料供給を担う農業生産法人(株)ノアールが設立され、19年ハウス4棟にて自社苗供給体制が確立した。
  3. 作業体系:1)育苗3~6月、2)耕起・施肥、マルチ;4~5月、3)定植5月中~6月、4)管理;防除、ツル返し随時、5)収穫10月
  4. 特殊作業機のリース:九州から一連の機械を購入し、日程に応じて計画的に貸し出す。甘藷用マルチャー、苗植機、ツル払い機、収穫機など。
  5. 栽培上の課題:現在、なお、模索段階である。
    より太い健苗を育成するには、黒マルチでよいか、肥料はどの程度が適正か、ツル返しは必要かなど。

今後

 原料農産物はさつまいもの他に大麦やとうきびも加わり、さらなる地域振興に取り組んでいる。

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