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道南農業試験場

第9回道南農業新技術発表会

主催:道南農業試験場

  • 日時:平成19年2月21日(木)13:00~16:00
  • 場所:北斗市農業振興センター

 第9回道南農業新技術発表会は、2月21日、生産者等、JA・諸団体、市町村・支庁・国関係者、農学校・町技術センター・普及センター・研究機関など多数のご参加をいただき、盛会のうちに終了いたしました。誠にありがとうございました。


発表会の内容

  1. 新品種・技術
    1. 夏秋期のケーキ用イチゴ「道南29号」
    2. 粒が大きい大豆「中育52号」
      早生・白肉ばれいしょ「HP01」
      ルチンに富むだったんそば「北海T8号」
    3. 道南地域における水稲湛水直播栽培指針
    4. 水稲「ふっくりんこ」の高品質・減農薬米生産技術
    5. 有機質肥料を用いた夏秋トマト栽培
    6. 採苗ほと本ぽにおけるイチゴ疫病の防除対策
    7. 軟白みつばの栽培技術
  2. トピックス
    1. 森町濁川地区におけるトマト窒素栄養診断技術の確立と普及
      (渡島農業改良普及センター 本所)
    2. 檜山北部地区におけるダイズシストセンチュウ被害対策
      (檜山農業改良普及センター 檜山北部支所)
    3. 平成18年度の発生にかんがみ注意すべき病害虫
      (道南農試 病虫科)

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夏秋期のケーキ用イチゴ「道南29号」

作物科 研究職員 福川英司

 四季成り性を有し、夏秋期に収穫できるイチゴ品種「道南29号」を育成した。高設栽培において「エッチエス-138」よりも多収であり、種子浮き果も少ない。果実の色つや、果形に優れ、糖度、酸味のバランスが良いため良食味である。果実は硬く日持ちするのでケーキ用など業務用に適する。

1 背景と目的

 イチゴは夏秋期が全国的な端境期に当たり、単価が高い。そのため、高収益が期待できる夏秋どり栽培の普及が進んでいる。特に、作業負担の少ない高設栽培の導入と相まって、今後とも栽培面積の増加が考えられる。一方、夏秋どり向けの北海道優良品種「エッチエス-138」は土耕栽培で多収性を示すが、高設栽培では障害果(種子浮き果)の発生が問題となっており、高設栽培向けの高品質・多収品種が求められている。

2 育成経過

 「道南29号」は、平成13年に道南農試において、大果で果実外観、食味に優れる「7交15-57」(道南農試育成系統)を種子親とし、四季成り性を有し果実が硬い「エッチエス-138」(北海三共(株)育成)を花粉親として交配、育成した。平成17年から「道南29号」の系統名を付し、各種試験に供試してきた。

3 特性の概要

1)形態的特性 収穫始期の草丈はやや低く、葉数および芽数はやや少ない。草姿は中間性である。草勢はやや強く、果房当たり果数はやや少ない。

2)生態的特性 四季成り性を有する。収穫始期からみた早晩性は、ほぼ同等である。高設栽培における規格内収量は「エッチエス-138」より多い。高設栽培における種子浮き果の発生率は「エッチエス-138」より低い。うどんこ病抵抗性は「エッチエス-138」よりやや弱く、とりわけ秋期に着果が多くなると成り疲れが生じて病果が多くなる。灰色かび病果の発生程度は同程度である。「エッチエス-138」と比較して萎黄病抵抗性は弱く、萎凋病には同程度、疫病にはやや強い。

3)果実品質 果形はやや長円錐形である。果皮色、光沢は「エッチエス-138」と同等である。果肉色はやや淡く、「白~鮮紅色」である。糖度はやや低いが、酸度が低いことから糖酸比はやや高い。糖度と酸味のバランスは良く、食味はやや優れる。果実は中心空洞が「エッチエス-138」よりやや大きいものの、硬さは優り、日持ち性は供試品種の中で最も優れている。

4)実需者評価 仲卸、大都市の洋菓子協会および大手製パン会社による評価は「エッチエス-138」と比べて、「同等~やや優る」であった。

4 普及態度

 「道南29号」は高設・夏秋どり栽培において「エッチエスー138」よりも多収で、種子浮き果など障害果の発生は少ない。また、果実の糖酸比および果実硬度が高く、日持ち性に優れていることから、菓子材料等の業務用に適する。高設栽培では高品質・多収が得られることから、高設栽培を中心に既存品種の一部と置き換え、夏秋どりイチゴ栽培の生産振興に寄与できる。

5 普及見込み地帯と面積

 全道一円、10ha

6 成果の活用面と留意点

(1)ハウス雨よけ夏秋どり作型に適応する。
(2)土耕栽培でも利用可能であるが、萎黄病に対する抵抗性が劣るので、耕種的防除や土壌消毒に努める。
(3)秋期に着果過多による成り疲れで草勢が低下すると、うどんこ病果が発生しやすくなるので、芽数および果房数調整を適切に行う。

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新品種

粒が大きい大豆「中育52号」

北海道立中央農業試験場 作物研究部 畑作科

1.来歴と育成

 「中育52号」は極大粒、良質黒大豆の「新丹波黒」を母、ダイズわい化病抵抗性の白目極大粒品種「ツルムスメ」を父として、平成5年に北海道立中央農業試験場で人工交配を行い、育成された。

2.特性の概要

長所:
  1. 百粒重が「ユウヅル」よりかなり重い。
  2. 裂皮粒の発生が「ユウヅル」より少ない。
  3. 納豆に好適で、煮豆等に適する。
短所:
  1. ダイズシストセンチュウ抵抗性が弱である。
  2. ダイズわい化病抵抗性が弱である。

3.優良品種に採用しようとする理由

 道南地方の大豆は秋期の温暖な気候を生かし、「ユウヅル」、「晩生光黒」などの極大粒品種が栽培されている。しかし「ユウヅル」は大粒で食味に優れるものの、裂皮が多く、等級や製品歩留まりが劣る。「中育52号」はこれまでの道産大豆にはない大きさで、ふるい目9.7mm以上の収量が多く、他産地との差別化が容易である。裂皮は少なく、納豆、煮豆、煎豆および甘納豆の原料として実需者からの評価も高い。道南地域の新たなブランドとして期待される。

4.栽培上の注意

  1. ダイズシストセンチュウ発生圃場への作付けは避ける。
  2. ダイズわい化病の適切な防除に努める。
  3. 種子消毒その他の肥培管理及び収穫調整は従来の極大粒品種に準じて行う。

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早生・白肉ばれいしょ「HP01」

ホクレン農業総合研究所 畑作物開発課

1.来歴と育成

 「HP01」は中早生の生食用品種「イエローシャーク」を母、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性遺伝子H1を二重に持つ早生の生食用品種「とうや」を父として、平成9年にホクレン農業総合研究所で人工交配を行い、選抜育成された。

2.特性の概要

長所:
  1. 早生白肉丸いもで「男爵薯」より多収である。
  2. 良食味で「男爵薯」より調理品質が優る。
  3. ジャガイモシストセンチュウ抵抗性である。
  4. 「男爵薯」より中心空洞が少ない。
短所:
  1. 褐色心腐が「男爵薯」より多い。

3.優良品種に採用しようとする理由

 近年、ジャガイモシストセンチュウ発生地帯が拡大している。「男爵薯」は感受性であるため、将来にわたって栽培を維持するための方策が検討されている。「HP01」はジャガイモシストセンチュウ抵抗性でセンチュウ密度を低下させる効果があり、発生地帯拡大のリスクを低減させる。また、「男爵薯」並の早生、球形、白肉で貯蔵性も同程度に優れ、収量は20%程度多い。調理品質は「男爵薯」よりも優れ、良食味で、サラダ加工適性は「さやか」並に優れる。生食用ばれいしょの生産振興と、「男爵薯」の生産安定化が期待される。

4.栽培上の注意

  1. 疫病や軟腐病等により塊茎の腐敗が発生することがあるので、防除を十分行うとともに、湿潤な土壌での栽培は避け、収穫時に塊茎に損傷を与えないように注意し、収穫後は涼しい場所でよく風乾する。
  2. 褐色心腐の発生することがあるので、多肥や粗植を避け、十分な培土を行う。
  3. まれに塊茎の維管束褐変が発生するので、乾燥しやすい圃場で栽培する場合は注意する。
  4. 「男爵薯」より倒伏しやすいので、多肥を避ける。<

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ルチンに富むだったんそば「北海T8号」

北海道農業研究センター 資源作物育種グループ

1.来歴と育成

 「北海T8号」は、ロシアから導入した遺伝資源「Rotundatum」から、北海道農業研究センターで純系選抜により育成された。

2.特性の概要

長所:
  1. 「キタワセソバ」よりルチン含量が極めて高い。
短所:
  1. 「キタワセソバ」より脱粒しやすい。
  2. 「キタワセソバ」より草丈が高く、倒伏しやすい。

3.優良品種に採用しようとする理由

 機能性成分のルチンを多く含むだったんそばは健康志向の高まりから、消費者に根強い人気がある。また中国産玄そばの高騰に伴い、実需者からは国産だったんそばの安定生産が求められている。森町を嚆矢として、当麻町、上士幌町など、だったんそばを特産化しようとする動きがあり、栽培面積の拡大が見込まれている。「北海T8号」は在来種に比べると耐倒伏性、収量性にやや優り、千粒重が重く、だったんそばの特徴である苦みが強い。機能性を利用した差別化食品への開発利用が期待される。

4.栽培上の注意

  1. 普通そばとは交雑しないが、後作を普通そばとした場合、野良生えにより種子が混入するので、後作物の選定に留意する。
  2. 多肥もしくは密植により倒伏し、減収するので、適正施肥及び適正播種量に努める。
  3. 「キタワセソバ」より脱粒しやすいので、適期収穫に努める。

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道南地域における水稲湛水直播栽培指針

北海道立道南農業試験場 技術体系化チーム

1 背景と目的

 道南地域を対象とした水稲良食味中生品種の直播栽培において、緩効性肥料を利用した施肥法改善により、収量・品質の高位安定化を実証し、道南地域における水稲直播栽培指標と施肥指針を示すことを目的とした。

2 方法

  1. 試験圃場:農試圃場:2004?2006年 道南農試(褐色低地土)、現地圃場:2004?2006年:渡島中部、渡島南部、檜山南部
  2. 供試品種:きらら397、ほしのゆめ、ななつぼし
  3. 種子予借条件:催芽籾を使用。過酸化石灰被覆
  4. 播種量:2004年=乾籾換算7?10kg/10a、2005年=5?12kg/10a、2006年=6?12kg/10a
  5. 施肥法:全量全層施肥、全層+側条
  6. 施肥供試資材:塩化燐安一号(14-14-14、以降444)、被覆尿素入り粒状複合BB552LP(15-15-12、窒素成分中30%がLPコート40日:以降BB552LP)、20日型544(15-15-14、窒素成分中50%が25℃20日溶出型:以降BB544)
  7. 窒素施肥量:0、4?6、6?8、8?10、10?12kgN/10a、播種機:ヤンマーTRR10M

3 結果

  1. 直播に対する生産者の意識
    アンケート調査から生産者は直播栽培に高い関心があり、その必要性を感じている(78.8%)。しかし、直播栽培技術の信頼性には不安があり、経営には導入できないと判断しており、「必要性があるが当面実施していない」が約8割を占める。
  2. 直播栽培の収量の変動性
    1999~2006年の直播と移植の平均収量および変動係数(C.V.%)は「きらら397」449kg/10a(12.1)(直播)、514kg/10a(18.2)(移植)であった。「ほしのゆめ」365kg/10a(27.1)(直播)、436kg/10a(30.4)(移植)であった。
  3. 目標収量と栽培指標
    作況の平年収量500kg/10aを目標とした場合、道南地域における水稲直播栽培指標は㎡当たり籾数2万7千?3万粒、㎡当たり穂数700?800本である。また、施肥指針は全層施肥の場合、低地土8kgN/10a、泥炭土5.5㎏N/10a、全層と側条を組み合わせる場合、低地土7?8kgN/10a、泥炭土5㎏N/10aである。
  4. 合理的施肥方法
    側条施肥肥料BB544は444よりも施肥窒素の利用効率が高く、成熟期窒素吸収量が9kgN/10aを超える条件では登熟歩合が低下し品質が劣る場合があった。したがってBB544を使用する場合、過剰な窒素吸収を防ぐため全窒素施肥量の1割程度減肥する。
  5. 播種量
    播種量は10㎏/10aを基本とする。カルパーコーティング量100%の場合、8kg/10aまで削減可能である。苗立ち本数は水稲湛水直播栽培基準に準拠し200?300本を目標とする。
  6. 直播栽培の経済性
    実証された技術の10a当たりコスト(労賃除く)は、移植と直播との併用時(3ha)で64,000~68,000円であり、全面導入時(12ha)で76,000~80,000円/10aと試算された(表2)。いずれの実証技術も費用に大きな差はないと見られ、個々の生産環境に応じて収量確保に結びつく栽培法を選択するのが望ましい。損益分岐収量は、移植と直播との併用時(3ha)で350~380kg/10aであり、全面導入時(12ha)で420~450kg/10aであった。実証技術は、おおむねこの収量を上回っていたことから、移植に追加的に3ha程度の湛水直播を導入していくことで、移植よりも収益性を高めていくことも可能であると判断された。

4 道南地域における水稲直播栽培指標および施肥指針

 道南地域における水稲直播栽培指標および施肥指針を表1に示した。

 以上のことから、道南地域において中生品種の直播栽培指針が示され、道南地域で直播栽培を普及することにより、水稲良食味中生品種の直播栽培における収量・品質の高位安定化が図られるとともに、複合経営における稲作の省力化が図られ、余剰労力を利用して園芸作が充実強化されることは道南農業の振興に大きく寄与するものと考えられる。

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水稲「ふっくりんこ」の高品質・減農薬米生産技術

北海道立道南農業試験場 技術体系化チーム
北海道立中央農業試験場 生産研究部経営科
渡島農業改良普及センター

1 目的

 道南地方の良食味水稲品種「ふっくりんこ」の低タンパク米生産技術と減農薬栽培技術を確立し、YES!clean栽培の普及と地産地消を目指す産地形成を支援する。

2 方法

  1. 現地実態調査:土壌型(グライ低地土、灰色低地土、褐色低地土、泥炭土)、施肥量(標肥、減肥、多肥)、栽植密度(80、90株/坪)、耕起深度(浅耕、慣行)、土壌の可給態窒素。
  2. 場内解析試験:道南農試(褐色低地土)、供試品種: 「ふっくりんこ」、「きらら397」(比較)、窒素施肥量:6、8、10(㎏N/10a)、栽植密度:80、90株/坪、2反復。
  3. 減農薬試験:試験地は北斗市、種子伝染性病害防除:温湯種子消毒、微生物農薬。いもち病防除:発生モニタリング対応型防除。カメムシ防除:出穂期~揃期の水面施用剤1回散布。

3 結果の概要

  1. 「ふっくりんこ」のタンパク質含有率は年次と土壌の影響(初期生育の差)が大きく、泥炭土のタンパク質含有率は他の土壌に比べて有意に高かった。
  2. 場内試験の結果では「ふっくりんこ」のタンパク質含有率は「きらら397」に比べて、同一窒素吸収量でも有意に低く、窒素吸収量の増加に伴うタンパク質含有率の増加程度は僅かに小さかった。「ふっくりんこ」の窒素施肥量6kg区のタンパク質含有率は6.5%で、90株区では80株区に比べてやや増収した。
  3. 以上より、タンパク質含有率6.8%以下の高品質米生産のためには、泥炭土を避け、かつ可給態窒素が15mg/100g 以下の圃場を選定することが望ましい。
  4. 「ふっくりんこ」の生産目標は、収量500kg/10a、整粒歩合80%、タンパク質含有率6.5%、白度19.5である。これを達成する栽培指標は、穂数600本/㎡、一穂籾数50粒、籾数3万粒/㎡である。そのための栽培法は窒素施肥量6kg/10a、栽植密度90株/坪とする。
  5. 本試験で導入した減農薬防除体系において、育苗期間中に問題となる種子伝染性病害は、温湯種子消毒または微生物農薬区でも認められなかった。
  6. いもち病防除の農薬成分回数は発生モニタリング対応型防除により慣行防除の1/2以下に削減可能であった。斑点米に対する水面施用粒剤1回散布(出穂期~出穂揃期)の防除効果は、慣行3回散布と同等であった。これにより、YES!clean栽培認証基準(農薬成分回数11回)を達成できる。
  7. 温湯種子消毒器を保有し、水面施用粒剤のヘリ防除にかかる最大費用は慣行ヘリ防除よりも高いが、差額は600円/60kg未満であった。減農薬栽培のコスト削減には、生産部会での資材の共同購入と温湯消毒器の共同利用が効果的である。

4 成果の活用面・留意点

  1. 泥炭土を除き、施肥設計では北海道施肥ガイドを参照する。
  2. 多肥栽培では斑点米率が高まる場合がある。

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有機質肥料を用いた夏秋トマト栽培

北海道立道南農業試験場 研究部 栽培環境科

1 試験目的

 北海道内において、トマトは施設の有機野菜の中でもっとも多く栽培されている作物である。一般にトマト栽培では、定植後に何回もの追肥を必要とするため、有機栽培においても液肥を使用してトマトの養分吸収特性に合致した追肥を行うことが望ましい。そこで、基肥に魚かすなど肥効の速い有機質肥料、追肥に魚を原料とした有機質液肥などを使用して、肥料の全量を有機物施用した栽培方法の確立を目的とした。

2 試験方法

  1. 有機トマト栽培圃場の実態調査
    石狩・空知支庁管内でトマトの有機栽培を行う生産者3戸を対象にアンケート調査等を行った。
  2. 全量有機物施用試験(7段どり夏秋トマト)
    処理区:化成標準区、全量有機区
    施肥量:(基肥)窒素・リン酸・カリ=10:20:20kg/10a、(追肥)窒素・カリ=20:20kg/10a
    有機質資材:(基肥)たい肥4t/10a、魚かす・蒸製骨粉・草木灰、(追肥)魚由来の有機質液肥・天然硫酸カリ
    ※追肥の開始時期は、定植後14日目(通常よりも2週間程度早め)
  3. 土壌肥沃度に対応した全量有機物施用試験(5段どり夏秋トマト)
    試験処理:(土壌肥沃度3水準)×(化学肥料区、有機肥料区)の計6処理区
    施肥量:各圃場ごとに土壌診断を実施し、施肥対応した結果の施肥量は以下の通り。

3 試験の結果

  1. 有機トマト栽培圃場の実態調査
    有機栽培を行う生産者が使用する有機質資材は、生産者ごとに多様であった。養分投入量は、リン酸が多かった。また、土壌養分状態について、窒素およびリン酸の肥沃度が高い傾向にあった。
  2. 全量有機物施用試験
    全量有機区は化成標準区と比較して、窒素吸収量がやや低かったものの、良果収量は90~101%であった。また、果実の糖度および酸度についても全量有機区と化成標準区は、ほぼ同等であった。
  3. 土壌肥沃度に対応した全量有機物施用試験
    定植後2週間目の生育調査では、有機肥料区と化学肥料区は同等の生育を示した。良果収量については、有機肥料区は化学肥料区の88~112%であり、果実品質は同等であった。
  4. 全量有機物施用指針の策定
    以上の結果から、ハウス夏秋どりトマトの本圃においては、収量および品質の面から全量有機物施用による栽培が可能であり、さらに慣行栽培と同様の土壌診断技術も適応可能であった。
    これらに基づき、ハウス夏秋どりトマトの本圃における有機物施用指針を示した。
    ※ 使用する有機質肥料例
     窒素:(基肥)魚かす、なたね油かす、大豆油かすなど、(追肥)魚などを原料とした有機質液肥
     リン酸:(基肥)骨粉、大豆油かす、なたね油かすなど
     カリ:(基肥)草木灰、天然硫酸カリなど、(追肥)天然硫酸カリなど
    (注)骨粉は、製造基準の適合性を満たしたものが市販されている

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採苗ほと本ぽにおけるいちご疫病の防除対策

北海道立道南農業試験場 研究部病虫科・作物科

1 試験のねらい

 いちご疫病は、苗と土で伝染する病害で、本病に感染したいちごは、株が小さくなるあるいは枯れるなどして被害を生じます。本病の被害を回避するためには、無病苗を生産することと、土壌消毒等により土壌中の病原菌を殺すことが必要です。また、作物の品種には、病害に対して強い品種(抵抗性)と弱い品種があり、いちご疫病に対しても品種により抵抗性の強弱があると考えられる。
以上のことから、本病の防除対策としては、採苗ほ(苗取り栽培)では無病苗の生産方法、本ぽ(実取り栽培)では、土壌消毒法と抵抗性品種の利用について検討した。

2 試験の方法

  1. 発生実態調査
    平成11~18年の全道各地の農業改良普及センターから農業試験場に持ち込まれた診断サンプルを対象に疫病の発生実態を調査した。
  2. 採苗ほ:汚染法における「もみがら採苗法*」と「露地採苗法」の比較
    汚染ほ場で、「もみがら採苗法」と「露地採苗法」で子苗を生産した。いずれも子苗から疫病菌の分離を行い、感染苗率を調査した。
  3. 本ぽI:還元消毒**および各種薬剤の効果
  4. 本ぽII:主要品種の疫病抵抗性

用語解説

*もみがら採苗法:
ハウス内ビニールを敷き、その上にもみがらを敷き詰め、もみがら上にランナーを這わせる新しい採苗法。
**還元消毒:
土にフスマまたは米糠を混ぜ、潅水しビニールで被覆する消毒法。夏季にハウス内で行い、地温30℃・20日間を確保すると効果がある。

3 結果

  1. 発生実態
    道内の12支庁管内46市町村で発生が確認され、道内各地で疫病が発生している実態が明らかとなった。
  2. 採苗ほ:汚染ほ場における「もみがら採苗法」と「露地採苗法」の比較
    採苗した苗はいずれも無病であり、「もみがら採苗法」が無病苗生産に有効な技術であることが明らかとなった。
  3. 本ぽI:還元消毒および各種薬剤の効果
    還元消毒が最も防除効果が高かった。A粉粒剤、Bくん蒸、C油剤の土壌くん蒸処理(いずれも疫病に未登録:いちごに作物登録あり)の効果も高かった。メタラキシル粒剤(既登録)の効果は低かった(図3)。A粉粒剤、Bくん蒸、C油剤は、未登録(1~2年後に登録予定)であるため、現時点における実用的な土壌消毒法は還元消毒だけである。
  4. 本ぽII:主要品種の疫病抵抗性
    主要品種の疫病抵抗性を「極弱」~「強」の6段階で評価した。道内で栽培面積の多い品種では、「きたえくぼ」が弱、「けんたろう」「宝交早生」が中であった。

 以上の結果をまとめた。

1)採苗ほにおいては「もみがら採苗法」を行う。
2)本ぽにおいては、還元消毒と抵抗性品種の利用が可能である。

 還元消毒の必要性は、品種の抵抗性と土壌中の菌密度(汚染程度)によって変わるため、組み合わせはやや複雑になる。基本的に前作で疫病が発生し、次作も同じ品種を栽培する場合は還元消毒が必要である。次作で前作より抵抗性の強い品種を栽培する場合は、還元消毒が必要ない場合がある。
上記の1)、2)の実施により健全苗の生産と、安定した収量の確保が可能となる。

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森町濁川地区における
トマト窒素栄養診断技術の確立と普及

渡島農業改良普及センター

1 背景と目的

 森町濁川地区では昭和45年からトマトの作付けが始まり、長年の連作による土壌肥料成分の蓄積が進み、特にリン酸、苦土の過剰が著しい。しかし、現在はこれらの状況を考慮した施肥は行われていない。一方、現地ではこれらの成分を含んだ肥料が多用されていることから、塩類蓄積が助長されるとともに、肥料費が押し上げられている。そのため、施肥改善等の対策が必要となっている。
本課題では促成作型におけるトマト窒素栄養診断による施肥改善の取り組みを行い、一定の成果が見られたので、その概要について報告する。

2 方法

 品種は‘麗容’(サカタのタネ)を用いた。定植は2006年1月21日~1月23日、収穫は4月7日~6月26日であった。栽植密度は畦幅90cm×株間40cmの2,700株/10aとした。施肥は対照区では農家慣行とし、試験区では基肥が土壌診断結果に基づいた北海道施肥ガイドによる施肥対応を行った。また、追肥は窒素栄養診断結果に基づき施肥時期及び施肥量を決定した。試験規模は1区495㎡とし、反復なしとした。収量調査は10株で行い、果実重量と糖度の測定及び等級・規格の判定を行った。また、対照区・試験区とも果房6段目で摘心し、摘果を対照区は農家慣行、試験区は1果房当たり4果に調整した。

3 成果の概要

  1. 減肥と肥料費の削減
    作付前の土壌診断の結果、リン酸が非常に多く、硝酸態窒素も高めであった。そのため、試験区の基肥成分量は、対照比で窒素が54%、リン酸が0%、カリが91%となった。一方、追肥は対照区では3月3日、3月30日の2回であったのに対し、試験区は栄養診断結果に基づいた結果6回となり、成分量は対照比で窒素が250%、リン酸が0%、カリが154%となった。しかし、肥料費は窒素とカリ中心のため試験区が対照区より安くなり、基肥が対照比28%、追肥が49%となった。
  2. 収量調査結果
    総収量は対照比で94%であるのに対し、規格内収量は120%となった。これは、等級割合が試験区は対照区に対し、秀・優品率で明らかに上回り、外品率が低くなったことによった。また、試験区では1果重が13%、糖度が4%向上した。
  3. 経済効果
    以上のように、収量や品質が改善された結果、販売額は対照比で122%、10a当たりで549,000円増加した。また、肥料費の減少と販売額が増加したことから、増収益は10a当たりで562,000円となった。

4 考察

 本試験では土壌診断結果に基づいた施肥対応と栄養診断に基づく追肥により、施肥銘柄および施肥量を見直し、大幅な減肥と肥料費の削減を可能とした。このことによる収量・品質への影響はなく、適正な施肥が行われたと考えられる。また、過剰な施肥による環境負荷も軽減できることから、クリーン農業に適した技術と言える。収量・品質が対照区を大きく上回った結果、増収益も50万円/10a以上が見込まれる。これを濁川地区における経済効果に換算すると、トマト生産者53戸、栽培面積30haでは単年で1億6千万円と試算され、経済効果は非常に高い。
この結果を受けて、今後は農協・役場・トマト生産振興協議会と連携し、施肥対応および窒素栄養診断法の導入と施肥銘柄の検討を行い、濁川地区での普及を図っていく必要がある。

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檜山北部地区における
ダイズシストセンチュウ被害対策

檜山農業改良普及センター檜山北部支所
道南農業共済組合北部支所

1 課題設定の背景

 当地区において基幹作物の1つである豆類(大豆・小豆)は、畑地面積(牧草地を除く)の49.9%を占め、過作傾向にある。そのため、近年、ダイズシストセンチュウの発生・被害の拡大により収量および品質が低下してきている(写真1、2)。
この被害を軽減し豆類の生産性向上を図るため、ダイズシストセンチュウの被害実態の把握および対策を検討した。

2 活動の経過

  1. GISを利用した被害実態調査
    今年度豆類を作付した14戸50ほ場について、シスト数および卵密度調査を行った。また、被害マップを作成するため、GIS(地理情報システム)を利用した。
  2. シードテープによるレース判定
    4ほ場において、レース判定用シードテープ(写真3)をは種し、ダイズシストセンチュウの被害症状が顕著に現れる8月中下旬に根部へのシスト寄生程度を観察、優占レースを判定した。
  3. 薬剤施用による防除効果の確認
    小豆作付1ほ場において、「バイデートL粒剤」の防除効果を確認した。
  4. クローバ類作付の推進
    線虫捕獲作物であるアカクローバ(秋まき小麦間作)やクリムソンクローバ(休閑)の栽培について、FAX情報などで生産者へ情報提供を行った。
  5. 生産者への啓蒙
    個別巡回や講習会、営農懇談会において、ダイズシストセンチュウの生態や防除方法、地区内における被害の現状などを説明した。また、作成した被害マップを個別に配布した。

3 成果の具体的内容と結果

  1. GISを利用した被害実態調査
    シスト数および卵密度調査結果より、要防除水準(乾土100gあたりシスト数3以上)に達しているほ場が54%を占めていた。また、被害マップにより面で把握することができた。
  2. シードテープによるレース判定
    道内で確認されているレース1とレース3のうち、レース3のみが確認された。レース3は、「トヨムスメ」など抵抗性品種の利用により対応が可能である。
    しかし、当地区では鶴の子銘柄を主力品種としており、実際に他品種を作付けするには地域農家の理解やJAの販売体制など課題が多い。
  3. 薬剤施用による防除効果の確認
    「バイデートL粒剤」30㎏/10aは種前全面土壌混和処理は、無処理の場合と比較しシスト数が大幅に低下した。また、生育および収量が向上し、薬剤処理の効果が認められた。
    しかし、薬剤にかかる経費と製品販売価格の収支を考えると、ほ場内で被害が発生している部分にのみ薬剤処理を行うなど工夫が必要である。
  4. クローバ類作付の推進
    今年度は、一定面積での作付けが見られた。今後、クローバ類作付けによる抑制効果を明らかにし、定着・拡大を図る必要がある。
  5. 生産者への啓蒙
    これまで漠然と把握していた被害状況を地図で捉えることで、生産者のダイズシストセンチュウに対する意識が変わり、危機感が高まった。また、個別および地域全体での取り組みが必要との姿勢が見えた。

4 今後の対応

 ダイズシストセンチュウの被害軽減対策には、適正な輪作・抵抗性品種の利用・薬剤処理・クローバ類の作付などがある。今後、ほ場管理方法によるシスト数および卵密度の変化を明らかにし、ほ場の被害程度に合わせた対策を確立する。

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平成18年度の発生にかんがみ注意すべき病害虫

北海道病害虫防除所
中央農業試験場生産環境部予察科
各場クリーン農業科および病虫科


1.背景試験目的

 平成18年度に実施した調査および試験研究結果から、特に留意を要する病害虫について注意を喚起する。

2.平成18年度にやや多~多発した病害虫

  1. 水稲:ニカメイガ
  2. 小麦:ムギキモグリバエ、赤かび病(春まき小麦の初冬まき栽培)
  3. 大豆:食葉性鱗翅目幼虫、マメシンクイガ
  4. 菜豆:タネバエ
  5. ばれいしょ:疫病
  6. てんさい:褐斑病
  7. たまねぎ:乾腐病
  8. ねぎ:ネギアザミウマ
  9. キャベツ:コナガ、ヨトウガ
  10. りんご:モモシンクイガ、キンモンホソガ、ハマキムシ類

3.平成19年度に特に注意を要する病害虫

  1. 大豆・小豆のダイズシストセンチュウ
    道内に発生しているシストセンチュウには寄生性の異なるレース1、3、5がある。近年、レース3抵抗性品種で被害が認められることから、発生状況を調査した。その結果、レース3抵抗性品種(トヨムスメ等)に寄生するレース1の発生が後志・胆振・空知で新たに確認され、一部地域ではこの割合が高かった。同一ほ場内や隣接ほ場間で抵抗性品種に対する寄生性が異なったり、大豆作付け履歴のない小豆ほ場でも両レースの発生が認められた。
  2. ばれいしょのジャガイモシストセンチュウ
    種ばれいしょ生産地域を含む5市町村で発生が新たに確認された。シストセンチュウの発生拡大の際、発見に先立って地域内に発生が広がっている事例が少なくない。発生拡大には発生地域からの土の移動が関係すると考えられるので、未発生地域・ほ場ではこの点に注意する。発生を早期に発見できれば拡散の防止が図られるとともに、抵抗性品種の栽培と4年以上の輪作を組合せることにより線虫密度を減らすことができる。一方発見が遅れた場合は、感受性品種の栽培で線虫密度を急速に高めてしまうので、発生拡大防止のためにも検診の徹底が必要。
  3. アシグロハモグリバエの発生地域拡大
    多くの作物に加害する広食性の侵入害虫で、効果的な農薬が限られるため防除が難しい。本種は平成13年に胆振で発生が確認されてから、野菜・花き類を中心に被害が広がっている。これまで発生のなかった種類のハモグリバエに対する認識不足で、ほうれんそう、レタス、ばれいしょ、きゅうり、トマト、アスター、トルコギキョウ等で激しい被害を被っている。未発生地域でも施設内では加温開始か3月以降、露地では6~7月以降に作物の葉面に生じる食痕・潜葉痕に注意を払う。また、冬期間も被覆しているハウス内のハコベなどに食痕が認められる場合には注意が必要。

4.新たに発生を認めた病害虫

  1. 大豆・小豆・みずなのアシグロハモグリバエ(新寄主)
  2. ばれいしょの塊茎褐色輪紋病(新発生)
  3. たまねぎの立枯病(仮称・新病害)
  4. トマトの株腐病(新称)
  5. いちごの葉縁退緑病(新発生)
  6. いちごの疫病(病原の追加)
  7. みつばのヒメフタテンヨコバイ(新寄主)
  8. 食用ゆりのキンケクチブトゾウムシ(新寄主)
  9. ぎょうじゃにんにくのクローバービラハダニ(新寄主)
  10. りんごのイタヤキリガおよびクロスジキノカワガ(新寄主)
  11. ブル-ベリ-のマイマイガおよびカシワマイマイ(新寄主)
  12. おうとう・アロニアのサクラヒラタハバチ(新寄主)
  13. アロニアの害虫
    1. ツツムネチョッキリ(新寄主)
    2. ウチイケオウトウハバチ(新寄主)
    3. モンクロシャチホコ(新寄主)
    4. モモシンクイガおよびリンゴヒメシンクイ(新寄主)
    5. ケブカスズメバチ(新寄主)

 なお、新たに発生を認めた病害虫についての詳しい情報は「北の農業情報広場」→「新発生病害虫」をご覧下さい。

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