農業研究本部へ

道南農業試験場

第11回道南農業新技術発表会

主催:北海道立道南農業試験場
場所:北斗市農業振興センター
平成21年2月26日(木) 13:00~16:00


 第11回道南農業新技術発表会は、2月26日、生産者等、JA・諸団体、市町村・支庁・国関係者、農学校・町技術センター・普及センター・研究機関など117名のご参加をいただき、盛会のうちに終了いたしました。誠にありがとうございました。
 それぞれの講演の要旨はhtmlファイルで掲載しています。

場長

新技術発表会INDEXへ

道南農試トップへ


発表課題

  • 次代の主力もち品種「上育糯450号」  要旨
  • ブレンド適性に優れる超強力小麦「北海261号」  要旨
  • 本州産に負けない高品質りんご「昂林」「紅将軍」  要旨
  • 高うね栽培によるニンジン乾腐病の被害軽減  要旨
  • 大豆「タマフクラ」の出芽不良原因と当面の対応  要旨
  • 石灰系水産副産物由来肥料の特性と施用法  要旨
  • ネギ葉枯病の発生生態と総合防除対策  要旨
  • 性フェロモントラップを用いた斑点米の要防除水準  要旨
  • みずな直播・小株栽培の栽培体系  要旨
  • 大豆「タマフクラ」のえだまめ用途の可能性  要旨
  • 今金町における秋まき小麦の収量向上技術  要旨
  • 平成20年度の発生にかんがみ注意すべき病害虫  要旨

講演要旨


次代の主力もち米品種「上育糯450号」

北海道立上川農業試験場 研究部 水稲科

1.はじめに

 北海道産の主要もち品種である「はくちょうもち」と「風の子もち」は、加工直後の柔らかさが長時間維持される特徴が好まれ、おこわや和菓子用途等で高い需要があり、特に「はくちょうもち」は、北海道ブランドもち米としての地位を確立している。
 現在、北海道におけるもち米生産地帯は気象条件の厳しい道東、道北の早生地帯に集中しており、冷害に遭遇しやすい。実際、平成15年および20年には著しい冷害に見舞われ、耐冷性が向上した品種が必要である。また、「はくちょうもち」の収量性が劣るため、気象条件が厳しい早生地域においても中生の「風の子もち」の作付けが増えており、冷害のリスクを高めている。以上から柔らかさを保ちつつ、収量性、耐冷性に優れる早生のもち品種が望まれている。

2.育成経過

 上育糯450号」は、平成10年に北海道立上川農業試験場において、良質で耐冷性に優れるもち品種の育成を目標に、「北海糯286号」(良質、良食味)と「上育糯425号」(多収、耐冷性)のFを母、中生、良質の「風の子もち」を父として人工交配を行った雑種後代から育成された。

3.特性の概要

(1)形態的特性:稈長は「はくちょうもち」よりやや長く、「風の子もち」よりわずかに短い。穂長は「はくちょうもち」より長く「風の子もち」よりやや長い。穂数は「風の子もち」並であり、草型は“偏穂数型”に属する(表1)。また、一穂籾数は「はくちょうもち」より多く、「風の子もち」よりやや少ない。

(2)生態的特性:出穂期は「はくちょうもち」よりやや早く「風の子もち」より早い“早生の晩”である(表1)。穂ばらみ期耐冷性は「はくちょうもち」「風の子もち」に優る“極強”で、開花期耐冷性は「はくちょうもち」「風の子もち」よりやや優る。いもち病圃場抵抗性は、“やや弱”である。

(3)品質および食味特性:玄米千粒重は「はくちょうもち」より重く「風の子もち」並、割籾の発生は両品種より少ない。白米白度が「はくちょうもち」「風の子もち」より高い。食味官能試験結果は、おこわ、つきもちともに「はくちょうもち」、「風の子もち」に比べて並からやや優る。もち硬化性の判定は「はくちょうもち」並である。

(4)新規導入地区(檜山北部)では、導入初年目の2007年は苗立ち本数不足、2008年は千粒重の低下により、収量が約350kg/10aと低収であった。種子の準備から播種までの作業精度が向上した2009年は、苗立ち本数が148本/m2、収量が443kg/10aに増加した。タンパク質含有率は3カ年通して、のべ9圃場中8圃場で6.8%以下であった。また、直播栽培では雑草の防除が問題になるが、雑草発生予測技術(平成11年指導参考事項)に基づき除草剤を選択した結果、雑草害は発生しなかった。

4.普及態度

 「上育糯450号」は「はくちょうもち」と比べ、障害型耐冷性が優れ、熟期は同程度で、多収である(図5)。また、もち硬化性は「はくちょうもち」並に優れ、玄米白度や食味が「はくちょうもち」、「風の子もち」より優れる。一方、「はくちょうもち」は実需者の強い支持がある。従って、当面は生産不安定なもち米産地における「はくちょうもち」の一部,および「風の子もち」に置き換えることにより、北海道産もち米の安定生産および品質向上が期待できる。

(1)普及見込み地帯:網走、上川、留萌、空知、後志、渡島、十勝各支庁管内およびこれに準ずる地帯

(2)普及見込み面積:3,000ha

(3)栽培上の注意事項
 いもち病耐病性が不十分であるため、発生予察に留意し、適切な防除に努める。

第11回新技術発表会トップへ


ブレンド適性に優れる超強力小麦「北海261号」

北海道農業研究センター パン用小麦研究チーム

1.はじめに

 国内の小麦需要量は623万トンで、自給率は約13%である。そのうち、日本めん用の需要量は61万トンで、自給率は60%と比較的高い。しかし、パン用の需要量155万トン、中華めん用の需要量122万トンに対する自給率は1~3%と僅かである。北海道ではパン用として春まき小麦「春よ恋」や秋まき小麦「キタノカオリ」が栽培されている。しかし「春よ恋」は品質は優れるが秋まき小麦と比べ、低収である。「キタノカオリ」は「春よ恋」よりも多収だが、コムギ縞萎縮病に感受性で、成熟期に低アミロとなりやすい欠点があり、栽培面積は1,600ha(平成20年)に留まっている。
 以上から、縞萎縮病抵抗性を有し、低アミロ耐性を持ち、パン用および中華麺用に優れる小麦品種の育成が強く望まれている。

2.育成経過

 「北海261号」は、平成8年に北海道農業試験場(現北海道農業研究センター)において、秋まき硬質のパン用品種育成を目標として、「札系159号」とカンザス州立大学育成系統「KS831957」のFを母、「月系9509」(後のキタノカオリ)を父として人工交配を行い、育成された。

3.特性の概要

長所: 超強力小麦で、ブレンド適性が優れる。
短所:耐雪性が中である。

4.優良品種に採用しようとする理由

国内の小麦の総需要量は623万t(自給率13%)で、うちパン用が155万t、中華めん用が122万tであるが、自給率は各々3%、1%と少ない。北海道ではパン用として春まき小麦が栽培されているが、秋まき小麦より低収であり、収益性が低い。
 「北海261号」は縞萎縮病抵抗性に優れ、蛋白質含量が高く、超強力特性のためブレンド適性に優れる。また、登熟期の低温による低アミロ化の発生は「キタノカオリ」よりも少ない。本系統を病害、障害が発生しやすい地域の「タクネコムギ」および「キタノカオリ」の一部に置き換えることで、生産者の収益性向上と北海道産硬質小麦の安定化が期待される。

5.栽培上の注意

(1)不良土壌環境では、早期に枯れ上がり収量が低下することがある。

(2)気象および土壌条件により、葉身に斑点状またはかすり状に黄化する現象がみられる。これらは条斑病、赤さび病による症状と判別が可能であるが、原採種圃場の選定ならびに病害株の抜き取り作業での本現象と病害との区別に留意する。

(3)耐雪性が中であるので、雪腐病防除を励行する。

(4)超強力小麦としての特性を発揮させるため蛋白質含量が低くならないように止葉期以降の窒素追肥を行う等の肥培管理に努める。

第11回新技術発表会トップへ


本州産に負けない高品質りんご
「昂林(こうりん)」「紅将軍(べにしょうぐん)」

北海道立中央農業試験場 作物研究部 果樹科

1.はじめに

 本道では、9月下~10月上旬に収穫される「つがる」と10月下~11月上旬に収穫される「ハックナイン」の間をつなぐ品種の作付けが少なく、産地からはこの時期の主力となる品種が強く望まれている。
 近年、「ふじ」の早熟性枝変わり注1)で、食味などの特性は「ふじ」に似た“早生ふじ”と呼ばれる品種群が注目され、道内産地においてもこれらの導入、試作が行われている。“早生ふじ”は「ふじ」の良品生産が困難な本道においても良品生産が可能で、成熟期が低温となるため府県より高品質果実の生産ができ、府県産の「ふじ」に先駆けて販売できるなど、導入による販売上のメリットは大きい。
 「昂林」と「紅将軍」は“早生ふじ”の一品種で食味・外観に優れ、10月中旬に収穫でき、「つがる」と「ハックナイン」をつなぐ道産りんごの柱として有望である。

注1)枝変り:植物体の一部の枝のみが他と異なる特性を示す現象。芽の突然変異によって起こる。

2.育成経過

 「昂林」:民間育成品種。遺伝子診断の結果、「ふじ」の枝変りまたはアポミクシス注2)の可能性が高いことが報告されている。
 「紅将軍」:民間育成品種。「ふじ」の枝変りである「やたか」の枝変り。

注2)アポミクシス:植物が受精によらず種子を作る生殖様式のこと

3.特性の概要

(1)形態的特性:
 両品種の樹勢は「ハックナイン」より弱く、「つがる」と同じ“中”だが「つがる」より強い。幹周は「つがる」より大きく、「ハックナイン」より小さい。頂芽数は「昂林」では「ハックナイン」並からやや劣り、「紅将軍」では「ハックナイン」並み。頂芽の花芽率は年により振れ、「紅将軍」で着果過多となった翌年に花芽率が低下した事例が見られたが、両品種とも適正管理条件下では収量への影響は見られない。

(2)生態的特性:
 両品種とも発芽期から満開期までは「つがる」や「ハックナイン」並みであるが、収穫期は10月中旬である。収量は「つがる」より多く、「ハックナイン」より少ない。後期落果は“無~僅か”であった。年により裂果が発生するが、発生部位の多くはこうあ部(ツルの付け根)であった。一般防除下で問題となる病害虫の発生はなく、凍害の発生も無~僅かで耐寒性は強い。交雑和合性は「ふじ」と「ハックナイン」とは交雑不和合性であったが、「つがる」とは交雑和合性であった。

(3)果実特性:
 「昂林」の果実重は「つがる」並み、「紅将軍」は「つがる」よりやや大きく「ハックナイン」より小さい。両品種とも着色は良好で果実のほぼ全面に濃赤色に着色する。「昂林」は「ふじ」に似て果皮に縞が入り、「紅将軍」は縞が入らない。両品種ともさびの発生は僅かで外観が優れる。両品種の糖度は14%程で「つがる」、「ハックナイン」並みである。酸度は0.45g/100ml程度で「つがる」より高く、「ハックナイン」より低い。甘酸のバランスが良く食味良好である。蜜が入る。両品種とも冷蔵貯蔵にともない果肉硬度の低下、蜜の消失や貯蔵ヤケの発生がみられたため、冷蔵での貯蔵性は1~2ヶ月程度と考えられた。

(4)新規導入地区(檜山北部)では、導入初年目の2007年は苗立ち本数不足、2008年は千粒重の低下により、収量が約350kg/10aと低収であった。種子の準備から播種までの作業精度が向上した2009年は、苗立ち本数が148本/m2、収量が443kg/10aに増加した。タンパク質含有率は3カ年通して、のべ9圃場中8圃場で6.8%以下であった。また、直播栽培では雑草の防除が問題になるが、雑草発生予測技術(平成11年指導参考事項)に基づき除草剤を選択した結果、雑草害は発生しなかった。

4.普及態度

(1)普及見込み地帯
 全道のりんご栽培地域

(2)普及見込み面積
 「昂林」:40ha、「紅将軍」:40ha

(3)栽培上の注意事項
 強樹勢や着果不足では裂果の発生を助長することがあるので、適正樹勢の維持並びに適正着果に努める。なお、「昴林」では排水不良によっても裂果が発生が助長されるので土壌排水性の改善に努める。


高うね栽培によるニンジン乾腐病の被害軽減

北海道立道南農業試験場 技術体系化チーム
渡島農業改良普及センター 本所

1.試験のねらい

 2001年に道南農試では、ニンジン乾腐病は播種後60日~収穫20日前までのまとまった雨により圃場でぬかる状態が続くと、多発することを明らかにし、圃場の排水性改善による発病軽減の可能性を示した。しかし、その後も渡島中部地域ではニンジン乾腐病が大きな問題となっており、早急に軽減効果の実証を図る必要があった。そのため、2006年4月から関係機関で連携を図り、共通認識の上で課題解決に向けて、高うね栽培による排水改善効果とそれに伴うニンジン乾腐病の被害軽減効果について現地実証を行った。

2.試験の方法

(1)試験場所
 試験場内及び七飯町と函館市の現地圃場

(2)試験処理
 ベッドの高さが25㎝の高うね処理

(3)排水改善と被害改善効果の実証
 トンネルマルチ作型(七飯町)と露地作型(試験場内、函館市)で、慣行栽培に対する高うね栽培における土壌水分と発病被害状況を調査

3.試験結果

(1)高うねによる排水改善
 高うね栽培により、深さ0~20cmの土壌水分が低く推移することが確認できた。

(2)高うねによる乾腐病の被害軽減
 3カ年の合計14試験例のうち、慣行の発病度が10以上は6例あり、いずれも高うね処理によるニンジン乾腐病軽減効果が認められた。

 ニンジン乾腐病軽減効果が認められた圃場の規格内率は、高うね区が慣行区より4~22%高くなった。

(3)高うね処理区の病原菌
 収穫時における高うね処理区の深さ0~20㎝の病原菌密度は慣行区と差が認められなかった。このことから、高うね栽培による乾腐病の発生軽減は菌密度の低下によるものではないと考えられた。

(4)経済試算(10a当たり)
 高うね栽培導入による経済試算を行ったところ、高うね栽培で規格内率が4%向上した場合、地域の平均面積(1.5ha)による減価償却費を考慮しても、慣行より10a当たり6500円~8500円程度の向上効果がみられると考えられた。そのため、乾腐病によるロスが4~5%を超えるような経営では高うね導入の効果が高いと思われた。

4.成果の活用面と留意点

(1)ニンジン乾腐病軽減のための高うね栽培導入の際の資料とする。

(2)トンネルマルチ栽培で高うねを導入する場合、発芽時の土壌乾燥が懸念されるので、適切な水分条件の時に高うねを形成するとともに、発芽前後にトンネル内で高温、乾燥が予想される時は適切なトンネル管理を行う。以上より、 新規導入地域での栽培の可能性を提示するとともに、道南の広い範囲で「ななつぼし」湛水直播栽培による低タンパク米生産が可能であることを実証した。

第11回新技術発表会トップへ


大豆「タマフクラ」の出芽不良原因と当面の対応

北海道立道南農業試験場 技術体系化チーム
北海道立中央農業試験場 作物研究部 畑作科
シンジェンタ ジャパン株式会社

1.試験の背景と目的

 高品質で極大粒の大豆「タマフクラ」は一般栽培1年目である平成20年に15.7ha作付され、厚沢部町・今金町の一部、渡島中部地域、八雲町など、広範囲で出芽不良が発生した。出芽不良の原因を解明し、今後の播種時における当面の対応を提案する。

2.試験の方法

(1)現地実態調査:聞き取り(耕種概要、種子由来、前作、土壌の種類、使用農薬、出芽率等)、統計解析

(2)出芽不良要因解析:
 室内試験(道南・シンジェンタ);発芽特性、温度、土壌含水比、種子処理剤の影響等
 ほ場試験(中央・シンジェンタ);土壌の種類、播種深度、種子処理剤の影響
 調査項目;発芽・出芽率、発芽所要日数、吸水量、種皮の硬さ、子葉腐敗程度、種皮残存程度等

3.結果の概要

(1)出芽不良の発生実態

 1)共通した出芽不良症状は、出芽の遅延と種子の黒変・腐敗、根・胚軸の屈曲、チアメトキサム剤の固着、子葉中央部の黒変・腐敗、子葉・初生葉の脱落に概括された。

 2)「タマフクラ」の出芽不良は、厚沢部町・今金町(畑地)の一部、渡島中部地域(枝豆用トンネルマルチ栽培)、八雲町(水田転換畑)など、広範囲に発生した。

(2)出芽不良要因解析

 1)「タマフクラ」の発芽・出芽特性;発芽始めは遅く緩慢で、発芽揃いに時間を要する。種皮は「ユウヅル」より硬く、幼根が屈曲して発芽する個体が多い傾向にあった。

 2)土壌の種類の影響;クラストが形成した粘性の高い土壌(原土区)では、未熟火山性土(客土区)に比べ出芽が遅れ、出芽率が劣った。

 3)土壌水分の影響;高水分条件において、チアメトキサム水和剤処理により出芽率は著しく低下し、子葉腐敗程度が高まった。また、試験的に使用量を半減しても改善効果は認められなかった。低水分条件では出芽率および子葉腐敗程度への影響は軽微であった。

 4)高水分条件では、本剤を単独処理した種子の出芽個体には、子葉の脱落や胚軸の折れ、幼根先端の折れや種皮への潜り込みなど、様々な出芽不良症状が認められた。

 5)播種深度;出芽率は覆土深2cmおよび4cmで高かったが、覆土深6㎝で大きく低下した。

 6)チアメトキサム水和剤とチウラム水和剤の多重処理では、処理順にかかわらず、出芽率は無処理およびチアメトキサム水和剤単独処理より顕著に高まった。しかし、ECP・カスガマイシン・チウラム粉剤との多重処理では、出芽率が低い事例も認められた。

 7)以上の種子処理剤の影響は、対照とした「ユウヅル」及び「ツルムスメ」では認められない場合が多かった。「ユウヅル」、「ツルムスメ」で各1例のみチアメトキサム剤単独処理により出芽率の低下事例が認められたが、その程度は「タマフクラ」よりも軽微であった。

4.今後の対応

(1)「タマフクラ」は、環境条件によっては出芽不良が起こりやすいため、以下の点に留意する。
 1)クラストのできやすい粘性の高いほ場、および排水不良ほ場での栽培は避ける。
 2)播種直後に多量の降雨が予測される場合や、土壌水分が高い状態での播種は避ける。
 3)播種深度は、4㎝より深くしない。

(2)「タマフクラ」では、チアメトキサム水和剤を単独処理すると出芽不良がより顕著となるため本剤の単独処理は避ける。

第11回新技術発表会トップへ


石灰系水産副産物由来肥料の特性および施用法

北海道立道南農業試験場 研究部 栽培環境科

1.背景と目的

 地域で発生する有機性資源の有効利用を目的に、各地で肥料・堆肥化施設が建設されている。特に、噴火湾沿岸ではホタテの養殖などの沿岸漁業が盛んなため、それに伴い漁業者や水産加工業者からの水産系廃棄物が大量に発生し、肥料や堆肥の原料となっている。これらの原料には、魚類残さの他にホタテ貝殻やホタテに付着するムラサキイガイなどが含まれるため、施設で製造されたものには、カルシウム(石灰)を多く含む場合が多い。また、そこで製造された肥料や堆肥がその地域の農地にわずかにしか還元されておらず、地域資源の有効活用がなされていない場合が多い。その主な理由として、使用方法や施用効果が明らかになっていないことがあげられる。
 ここでは、森町で製造されるホタテ付着物や魚類残さ主体の普通肥料「ミネラル森盛」(以下、資材M)、およびホタテ貝殻主体の特殊肥料「カルシウム森盛」(以下、資材C)を例に、両資材の特性や施用法を明らかにした。

2.資材MおよびCの成分含量

 資材MおよびCはカルシウムが主成分(肥料登録時には、それぞれ25および37%現物あたり)であり、それぞれ炭酸カルシウム資材の5および7割程度カルシウムが含まれていた。また、資材Mの炭素、窒素、C/N比、リン酸、カリウム含量は一般的な堆肥と ほぼ同等であった。したがって、両資材とも石灰質資材として、さらに資材Mは肥料的な効果を検討する必要がある。

3.資材MおよびCの酸性矯正能

 資材MおよびCによる土壌の中和石灰量を実験室的な方法で判断すると、両資材の酸性矯正能は資材M>Cであったが、いずれも炭カルより低かった。また、圃場に両資材を炭カルとアルカリ分換算で同量施用すると、土壌pHの上昇は緩慢で低く推移した。また、両資材施用後の土壌の交換性カルシウム含量は増加したが、炭カル区より少なかった。以上より、資材MおよびCの石灰質資材としての酸性矯正効果は、炭カルに比べて緩効的であった。

4.資材Mの肥料的効果

 資材Mは、窒素、C/N比、リン酸、カリウム含量が一般的な堆肥とほぼ同等であったことから、堆肥と同様に1t、2t/10a施用した場合の肥料的効果を検討した。資材M施用(M1t、M2t区)によるキャベツの収量や養分吸収量は、牛ふん堆肥区(堆肥1t、2t区)とほぼ同等であった。したがって、資材Mを施用する際には、一般的な堆肥に対する「北海道施肥ガイド」の基準に従い、窒素とカリを減肥する。

5.資材MおよびCの施用方法

 以上より、資材MおよびCは緩効的な石灰質資材として使用することがのぞましい。両資材の施用量は、施用次年度以降に必要以上に土壌pHや交換性カルシウムが高まることを回避するため、アルカリ分換算で必要とする炭カル量と同量(現物換算で資材Mが2倍量、資材Cが1.4倍量)が妥当である(図3)。例えば、炭カル200㎏/10aの施用を資材MあるいはCで代替する場合、資材MおよびCの施用量は、それぞれ400および280㎏/10aとなる。

6.留意点

(1)石灰質資材として扱うが、酸性矯正能は緩効的である。
(2)施用前の土壌pHが6.5以上の時は施用しない。
(3)両資材ともブロードキャスタによる散布が可能である。

第11回新技術発表会トップへ


ネギ葉枯病の発生生態と総合防除対策

北海道立道南農業試験場 研究部 病虫科

1.試験のねらい

 ねぎ中心葉の黄化症状による著しい商品価値の低下が道内各地で多発している。この原因を解析した結果、従来から発生が知られていた葉枯病の新しいタイプの病斑であることが明らかとなったため、葉枯病の防除対策試験を行った。

2.試験の方法

(1)発生実態と被害:道内における本病の発生実態および被害を把握する。

(2)発生生態:本病の発生生態を解明する。

(3)薬剤防除対策:有効薬剤を探索するとともに、薬剤散布体系を確立する。

(4)耕種的防除対策:品種間の発病差異および施肥量・土壌pHと発病の関係を解析する。

(5)総合防除対策:品種選択+薬剤+適期収穫

3.試験結果

(1)発生実態と被害
 斑点病斑が出荷葉にまで発生することはまれであり、本病斑の発生により収量が減少することはなかった。また、本病斑は、主にべと病の病斑上に二次的に発生した。
 黄色斑紋病斑は出荷調製により発生程度を軽減できず、発病が直接被害につながることが明らかとなった。
 本病は全道のねぎ主要産地で広く発生していた。2007年の調査では規格落ちとなる黄色斑紋病斑の指数3以上の株率が10%を越えた圃場は全体の約1/3にあたる11圃場であった。
 黄色斑紋病斑の発病度は9月中旬~10月上旬に最も高くなり、降雨および収穫遅れで発病が増加する傾向が認められた。

(2)発生生態
 黄色斑紋病斑の発生好適温度は15~20℃で、生育の進んだ株ほど発生しやすい。
 分生子飛散数は8月以降増加し、9月にピークをむかえ、10月も高い水準で推移した。
 本菌は、道内の露地で越冬可能であった。

(3)薬剤防除対策
 シメコナゾール・マンゼブ水和剤、TPN水和剤F、アゾキシストロビン水和剤Fが本病の斑点病斑および黄色斑紋病斑に対して防除効果を示した。また、べと病、さび病に対する防除効果も評価した。薬剤散布により先枯れ病斑の発生は軽減されなかった。
 上記3病害の発生を考慮した薬剤散布体系を構築し、体系散布により黄色斑紋病斑の指数3以上の株率を10%以下に抑制できることを確認した。

(4)耕種的防除対策
 黄色斑紋病斑の発生程度は「秀雅」<「白羽一本太」<「元蔵」=「北の匠」の順であった。
 本病は窒素の増肥および土壌pHの低下により発病が助長された。

(5)総合防除対策
 品種選択、薬剤の体系散布、適期収穫はそれぞれ発病軽減効果があり、これらの組み合わせにより、黄色斑紋病斑の発病度を対策を講じていない区の1/20程度(64.7→3.3)に軽減できた。

 以上よりネギ葉枯病の防除対策をまとめた。

用語解説

○葉枯病 
 ┌褐色楕円形病斑 ┬先枯れ病斑
 │        └斑点病斑
 └黄色斑紋病斑

 葉枯病の病斑のうち、外葉に発生する褐色の病斑を褐色楕円形病斑、中心葉に発生する黄色病斑を黄色斑紋病斑と呼称。さらに褐色楕円形病斑は、葉先に発生するものを先枯れ病斑、葉の中央に発生するものを斑点病斑と呼称した。

第11回新技術発表会トップへ


アカヒゲホソミドリカスミカメの性フェロモントラップを用いた斑点米の要防除水準

北海道立道南農業試験場 研究部 病虫科
北海道立中央農業試験場 生産環境部 予察科
北海道立上川農業試験場 研究部 病虫科

1.目的

 道南農試で平成17年にアカヒゲホソミドリカスミカメの性フェロモントラップを開発したが、トラップは簡易性や調査精度が高いなどの特徴を有している。そのため、本トラップを利用して、様々な栽培環境、品種、防除など各地域の条件に対応する要防除水準を設定し、簡便な斑点米防除の要否判定のためのモニタリング法を確立する。

2.試験方法

(1)トラップの特性、設置法の検討

(2)要防除水準の設定:無防除圃場でのトラップ捕獲虫数と斑点米率の関係の調査(3場)

(3)要防除水準の適用性の検討(場内圃場)

3.試験結果

(1)徐放性誘引製剤と捕獲部分が網円筒からなる性フェロモントラップ(以下、トラップ)は、長期間にわたり安定した誘引捕獲性能を示す。

(2)トラップは、概ね半径30mの範囲の虫の発生を捉えていた。

(3)トラップは、同一防除の区域(1~10ha)に外周部から30m以上水田側に入った細い畦畔沿に少なくとも3基を設置することで、水田での発生密度を安定した精度で捉えることができる。

(4)トラップ捕獲虫数は、すくい取り法での捕獲虫数の約3~5倍を示し、虫の検出性能が優れた。

(5)本カメムシの要防除水準は、出穂後30日間の水田トラップ捕獲虫数と斑点米率の関係から設定される(図1)。この積算虫数を1日当たりに換算し、防除間隔の7日間で積算した値を防除要否の基準とする(表1)。斑点米率0.1%以下(1等米)に抑えるには、7日間の捕獲虫数が「ほしのゆめ」ではトラップあたり1.2頭、「きらら397」で同2.2頭が防除要否の目安となる。

(6)斑点米率0.1%以下にするための7日間のトラップ捕獲虫数の防除要否の基準に従って追加防除を行うと、「ほしのゆめ」および「きらら397」で斑点米率が0.1%となり(表2-1、2-2)、防除への適用性が確認できた。

(7)本カメムシのトラップ捕獲虫数による追加防除の要否判定の手順は、表3に示した。これにより斑点米の適正防除を行う。

4.成果の活用面・留意点

(1)本成績の要防除水準の調査には、すでに開発している性フェロモントラップ(平成17年研究参考)を用いる。

(2)性フェロモントラップによる要防除水準は、各地区の防除組合および各農家が実施する斑点米防除に活用する。

(3)性フェロモントラップは、地域の広域的な発生状況の把握に活用できる。

第11回新技術発表会トップへ


みずな直播・小株栽培注1)の栽培体系

北海道立上川農業試験場 研究部 畑作園芸科
北海道立花・野菜技術センター 研究部 栽培環境科

1.試験目的

 近年栽培が急増しているみずなについて、直播・小株栽培を対象に、施肥量、品種、栽植密度とみずなの硝酸含有量との関係を調査し、硝酸含有量注2)を考慮した栽培体系を確立する。

2.試験方法

(1)適正な施肥量の設定

 1)場内試験
 場所:上川農試ハウス(窒素肥沃度水準I注3))、処理:窒素施肥量0~18㎏/10a、作型:春まき(5月上旬播種)、夏まき(同7月上旬)、秋まき(同9月中旬)、品種:京みぞれ、早生千筋京水菜、栽植密度:畝幅20㎝×株間7.5㎝

 2)現地試験注4)
 場所:生産者ハウス5か所(窒素肥沃度水準I~V)、処理:窒素施肥量3~24(慣行施肥)、9または10、6、0㎏/10a、播種期:4月下旬~9月中旬、試験数:延べ22

(2)硝酸含有量の品種間差
 場所:上川農試ハウス(窒素肥沃度水準I~II)、作型:夏まき、秋まき、施肥量:N 9~12-P2O5 9~12-K2O 9~12㎏/10a、品種数:11、栽植密度:20cm×7.5cm

(3)栽植密度が硝酸含有量に及ぼす影響
 場所、作型、施肥量:(2)と同じ、処理:畝幅20cm×株間10、7.5、5cm、15cm×7.5cm品種:京みぞれ、京しぐれ、早生千筋京水菜

 なお、収穫はいずれも草丈40~45㎝に達した時期を目安とした。

注1)直播栽培で、草丈35~46cmを目安に収穫し量目200g・1袋3株以上で出荷、草丈32~52cmを目安に収穫し量目200または300g・1袋2~6株で出荷、およびこれに準ずる栽培・出荷体系を「直播・小株栽培」とした。

注2)「硝酸含有量(ppm)」は、作物体の硝酸イオン濃度(mg/kgFW)を示す。

注3)窒素肥沃度水準:図5参照

注4)現地試験の慣行施肥区は実態調査を兼ねる。

3.試験結果

(1)実態調査の結果、みずなの硝酸含有量は4,416~11,308ppmの範囲、全平均は8,595ppmであった。窒素肥沃度を考慮せず作付けごとに一定の窒素施肥を続けた結果、作付けを重ねるにつれて収穫時の土壌の硝酸態窒素量が増加し、みずなの硝酸含有量が高まる事例が見られた。

(2)収穫時の土壌の硝酸態窒素量とみずなの硝酸含有量との関係より、みずなの硝酸含有量を低減させるためには収穫時の土壌の硝酸態窒素量を減少させるべきであり、窒素を過剰施肥しないことが必要である。

(3)窒素肥沃度水準Iの場内での窒素施肥試験の結果、総収量と窒素吸収量は窒素施肥量12kg/10aで概ね頭打ちとなり、収穫時の土壌の硝酸態窒素量は15kg/10aで急激に増加した。このことから、窒素肥沃度水準Iにおける適正な窒素施肥量は12kg/10aと考えられ、その際のみずなの硝酸含有量は7,573ppmであった。

(4)現地施肥試験における総収量、みずなの硝酸含有量、土壌からの窒素供給量等を勘案して、窒素肥沃度水準II~Vにおける適正な窒素施肥量をそれぞれ9、3、0、0kg/10aとした。

(5)場内窒素施肥試験などでの、生育状況、みずなのリン酸・カリ吸収量、栽培前後の土壌の有効態リン酸・交換性カリの変化に基づき、リン酸施肥量を年の1作目10kg/10a、2作目以降は5kg/10a、カリ施肥量を12kg/10aに設定した。

(6)各品種の硝酸含有量に統計的に有意な差異は認められず、各品種の生育速度、平均一株重、葉色と硝酸含有量との間にも明らかな関係は認められなかった。また、栽植密度がみずなの硝酸含有量に及ぼす影響に一定の傾向は認められなかった。以上のことから、品種選定や栽植密度の設定によりみずなの硝酸含有量低減を図ることは難しいと考えられた。

(7)以上により、硝酸含有量を漸減させるみずな直播・小株栽培の栽培技術体系を示した。

第11回新技術発表会トップへ


大豆「タマフクラ」のえだまめ用途の可能性

渡島農業改良普及センター本所

1.背景と目的

 平成19年に育成された大豆品種「タマフクラ」は、道南が栽培適地とされる極大粒品種であり、道南地域の特産品として期待が高まっている。「タマフクラ」の極大粒を活かした消費形態の一つにえだまめがあげられることから、「タマフクラ」のえだまめ用途の可能性を探るため、食味に関与する遊離アミノ酸含量(以下アミノ酸含量とする)に着目し検討した。

2.調査方法

(1)貯蔵条件が食味におよぼす影響
 供試品種:「タマフクラ」「在来品種」
 えだまめを適期収穫し、各品種収穫直後、および「タマフクラ」は1日室温、2日室温、2日冷蔵で貯蔵した後に食味評価を行った。
 食味評価は、沸騰水で4分間茹で余熱が取れた段階で行い、パネラー19名が総合的に判断した。

(2)貯蔵条件がアミノ酸含量に及ぼす影響
 供試品種:「タマフクラ」「サヤムスメ」
 貯蔵条件は、莢もぎ、枝付きともに、常温(26℃)1日、冷蔵(5℃)1日とした。
 アミノ酸分析は、試料を液体窒素で瞬間凍結した後、日立835型アミノ酸自動分析計で分析した。

(3)収穫時期がアミノ酸含量に及ぼす影響
 供試品種:「タマフクラ」「サヤムスメ」
 えだまめを、トンネルマルチ作型は8月6日、露地マルチ作型は9月25、29日、10月3、8日に採取し、アミノ酸含量を分析した。分析方法は2)と同様とした。

(4)1莢内粒数がアミノ酸含量に及ぼす影響
 粒莢と2粒莢を区分し、アミノ酸含量を分析した。分析方法は2)と同様とした。

3.調査結果

(1)食味評価は、「タマフクラ」の2日冷蔵保存の評価が高く、2日室温保存は低かった。「タマフクラ」と在来品種の収穫直後の評価は同じであった。

(2)貯蔵条件では、莢もぎのアミノ酸含量は、収穫直後と冷蔵では差が見られなかった。しかし、常温1日保存した場合、収穫直後に対し、3割までアミノ酸含量の低下が認められることから、内部品質の劣化が著しいことが推察された。
 冷蔵では、莢もぎ、枝付きによるアミノ酸含量の差は見られなかった。しかし、常温では、莢もぎと枝付きにおけるアミノ酸含量の低下程度に差が認められた。
 以上のことから、冷蔵によりアミノ酸含量の低下が抑えられ、常温におけるアミノ酸含量の低下程度は、莢もぎに比べ、枝付きが緩慢であることが認められた。

(3)収穫時期別の比較では、8月6日に収穫した「サヤムスメ」に対し、同日収穫した晩生品種「タマフクラ」は明らかにアミノ酸含量は少なかった。収穫時期を変え、9月25日からほぼ5日間隔で調査したところ9月29日をピークに減少した。
 9月29日収穫した「タマフクラ」と8月6日収穫した「サヤムスメ」のアミノ酸含量は同等であり、アミノ酸含量から見た「タマフクラ」の収穫適期が推測された。

(4)1莢内粒数から見たアミノ酸含量は1粒莢と2粒莢の差は見られなかった。「タマフクラ」は1粒莢割合が多く、現状の市場出荷規格では規格内収量が低い。したがって、莢に入ったえだまめとしての形状だけでなく、極大粒を活かした「むきマメ」としての利用も可能である。

4.今後の対応

 本調査を生産現場に繋げるとともに、道南地域で検討されている「タマフクラ」の商品開発に活用したいと考える。収穫適期の判断は、外観の他、消費者の嗜好特性(食味、香り)を考慮しながらさらに検討が必要である。

第11回新技術発表会トップへ


今金町における秋まき小麦の収量向上技術

檜山農業改良普及センター檜山北部支所
北海道立道南農業試験場 技術普及部

1.課題設定の背景

 今金町の馬鈴しょは他地区と比較すると、価格が高水準のため作付け割合が高く、近年農業所得を確保するため連作傾向にある 。このため、そうか病や障害いも等の連作障害の発生が顕在化している。これらの障害を緩和する方法として、秋まき小麦を導入した輪作体系が重要である。しかし、秋まき小麦は収量と品質の変動が大きく、上記の対策は積極的に取り組まれていない。
 そこで、秋まき小麦の低収・低品質の要因を解析し、土壌の化学性改善目標と栽培指標の策定ならびに生育期間の施肥量を検討した。

2.調査方法

(1)年次・品種:2007~2008年、「ホクシン」

(2)生育調査:2007年産13筆、2008年産22筆で実施した。起生期茎数、穂数、収量、窒素吸収量、子実のタンパク含量を調査した。

(3)土壌化学性:2007年産36筆、分析項目は表1に示した。秋まき小麦収穫後 (7月下旬~8月上旬) に1地点5カ所で0~20cm、20~40cm、40~60cmの深さで土壌をサンプリングした。

3.調査結果

(1)土壌の化学性改善目標
 土壌化学性を調査した結果、y1と収量の間には負の相関関係が認められ、y1が低いほど、収量が確保できる傾向にあった。また、y1が高いほど成熟期の窒素吸収量は低い傾向が認められた。したがって、馬鈴しょ栽培を考慮しy1は2.8~3.0、pHは5.8前後を目標とした。

(2)収量とタンパク値を確保できる栽培指標
 起生期の茎数が多いほど収量が多く、穂数が多い傾向が認められた。また、起生期の茎数や穂数が多すぎると、タンパク値を低下させることが確認された。目標の収量 (550kg/10a以上) とタンパク値 (9.7~11.3%) を確保できる起生期の茎数は1300本/m2、成熟期の穂数は850本/m2であった 。また、これらを確保できる根雪前の葉数は6~7葉で、播種から根雪前までの積算温度は580~600℃と推定した。この積算温度を確保できる播種日は、平年値から山間部で9月17~19日、平野部で9月19~23日と推定された。なお、播種量は150~175粒/m2(千粒重40g)が望ましい。

(3)生育期間の施肥量

 1)総施肥窒素量の設定
 総施肥窒素量が15~17kg/10aの時、収量およびタンパク値が最大となった。また、収量が最大となる成熟期窒素吸収量は15kg/10a程度であった。したがって、生育期間の施肥窒素量は15kg/10aと判断した。

 2)追肥方法の設定
 追肥時期と収量の関係を検討した結果、適期の追肥が最も多収を示した。また、タンパク値は起生期以降の施肥窒素量が6kg/10aで最大となったことから、起生期の追肥窒素量は6kg/10aが上限と判断した。一方、幼穂形成期の追肥窒素量が3kg/10a以下でタンパク値の低い事例がみられた。

4.まとめ

 以上のことから、今金町における秋まき小麦の安定多収栽培技術を以下に示した。
 目標の収量 (550kg/10a以上) とタンパク値 (9.7~11.3%) を確保するため、播種適期は山間部で9月17~19日、平野部で9月19~23日、播種量は150~175粒/m2(千粒重40g)、根雪前の葉数は6~7葉、起生期の茎数は1300本/m2、成熟期の穂数は850本/m2、総施肥窒素量の上限を15kg/10a、基肥4kg/10a (標準)を前提とした場合、各生育期節の追肥量は、起生期6kg/10a-幼穂形成期3kg/10a-止葉期2kg/10aが望ましい。

第11回新技術発表会トップへ


平成20年度の発生にかんがみ注意すべき病害虫

北海道病害虫防除所、道立各農業試験場 病虫科

1.試験目的

 平成20年度に実施した調査および試験研究結果から、特に留意を要する病害虫について注意を喚起する。

2.平成20年度にやや多~多発した病害虫

1)小麦:眼紋病

2)大豆:マメシンクイガ

3)菜豆:菌核病

4)ばれいしょ:疫病、そうか病

5)たまねぎ:白斑葉枯病

6)ねぎ:ネギアザミウマ

7)だいこん:軟腐病

8)りんご:モモシンクイガ、キンモンホソガ、ハマキムシ類

3.平成21年度に特に注意を要する病害虫

 1)てんさいの西部萎黄病
 平成20年に道東や道央を中心に十数年ぶりに多発し、減収した例もあった。過去の発生経過から、終息まで数年を要すると予想される。多発地域では保毒源の除去とウイルスを媒介するアブラムシの薬剤防除を継続する必要がある。

 2)いちごの炭疽病
 これまで道内ではColletotrichum acutatum が発生していたが、新たにC.gloeospolioides の発生が確認された。本菌は病原性が強く枯死に至りやすいため、定着するといちご生産を揺るがす大きな問題になる可能性が高い。道内での発生は感染苗の持ち込みが原因として考えられる。

 3)てんさいのアシグロハモグリバエ(図1)
 本害虫は、平成13年に発生が確認されて以降、主要なてんさい栽培地帯全域に発生が広まりつつある。葉に線状の潜葉痕と白色斑点の食痕が認められるが、被害を拡大させないためには、早期発見と効果的薬剤による防除が重要となる。道内では露地での越冬が困難なため、ハウス等の施設内で越冬・増殖していると考えられる。

 4)各種作物のヘリキスジノメイガ(図2)
 平成20年にこれまで農作物に被害を認めていないヘリキスジノメイガ幼虫による加害が道内で確認された。加害作物は豆類をはじめ広範囲に及ぶ。本種は局所的に高密度で発生する傾向が認められるため、越冬幼虫やその羽化成虫および新たな飛来成虫の発生に注意してほ場を観察するとともに、発生予察情報等を活用して、春以降の発生に注意を払う必要がある。

4.新たに発生を認めた病害虫

 1)ばれいしょの紅色斑点病

 2)ながいものカンザワハダニ

 3)ブロッコリーの株腐病(図3)

 4)ブロッコリーのピシウム腐敗病

 5)セルリ-の斑点病(耐性菌の出現)

 6)セルリ-の腐敗病

 7)ほうれんそうのヒメモグリハナバエ

 8)みつばの立枯病(図4)

 9)ねぎのアシグロハモグリバエ(図5)

 10)ねぎの黒穂病

 11)ねぎのリゾクトニア葉鞘腐敗病(図6)

 12)にらの褐色葉枯病

 13)にらの白色葉腐病(図7)

 14)ジャガイモYウイルス(PVY)によるピーマンのモザイク病

 15)いちごの炭疽病(病原の追加)

 16)オクラの灰色かび病

 17)オクラのヒラズハナアザミウマ

 18)サンダーソニアの条斑モザイク病

 19)ぶどうのオウトウショウジョウバエ

 20)ブルーベリーの灰色かび病

 21)ライラックのオリーブアナアキゾウムシ

 22)各種作物のヘリキスジノメイガ

 詳細ついては、北海道病害虫防除所のホームページでもご覧いただけます。

第11回新技術発表会トップへ