農業研究本部へ

道南農業試験場

第3回道南農業新技術発表会

主催:道南農業試験場


 第3回道南農業新技術発表会は1月31日道南圏の生産者約100名、JA・諸団体約30名、一般町民7名、市町村・支庁・国関係者約30名、農学校・町技術センター・普及センター・研究機関約40名のご参加をいただき、無事、終了いたしました。ご好評をいただき、誠にありがとうございました。


場長挨拶:

 この発表会は道南農試が開発した新技術などを地域にいち早く紹介することを目的にしております。輸入農産物との国際競争時代に突入し、農産物価格の下落、少子高齢化、耕作放棄地の増加、北海道経済の低迷など、厳しい農業環境の中、農業関係者には英知を絞っていただき、地域産業、地域振興の機関車役として、新技術、新情報を有効に活用していただくことをお願いいたします。


発表会の内容


講演要旨

ハウストマトの葉柄硝酸濃度による栄養診断法

園芸環境科 研究職員 坂口雅巳

 施設栽培における窒素施肥は過剰傾向であり、ビニールを周年被覆しているハウスでは土壌の塩類集積が進み、硝酸態窒素が系外へ流出する恐れがあるほか、生理障害や収量の低下なども見られる。施設野菜を持続的に生産させるためには、作物の栄養生理に見合った肥培管理法を確立し、土壌の塩類集積を防ぐことが必要である。そこでハウス夏秋どりトマトについて窒素栄養診断法を開発する。

 トマトの窒素栄養診断における採取部位は第1果房直下葉の先端小葉葉柄が最適である。
収量、施肥効率および跡地の残存窒素を考慮した栄養診断基準値を葉柄硝酸濃度4000~7000ppmとし、窒素栄養診断に基づく施肥対応を設定した。

四季成りいちご優良品種候補の特性と夏秋どり栽培における高温障害対策

園芸環境科 研究職員 福川英司

 いちご「エッチエス-138」は北海三共社の育成品種である。四季成り性を有し、多収性で、果実は外観、日持ち性、輸送性などの業務用適性に優れている。夏秋期の出荷により価格は春どり栽培の約2倍の高値で取り扱われた。また、夏季の栽培では奇形果や株疲れ症状が発生するので、その対策について説明する。

a. 「エッチエス-138」
多収で、かつ外観良、果実硬度高、日持ち性良であるため、業務用適性に優れる特徴を有する。市場における果実品質の評価が高く、また端境期である夏秋期の出荷であることから春どり栽培における単価の約2倍の高値で取り扱われた。以上のことから、「エッチエス-138」を北海道の奨励品種として普及することにより、農家の収益性向上に寄与できるものと考えられる。

b. 高温処理と稔性・果実形成
35℃以上の高温によって果実の「先詰まり」等の奇形果が発生するが、花粉の発芽率の低下だけでなく、雌ずいの受粉能の低下も一因になっていることが示唆された。

c.  マルチの種類と生育・収量
紙マルチ区とサニーマルチ区では地温の上昇が抑えられ、いずれの品種でも地上部の生育(草丈、葉数、果房数)が優れ、また多収となった。

にんじんの乾腐病の発生生態

病虫科 研究職員 新村昭憲

 近年、道南地方のにんじんに、黒いしみを作る「黒しみ症」・「割れ」が増加し、生産上の問題となっている。1998年に本症状の解明に取り組み、Fusarium solani f.sp. radicicolaおよびFusarium avenaceumによる乾腐病であることが、明らかにされた。Fusarium solani f.sp. radicicolaによる乾腐病は1986年に長野県で発生したのが最初である。
本研究では、防除対策を立てる上で不可欠な発生生態の解明に取り組み、被害低減に有効と考えられるいくつかの知見を得られたので報告する。

 にんじんの乾腐病は道南地方の75%の畑に発生し、発病株率は33%に達し、原因菌のほとんどがF.solaniである。この乾腐病は、にんじん播種後60日以降で、収穫20日以前に大雨や排水不良などで土壌水分が高く維持され、25℃以上になると発病する。

あずき(大納言)新品種候補の特性

主任研究員 品田裕二

 「十育143号」(十勝農試育成)は、百粒重が「アカネダイナゴン」より約30%重い極大粒であり、種皮色が明るく外観品質が優れる大納言小豆である。
さらに雨害による濃赤粒の発生が「ほくと大納言」より少なく、落葉病および萎凋病に抵抗性であり、良質安定生産が期待され、道南地域においても普及が見込まれる。

水稲新品種候補の特性

作物科長 田中一生

 「空育163号」(中央農試育成)は、食味が「きらら397」に優り、「ほしのゆめ」並からわずかに優る中生良食味粳系統である。
また収量性は「きらら397」並からやや優り、「ほしのゆめ」に優る。さらに耐冷性が「きらら397」に優り、「ほしのゆめ」と同じ”強”であり、良食味安定生産が期待され、道南地域においても普及が見込まれる。

<トピックス>道南における水稲(ほしのゆめ)直播の可能性について

主任専門技術員  清野 剛

 稲作農家の担い手不足、農地流動化による経営規模の拡大、低米価に対応する一層の複合化の進行などから省力稲作、低コスト稲作が求められ、道南地域においても、平成10年から檜山南部地区、12年から渡島南部地区と渡島中部地区の普及センターで農業者と関係機関が一体となり直播栽培に取り組んでいる。恵まれた秋の天候を活かし、移植栽培とのロット集約を念頭に中生品種「ほしのゆめ」を用いているのが特徴である。ここで、道南における「ほしのゆめ」の直播栽培の可能性について検討してみる。
なお、道南における湛水直播栽培は全て落水出芽法(平成11年指導参考事項)による。

まとめ
(1)現状では、収量性や安定性は移植栽培に劣る。施肥などの改善により、適正な籾数を確保し、倒伏をなくすことができれば、移植に近い収量が期待できる。
(2)検査等級と食味は移植を越え、流通上の問題はない。
(3)10a当たりの労働時間は、移植に比べ10時間少なくてすむ。
(4)水稲の土地生産力は少し低下するが、直播導入により生ずる労力を複合部門に振る向けることにより経営全体の収益増にできれば、道南地域への直播導入は意義がある。
(5)「ほしのゆめ」の直播栽培は可能性が高い。今後も実証展示圃などで確認が必要である。


新技術発表会INDEXへ